第17話 オフ会を主催しよう
ジュンは文学部で創作課程を選択しており、その修行の道場にとWEB小説サイトに投稿している。その投稿サイトにアップした小説をプロモーションするためにツイッターのアカウントを持ち、日々ツイートを繰り返している。
そんな中でオフ会をしようという誘いかけがあったのだ。
更にジュンはSNSを使っての店のプロモーションに関してはダメダメの
『ジュンさんの働くお店でやりたいですね』
本当は自分の私生活を必要以上に晒したくはないのだが、ジュンはルーシーの売り上げ倍増計画のために一肌脱いだ。
「マスター。全部で20人来ます」
「20人!」
ジュンの小説はPVも評価もレビューも極めて少ないが、響く人には響くらしい。
そして文学部のしかも純文学志向の学生らしく現実生活にリンクした私小説的な展開の作品を多作する傾向にあるためか社会人のフォロワーが多い。
だからどんなひとたちが集まるのか、ジュン自身楽しみにしていた。
それにルーシーを会合場所にすることで唐沢という『保護者』を絡めることもできる。大人として様々な経験や辛酸を一通りは舐めてきているであろう唐沢の関与はジュンにとっても安心材料だった。
日曜日当日の14:00。
「こんにちはー」
「あれ?
「わかってるよ。ふむ・・・わたしが一番乗りか」
「え?も、もしかして・・・」
「ぷぷ。ジュンってほんと鈍いねー」
「あ、ああっ!『Small Temple』さんってもしかして・・・」
「はっはっはっ。直訳の英語なのにほんとに気付いてなかったんだ」
「どうりで・・・いつもレビューのコメントがやたら辛口で分析的だったから」
「わたしだって文学部の末席を占めてるからね。妥協は許さないよ」
小寺もフォロワーのひとりでジュンの小説に極めて客観的なレビューをする真摯な読み手だったのだ。
しばらくして二番乗りが来た。
「こ、こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「あ。『ジュン』さん?」
「はい。もしかして、『クドー』さんですか?」
「ええ、そうです・・・」
「わあ!やっとお会いできました。いつもありがとうございます!」
「い、いやあ・・・僕の方こそ煮え切らない評価をいつもしてしまって・・・」
「いいえ!そんなことないです。クドーさんのコメントにはいつも励まされてます。それから、クドーさんの『灯台』の絵。わたし大好きですよ」
「いやあ・・・地味な絵ばっかりでね・・・」
その後も続々とフォロワーたちが集まってきた。
「やあ!キミがジュンちゃんだね!思ったとおりの美人さんだ!」
「ネイル・スムースさんこそ、こんな素敵なおねえさんだったなんて」
「いやいや、もはやオバさんさ!」
ルーシーの狭い店内がより一層狭苦しく感じられるぐらいの密集度だ。
唐沢が挨拶する。
「皆さん、今日は当店を貴重なオフ会でご用命くださり誠にありがとうございます。店主の唐沢でございます」
「あ、あなたが『カラキシ』さんですね?」
「はい?」
「ジュンさんが投稿してる『ジュン喫茶でコーヒーを飲もう』っていう連載小説のマスターですよね?流行にカラキシ、お金にカラキシ、恋愛にカラキシ、のカラキシさん」
「ジュ、ジュンちゃん!」
「ごめんなさい、マスター!」
唐沢とジュンがホスト役となってオフ会は和やかに進んだ。ジュンと小寺以外全員社会人でしかも極めて常識人ばかり。類は友を呼ぶ、の典型例のような集まりだった。
「あれ?全部で20人じゃなかった?ジュンちゃん、19人しかいないけど」
「はい。実は後一人が遅れてて」
「へえ。どんな人だい?」
「『殿下』と呼ばれています」
「殿下!?」
「はい。なんて言うか、発信する言葉は辛辣なんですけどよく読んだら深くて的を射ていて、ものすごくカリスマ性があるんです」
会が始まって一時間、SNSでのやり取りの話が一巡したところで、店に誰か入って来た。
どう見ても幼稚園児だ。
「あ、あれ?こ、ここは坊やのような小さな子が来るところじゃないよ?」
「無礼千万だな。貴様は誰だ」
「え、ええと・・・あれ?」
「貴様は誰だ、と訊いておるのだ。答えぬか!」
「は、はい!『ヘイタ』でございます!」
「ふん、ヘイタであったか。いい大人が自分から名乗れぬようでは間に合わぬ人材にしかなれぬぞ。恥を知れい!」
「で、『殿下』!」
「ふ。『ジュン』か」
「は、はい!殿下!お目にかかれて光栄に存じます!み、皆さん!殿下がご到着です!」
ジュンが皆に告げると殿下はガウンのように羽織っているスモッグを、ばあっ、と翻した。
「
殿下は自らの属性を披歴した。
全員がひれ伏さん勢いで『ご挨拶』を始めた。
「殿下、ご機嫌麗しゅう」
「ふ。ありがとう」
「殿下!お目にかかれて光栄です!」
「ふむ。ご苦労」
「殿下!先月第二子が生まれました。どうか殿下の祝福を」
「うむ。おめでとう」
「殿下・・・」
唐沢はその様子を見ていて『なんだこれ』と思った。みんなゲームのようにお遊びでやっているのだろうと思った。なので自分も面白半分に声をかけてみた。
「殿下・・・」
「こ、これ!店主殿!」
「へっ?」
さっき自分から名乗らなかったために叱責を受けたヘイタが唐沢に言った。
「我々は殿下をSNS上でフォローさせて頂く栄誉に預かるどこまで行っても忠実な殿下のフォロワーなのです。正規なフォロワーでない貴方が直接殿下に話しかけてはなりませぬ。口が曲がってしまいますぞ」
「はあ?」
「よいわ、ヘイタ」
「ですが、殿下・・・」
「この『カラキシ』とやらはジュンの書いている小説に出てくるキャラではないか。ならば知己も同然であろう。構わぬ、カラキシ。苦しゅうない。用件を申せ」
「は、はあ・・・では、何をお飲みになりますか?殿下」
「そうだのう・・・」
殿下、ご思案中。
「カラキシ、フルーツ・パフェのキウイ抜きをくれい。酸っぱいのは苦手での」
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