第3話 大学でコーヒーを飲もう

 ジュンは今日の授業は珍しく午後から。

 午前の前衛文学演習は担当教授が『第五回先端サイエンス・ノンフィクション小説コンテスト』の授賞式に出るために休講となった。本人の受賞ではなく、彼女は審査委員なのだ。


「ジュン、おひさー」

「あ、小寺こでらちゃん。おひさ」


 ふたりは午後の授業が始まる前に昼食を摂るためこの狭いキャンパスに唯一ある学生の餌場であるカフェテリアで向かい合って座った。


「ジュン。喫茶店のバイトはどう?」

「そうだね。まあ、静かでいいお店だよ」

「ふーん。流行ってないんだ。駅前なのにね」

「だってー・・・駅って言ってもウチの大学の学生しか利用しないでしょ、ほぼ」

「まあね。こんな東京の片田舎に高校もなけりゃ地味〜な大学の地味〜な文系キャンパスがあるだけだもんね」

「しかも小寺ちゃんはモノレール通学だから電車の駅には用なしだし」

「そう言わないでよー。女子としてはモノレールの方がなんだかいいわけさ」

「わたしだって女子なんだけどな」


 ジュンが膨れたところでちょうどメイン・ディッシュのパスタが尽きてコーヒーでも飲もうということになった。


「へへへ。わたしはこれ。小寺ちゃんもどう?」

「うわ・・・ジュン〜。いい加減家からインスタントのスティック・コーヒー持ってくるのやめなよー」

「えー。でもここのコーヒー美味しくないんだもん」

「スティックよりも?」

「うん」


 そう言ってジュンは小寺に3本のスティックを示して選択を促す。


「ほらほら小寺ちゃん。モカブレンド。キリマンジャロ。ブルー・マウンテン」

「えっと・・・」


 小寺はババ抜きのようにしてモカブレンドを抜いた。


「じゃあ淹れてくるね」


 ジュンがたたっ、と小走りでカフェテリアに備え付けのベンダーの紙コップをレバーで抜き取り、小寺のためにモカブレンドを、自分の分にはキリマンジャロを、さら、と流して熱湯ボタンを押す。

 出来上がった片手で持とうとすると熱が直に伝わるような廉価な紙コップを熱さの余りに握り潰さないように注意しながらテーブルにたどり着いた。


「ジュン。コーヒーの味って種類別に分かるの?」

「ううん。コーヒーはコーヒーだよ」

「いいの?そんなんで。一応本格純喫茶店なんでしょ?」

「でもアイスコーヒーは最初からガムシロが入ってるよ」

「・・・ん?」

「それでミルクは店員が入れるんだよ」

「どうゆうシステム?」

「そう言えば・・・アイスコーヒーを溜めてあるボトルって、取手の空洞のところまでコーヒーが満ちてたような気がするな・・・もしかして業務用のソースとか醤油の空きボトルを洗って使ってるんじゃ・・・」

「ちょっとちょっと」

「一度お店に来て?」

「いやだ」


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