第1部 魔王討伐世界救済編 3章
3章
教会から町に向かう道は主に馬車を利用するため舗装されきれいな一本道になっているのだがこの豪雨のせいなのか地面はぬかるみが生じとてもでは無いが酷く歩きづらい状態だった。
「くそっ! サラどこにいるんだよ!?」
頭の中にはサラの無事を祈ることと大事な思い出を昨日まで忘れてしまっていたことに対しての自分の不甲斐なさが混雑して思わず目頭が熱くなってしまっていた、それがこの天候の中もはや涙なのか雨なのか分からない状態だった。
ひたすら町に向かっている途中ついにサラが乗っていたと思われる馬車を見つけた。
そこには無惨にも喰い殺された馬の死骸とほぼ半壊状態の馬車があった。
「……サラ… 待ってろ今迎えに行く。」
舗装された道の端には何か大きな動物が荒らしたような跡が残されていた。この先にきっとサラがいる、その可能性があるというだけで再び俺はそのあとを頼りに走り出した。
その跡は道の端にある林の中に続いていた。それは入って間もない時だった。
「ぐあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
!!!!!!! 今の叫び声は聞き違えなくイデアの声だった。
そして林の少し奥に入ったところで俺は見てしまった。そこには噂通りの巨体の獣とその先には涙を流し怯えているサラとそのサラを庇ったのか左腕を負傷し頭から血が流れているイデアの姿があった。イデアが俺より先にサラのもとに着いていたことにも驚いたがまずはこの状況だ。こんな化け物は今まで見たことも無くましてや俺らみたいな子供に太刀打ち出来るはずが無かった。あのイデアでもこんな状況なのに俺が来たところでこの場を何とかする力があるはずもない。
「ジルド!! よく来た!! ここは俺が食い止めるお前はサラを連れて教会に戻るんだっ!!」
「なに言ってるんだよ!! サラとの約束があるだろうが!!」
イデアの無理した余裕っぷりに思わず怒ってしまった、今はそんな状況では無いはずなのに。
とにかくこの場を何とかしなくては二人が危険だ、とっさに果物ナイフを取りだし飛びかかった。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
「グルルルルルルゥゥゥ…!? バァウッッ!!!」
ーバッスゥン!!ー
俺の飛びかかった時の声でそいつは俺の気配に気づき反撃されてしまった。
奴の反撃を喰らったときあまりの強打に声も出ず俺は何が起きたのかも分からずとりあえず睨み付けていた。
「ジルド!! こいつは今までのようには行かないぞ!! お前までやられたら誰がサラを助けるんだ!! 頼むからここからサラと逃げてくれ!!」
確かにこのままでは3人とも終わってしまう、分かってはいるだけど友を置いていくなんて選択肢は俺の中には最初からあるはずない。俺は立ち上がり右手に持っている頼りない果物ナイフを構えてまた攻撃しに飛びかかった。するとその獣は右足を振りかぶったら何か衝撃波のようなものを出してきた。
ー!!!ー
その一瞬の光景に間一髪状態を無理矢理仰け反らせかわした。
「なっ、何なんだ今のは!?」
「ジルド! こいつは噂通りのただのでかい獣じゃない!! こいつは魔獣だ!!」
魔獣、それは古より魔界に生息されているという獣でまずこの聖界には生息しないハズなのだがその昔聖界と魔界を繋げてしまった聖魔界大戦の影響でほとんど道が閉ざされているものの偶然そのゲートが開いてしまうことで魔界の住人がこちらの世界に迷い混んでしまうケースがあるらしい。恐らくこの化け物もその類いであの森の奥深くに生息していたのだろう。
と、そんな悠長に分析している場合では無い。この場を打開するにはどうすればいいのかとにかく頭をフル回転するんだ。まずは二人を奴から少しでも離さないとまたイデア達が襲われたら次は無い。だとすれば注意を引き付けている今がチャンスだ。
周りに何か使えそうな物は…、あった、直接切りかかった攻撃が出来ないのならこの周りにある石を奴目掛けて当てればこっちに襲いかかって来るだろう!と思いすぐさま投げつけた。
すると4~5発目位に奴の左目に当たった。正直この時ヤってしまったなと思ってしまった。
当然の如く奴は怒りだしてこちらに向かって走ってきた。
「グアァウッ!!!」
その巨体からは想像出来ない俊敏な動きでギリギリのところを何とか回避できた。
「ジルドっ!! なにやってんだ!! お前正気か!?」
俺だって何であまり戦いとかやりたくないのにこんな大胆な事しているのか疑問に思ってもいる。下手したら今の一瞬で俺自身殺られたかも知れないのに。でも今はそんな事考えてる余裕はない、やってしまった以上ここは俺が奴をどうにかするんだ!
だがこの悪天候の中、体は冷えきっているうえに走ってきている分体力がかなり削られている。だんだん奴の動きも激しくなって避けるのも辛くなってきた。
そんな時だった、避けた時一瞬体勢を崩していまい、ぬかるんだ地面でそのまま転んでしまった。もうその瞬間ここまでかと諦めて目をぎゅっと閉ざした。
ーザシュッ!!ー
あの爪から繰り出される鋭い斬撃音が響いた、だが不思議な事に痛みを感じない。
恐る恐る目を開くとそこには自らの背を盾に俺を庇ったイデアが立っていた。
「イデアっ!!!!」
そのまま俺に向かって倒れこむイデアを抱き抱えた。
「バカ野郎っ! 何で俺が必死に引き付けたのにお前ら逃げなかったんだよ!?」
「へへっ、俺もお前に逃げろって言ったのに…お前逃げなかったろ? たぶん俺もっ…お前と同じこと考えたんだろうな…。」
その言葉と言い切ったと同時にイデアは目をゆっくり閉じた。
そうしている間にも奴はまた襲いかかって来そうな体勢に入った。
「いい加減にしやがれ……、」
そう言って俺は負傷したイデアをそっとその場に寝かせた。
「イデア、もう少し待ってな…、今終わらせてやるから…っ!」
するとだんだん目が熱くなったような感覚がしてきた、もちろん今は泣くようなそんな情けない感情は一切無い。大切な友を無情にも傷つけたあの魔獣が憎くて仕方ないほどの怒りが溢れ出た。
「グゥゥゥゥ…ウグァァァァァァ!!!!」魔獣が狙いを定めこちらに飛びかかって来た。
? あれなんかおかしい…さっきまで目で追いかけて避けることに精一杯だったのに魔獣がゆっくり動いているようにも見える。そして何より不思議に感じたのが今の俺に避けるという選択肢が無いことだ。今俺が思っていることはただ1つ、この図体のでかいわんこを徹底的に潰すことだ。
そんな暴力的な思想の中、気付いた時には魔獣の突進を左手1っ本で頭押さえて止めていた。
よく見ると左手の甲には見たこともない謎の紋章が浮かび上がっていた、何なんだこれはと考えている内に左手から何か熱いものを感じた。その感覚がきて間もなく左手から何か魔方陣のようなものが出てきた、そして…
ーブォォォォォォォォォワァァァァァァァァァァ!!!ー
いきなり爆発と思うくらいの巨大な炎が左手から出てきた。炎は左手で押さえ込んでいた魔獣を包み込んでいき、やがて炎が消えためのまあ頃にはそこに居たはずの魔獣の姿は跡形なく消えていた。
ふと我に返ったとき足元の水溜まりに視線を傾けた。そこには鮮やかな赤い色の目をした自分がうつっていた。その姿を目にした時自分に一体何が起きているのだと思うこと無く目の前が暗転していき意識を失った。
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