女僧侶は恋心を自覚する

「マーシャ…その髪…」

エアルは少し会わない間に髪をはやしていたマーシャを見て、困惑した。

「あはは…もう剃るのも面倒になりましたし…伸ばすようにしました。それに私も女の子ですので…おしゃれぐらいしますよ。」

マーシャは恥ずかしそうに作り笑いをして、横髪に手をやりながらエアルに返した。

だが、その心は…

(あーもー…エアルさんと話すとドキドキするし…何で嘘ついちゃうかなー…私)

母親に与えられた聖水で髪が伸びてしまったとは、どうしても言いづらかった。

「そっか、中々可愛くなったじゃん」

「ふぇっ!?」

エアルに可愛くなったと言われて、マーシャは素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ところで、そちらの2人は…?」

やっとマーシャはサムソンとスズネの存在に気付いた。


そして、マーシャとサムソン、スズネは簡単に自己紹介をした後、今回の依頼内容を確認した。

つい最近、闇の武闘家の者数名が冒険者達によって捕らえられたが、それらの者達を尋問した結果、恐るべき犯罪行為が発覚した。

鍛冶屋と薬屋を誘拐してアップルR-12と、城塞都市オレンジG-07の中継地点近くの山中の道場の一室に監禁されているとの事。

直ちに、誘拐された鍛冶屋と薬屋を救出せよという依頼だった。


「鍛冶屋と薬屋か…」

エアルは思わずそう呟いて、自分に後の処分を一任されていたクリス達が持っていた闇の職人の武具を荷物袋から取り出して見つめていた。

エアル達に新たな「仲間」との出会いの運命の予感が僅かに訪れていた。


そして、エアル達4人は鍛冶屋と薬屋が誘拐されているという山に入った。

そこには、やはり闇の武闘家達と、それだけでなく、武器を持った匪賊達も待ち構えており、エアル達を見るや、襲い掛かってきた。

「うおああああああああっ!」

「はいやーっ!」

エアルとスズネはその拳と蹴りで闇の武闘家と匪賊の軍団を蹴散らしていく。

「眠れよ、怒れる者よ…スリープ!」

サムソンが眠りの呪文を唱えて、匪賊や闇の武闘家達を眠らせて、無力化させていく。

「水の女神アクレリアスよ…さらなる加速を…」

マーシャは今回も後方で加速の奇跡でエアルとスズネの速度を上げ、敵を蹴散らす力を与える補助と、仲間が負傷した際の回復に専念していた。


…だが…!

「調子に乗るなよ!!」

後方支援に集中していたマーシャの背後から闇の武闘家の1人が襲い掛かり、マーシャに拳を振り上げた!

「危ない!」

エアルが咄嗟に気づいて後方に戻り、マーシャを背後から奇襲した闇の武闘家を殴り飛ばした。

「あ…ありがとうございます。エアルさん」

「別にいい、仲間を、ましてや女の子を守るのは当然の事さ」

そんなエアルの雄姿を目の当たりにして、マーシャは思い返した。


お母さまは髪を生やした私を見た直後、その心が殿方への恋心だと仰った。

ああ…私はこの人が…エアルさんが本当に好きなんだ。

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