第18話 やっぱりコボルトでしょう
はぁ……。
僕は、馬車に揺られながら小さくため息をついた。
朝ガーナラルドは、見張りの二人と一緒に迎えに来たんだ。そして四人で馬車に乗り、遠くの街まで行くことになった。
この馬車は、ダンジョン行きではないので有料だ。昨日稼いだお金は吹っ飛び、ガーナラルドに借金をして移動する事になった。
なぜにガーナラルドに付き合って移動するのに、彼にお金を借りなければいけないのか……とほほ。
まあガーナラルドもこのお金は、稼いで王様に返すと言っていたけどね。
ガーナラルドは、昨日言っていた様に僕と同じ服装だ。最初に支給されるダンジョンハンターの服。それにリュックに剣。見た目は、僕と同じ普通のダンジョンハンター。
一日掛けて、馬車で移動って気合入っているよなぁ……。
次の日、ダンジョン行きの馬車に乗り替え移動。これも半日。ずっと馬車に乗っていたので、お尻が痛い。
ダンジョンに着いたはいいけど、なんか移動だけで疲れちゃったよ。
見張りの二人は、先に建物へと入って行った。
「私達も行こう」
「あ、うん」
大丈夫だろうか。僕達がこれから倒すモンスターはウルフ。素早いモンスターだ。
どうやら王様から条件が出されたようで、このモンスターに決まった。
手続きを終え、一旦僕達二人で入ってみようとなったんだけど……。
「うわぁ!」
凄く速く感じる! 素早さ30は必須って書いてあっただけある。自分と同じだけの速さがあるから気を抜けない。
素早さは僕と変わらないガーナラルドも大変そうだ。
って、ガーナラルドの後ろからウルフが襲い掛かる!
「ガーナラルド! 後ろ」
ハッとしてガーナラルドは振り向いた。
「殿下!」
ジルさんが、ウルフを斬り倒し、ホッと胸を撫で下ろす。
どうやら素早くて、ガーナラルドも苦戦しているようだ。
「余計な事をするな!」
「しかし、大怪我をしたかもしれません」
「攻撃を食らわなくては、HPが増えないのだぞ? あなた達がそうしていると、私が強くなれない!」
「何を言います。怪我ですまないかもしれません。もう意地を……」
「意地? そんな事でダンジョンハンターになったのではない! それに怪我ですまないかもなど言っていたらダンジョンハンターなどやっていられないだろう!」
やっぱりガーナラルドは、王族らしくないかも。守れじゃなくて、守るなと言っている。ジルさん達も大変だな。
「うん? ぎゃ~!!!!」
めちゃくちゃ痛い! 気がつけば、左腕に噛みつかれていた。
慌てて剣でウルフを刺せば消滅したけど、左手からは血が滴っている。
痛いと言うより、自分の出血に酔った。つまり、大量な血を見て気持ち悪くなった……。
「クラド!」
ガーナラルドの叫び声が聞こえ、僕は誰かに支えられた。
□
あれ? ここは?
「大丈夫ですか?」
「………」
あ、受付のお姉さん。
という事は、ダンジョンの外。
「よかった。すまなかった。自分の事ばかり考えて、君の事をきちんと把握していなかった」
ガーナラルドは、目を覚ました僕にそう言った。
「しかし、手を噛まれただけで気を失うとは……」
アルラダさんが、情けないという顔つき言う。
「す、すみません。血を見たら気持ち悪くなって……」
「出血が多くて気を失ったようです。ウルフは牙が鋭いので噛まれると傷が深くなり、大量出血が起きる事があります」
そう言われ、そっかと僕は頷いた。
血を見て具合が悪くなったんではなくて、出血がひどかったのか……。
「ごめん。ガーナラルド。ちょっとボーっとしていたら噛まれちゃった」
「ボーっとって……大丈夫か? ダンジョンを移るか?」
凄く心配そうにガーナラルドが言った。
王子に気遣ってもらってるよ、僕。
「できれば、そうしたいけど。そっちは大丈夫なの?」
王様と約束したんじゃないのかな?
「あぁ、問題ない。この地域にもコボルトダンジョンがあるようだからそこに行こう」
「ありがとう」
「そうですね。小手を手に入れてからの方がよさそうだ」
ジルさんに言われて、僕達は頷いた。
結局、倒すモンスターはコボルトのまま。でもコボルトなら10階までは大丈夫なのは実証済み。
また僕らは、馬車に乗って移動した。
この地域のコボルトダンジョン前にある建物はでかかった。
さっきのウルフの建物も大きかった。ウルフだからかと思ったけど地域による差かもしれない。僕が住んでいた地域は人口が少なかったんだろう。
この建物は二階建てだよ。
「ここの二階は、初心者用の素泊まり出来る休憩室になっております。パーティー募集もあるようですので、ここで仲間を探してはいかがでしょうか」
ボソッと、ジルさんがガーナラルドの横に来て言った。
「そうだな。そうしてみる」
ガーナラルドが歩き出したのでついて行くと、パーティー募集の掲示板だ。
「ほとんどが、条件つきだな……」
ガーナラルドが呟く。
そうほとんどが、腕力の下限つき。なので僕の腕力で弾かれてしまう。
「あった……」
ピッと、貼ってあった紙をはがし、僕に見せてくれた。
相手は男女の二人組のパーティーらしい。腕力162と171……。
「僕で断られそうだんだけど」
「いや、他のを見るとそうでもないな。最低180とかあるからな。それに入れないから、こうやって募集を掛けているのだろう」
つまり自分達より低くてもいいから仲間が欲しいって事か。でもきっと、限度あるよなぁ……。
「そうだ。私の呼び名だがガーナラルドだと素性が知れるだろうから、ナラルドでお願いしたい」
「呼びづらいなぁ。ガーナじゃだめ?」
「女みたいな名前だろう」
凄く嫌そうな顔つきをされた。よっぽど嫌らしい。
「わかりました。そうします」
「宜しく頼む」
頷くと、ガーナラルドはカウンターに紙を持って行った。二人を呼び出してもらう為だ。
怖い人ではありませんように。
「あの、ボルドリアとマリーです」
「こちらの二人です」
カウンターのお姉さんが、カウンターの前で待っている僕達を指差した。
彼らが、募集を掛けていた二人の様だ。
肩より少し長い髪を後ろで一本に結って一瞬女かと思うような髪型の緑色の髪の少年と、淡いピンクの髪を両肩で三つ編みで縛った少女。僕らと歳は変わらなそうだ。
「はじめまして。俺はボルドリア。彼女はマリー」
「わた……いや俺はナラルド。彼はクラドだ。宜しく」
ガーナラルドの紹介で僕は軽く頭を下げた。
よかった怖くなさそうだ。
「よかったよ。二人だと30階まで行けなくてさ」
30階!?
僕は、チラッとガーナラルドを見ると、頷かれた。
それって問題ないって事? いやあるよね?
「二人は、何階まで行った事あるの? 俺達は25階でいつもやめてるんだけど」
「実は俺達は、ダンジョンハンターになったばかりで、10階までしか行った事がないんだ」
正直に言っちゃうんだ……。
「え!? 本当の初心者?」
「我々の地域で同じ誕生だったのが彼だけで、こういう掲示板もないところだった」
「あぁ……。それで違う地域のこっちに出て来たんだ。じゃ、今日は行けそうだったら下の階に行ってみるって事でいい?」
「それで構わない。クラドもそれでいいか?」
「え? ……うん、まあ」
一人嫌だとだだをこねても仕方がないし。たぶん彼らとしか組めそうもない。
僕達は、手続きを済ませダンジョンへと向かう。
腕力を聞かれなくてよかったぁ……。
英雄になんてなりたくないから! すみ 小桜 @sumitan
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