第16話 サーチ持ちの存在価値

 ふう。疲れたな。

 ゴブリンを倒し、魔石を拾いながらそう思った。


 あれから10階に降りて来て、ずっとゴブリンを倒している。少し休みたい。


 「ねえ、少し休みませんか? 僕、疲れたんだけど」

 「そうだな。そうしよう」


 よかった。ガーナラルドが座った横に僕も座る。

 水筒の水を飲み一息ついた。


 「いつまで倒すの?」

 「そうだな。普通は、半日以上はダンジョン内にいるらしいからな」

 「え? そんなに?」


 どこまで下に行ってるんだろう?


 「ほとんどの者は、モンスターを倒せる階でずっと、我々の様に倒しているんだ」

 「もしかして、ノルマってそんなに大変なの?」

 「ノルマ……あぁ、そうだったな。そういう制度が出来たんだった」

 「え? 昔はなかったの?」

 「あぁ。なかった。我々が何の為にダンジョンに入りモンスターを倒している?」

 「え?」


 いきなりなんでそんな質問を。


 「ダンジョンが増えない様に、モンスターを減らす為ですよね」


 それぐらいは知っている。


 「そうだ。だが、モンスターの数が減るより増えていけば、ダンジョンが増え続ける。ダンジョンハンターになれる者は、選ばれた者だけ。つまり、人数が決まっている様なものだ。ダンジョンが増えたからといって、ダンジョンハンターを増やせるわけではない。そうなると、一人で倒すモンスターの数を増やさないといけない」


 なるほど。公平にするのにノルマ制にしたのか。


 「でもなんで、最初の階のモンスターっていなくならないの?」


 一番倒されているような気がするんだけどなぁ。


 「一説によると、下の階にいるモンスターの魔石がこれ以上大きくなれないほどになると、新たな魔石……つまりモンスターが生まれる。それが、一番空いている階に増えると言われていて、階によって魔石の大きさに上限があるようだ」


 うん? 魔石って大きくなっていくって事?


 「まあ仮説だが、同じモンスターでも強さが違うのは、魔石の影響だと言われている。強さの制御が魔神様によってされているって事だろうな」


 うーん。放っておくと、魔石が大きくなっていき、強くなるって事? それにも上限があるのか。でも強さって変わっている様に感じないけどなぁ。


 「同じ階でも強さにばらつきがあるって事だよね?」

 「そうだ」

 「ばらつきってあった?」

 「上の階は微々たるものらしいからな。差が大きくなれば、目に見えてわかるようになるだろう。英雄スキル持ちでない者は、どんなに頑張っても50階までしか行けないと言われている。普通は30階でモンスターを倒しているらしい」


 うん? ダンジョンって何階まであるの? というか、ダンジョンを消す事って出来るの? 全部倒さないといけないのではなかったっけ……。


 「もしかして、ダンジョンって消滅させる事って出来ないの?」

 「不可能ではない。英雄と言われる者達は、実際にダンジョンを消滅させる事に成功しているのだからな」

 「え!? モンスターを全部倒したの?」

 「いや、ダンジョンのボスが存在するらしい。そのモンスターを倒すと、ダンジョンは消える。だがそのボスは、51階以下に出現するらしい。この意味わかるか?」


 うーん。英雄スキル持ちしか行けないって事だろうか?


 「まず、ほぼ無傷でその場所までいかなくてはボスなど倒せない。少なくとも、回復手段など必要だろう。また数日ダンジョンにいる事になるので、食料の確保も必要だ」


 あ、そっか。そういう事も必要なのか。


 「ボスを倒しに行くのも大変なんだね」

 「いる場所がランダムらしいからな。それこそサーチがないと、探し出すのも大変だろう」


 それもそうだ。サーチがないと探し回らないといけないもんね。


 「わかっていないみたいだから言うが、サーチを持った者は、戦いのスキルや魔法を持ち合わせていない。だから連れて行く場合は、その者を守りながら進む事になる」

 「あ、そっか!」

 「我々は、地図があるから魔法陣まですぐに行けるが、この地図だって先人達が残してくれたモノだ。ボスを倒しに行く者達は、サーチする者がいなければ、魔法陣も探さなければならない。それだけサーチ持ちは、必要な人材なんだ」


 でも数が限られている。なるほど、そのサーチを僕が使えるかもしれないのか。


 「まだわかってないか……」

 「え? 何が?」

 「だから君のスキルが英雄スキルだと言う事だ」

 「サーチを覚えるからでしょう?」

 「そうだ。だがそれだけではない。戦えてサーチを扱える者だ。あの二人は、消え去るなら意味がないと言ったが、サーチを使える本人が戦えるのは大きい。その者が死ねば、ボスに辿り着く事が困難になるからな」


 そっか。そう考えると、このスキルって凄いのか……。


 「ねえ。僕のスキルの事って知れ渡っているの? あの人達、知っていたけど」

 「知れ渡っているわけではなく、報告を受けたのだろう。私と一緒に居る者だから調べもする」

 「そっか。よかったぁ」


 今更だけど、知れ渡っていたら英雄を目指す者達に連れ回されそうだ。


 「私と居れば、変なやつらも声を掛けてこないだろう」

 「え? 一緒にいるのって僕の為?」

 「……いや、国の為だ」

 「え? 国?」


 大きく出たなぁ……。さすが王族。


 「私は、君とは逆な考えを持ってダンジョンハンターになった」

 「はあ。それは前に聞きましたけど? 英雄になりたいのですよね?」

 「英雄になりたいと思ったのは、色々文献を読んだからだ。それまでは君と同じで、ダンジョンハンターになるのが怖かった」

 「え? そうなんですか?」


 そうだとガーナラルドが頷いた。


 「前に話したが、兄上達がスキルなどを授からなかったから一番上の兄上が王位を継ぎ、二番目の兄上が補佐をする。それが私の鑑定を待たずに決まったからな。なので私は、ダンジョンハンターとして選ばれなくてもいらない存在だったのだ」

 「え?」


 王族って、家族愛とかないの? 義務だけで産んでるの?


 「勘違いするな。普通と少し違い特別だけど、ちゃんと愛情は注いでもらっていた。その時、そう思ったという事だ。違うと今はわかっている」

 「よかったぁ」


 まあそうじゃないと、ひねくれた王子になっているよね? どちらかというと、僕がひねくれ者なのかもしれない。

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