第15話 助言頂きました

 どどど、どうしよう! そうだカウンターの人に……。


 「クラド! 大丈夫か?」

 「え? ガーナラルド! よかった。無事に戻ってきた。誘拐されたかと思ったよ」

 「誘拐? 何を言っている。そんな事出来る訳ないだろう。必ずここに飛ばされるのだから」

 「あ……」


 そうだった。ダンジョンから出たらここにワープしてくるんだった。

 誘拐は無理だ。でも無事でよかった。しかしなんで、あんな事を……。


 「失礼をした。こうするしか殿下をお止できなかったので、少し乱暴になった」

 「え? もしかして下の階に行かせない為?」


 僕がそう言うと、ガーナラルドと一緒に戻ってきたダンジョンハンターの二人が頷いた。

 なるほど、僕がいなくなれば下に降りる事はないもんね。

 でもそう言ってくれれば、自分で外に出る魔法陣で出たのになぁ。


 「少しお話を宜しいでしょうか?」


 僕達に鋭い視線を向けて、水色の髪の男の人が言った。柔らかな水色の瞳なのに、なぜか凄く鋭い視線だ。


 「は、はい」


 僕の声は、上ずった。


 「心配するな。父上がよこした者達だろう」

 「あぁ、王様の……え!? 王様がよこしたの?」


 やばい。王様に僕、目をつけられちゃったって事?


 「あのな……私の監視役だ」


 あ、僕また顔に出てました?

 こほんと黒髪の監視役の人が咳ばらいをして歩き出すので、ついて行く。


 建物の奥には、椅子とテーブルがあった。そこを横切り奥の扉を開け、部屋に入る。

 少しゴージャスな感じの部屋だ。

 いや、ここに僕が入って大丈夫? ってくらいの雰囲気がある部屋。なんだろう、ここ。


 「殿下、お座りください」

 「わかった。座ろう。クラド」

 「え? はい……」


 ソファーに座ったガーナラルドの横に素直に座ると、二人に睨まれた。僕が座るのはここでないみたいだ。だけど立ち上がろうとすると、「よい」とガーナラルドに言われそのまま座っている事にした。


 「噂通りあなたは、常識さえ知らない人物の様ですね。驚きです」


 水色の髪の人に言われた。

 そうです。反論もできません。


 「私は、ジルと申します」

 「私は、アルラダ」


 水色の髪がジルさんで、黒髪がアルラダさんね。


 「私達は、殿下が言われる通り陛下から殿下のお目付け役を仰せつかりました」


 やっぱりそういう人っていたんだ。ジルさんの言葉に僕は頷いた。

 

 「あなたはおわかりですか? 隣にいるお方は、王族なのですよ? お守りするならまだしも、教えて頂くなどあり得ません」


 アルラダさんの言う通りです。はい。


 「すみません……」

 「私が好きでそうしているのだ。クラドを責めるな。あのスキルならすぐに強くなるだろう。あとは、知識を身に付けるだけだ」

 「あの……毎回さっきの様なスキルを覚えるとは限りませんけど」

 「それでも使い方次第では、英雄スキルだ」

 「英雄スキル?」

 「それすら知りまんか?」


 ガーナラルドの言葉に驚くと、ジルさんが驚いて言う。

 教科書に載っていたっけ?


 「鍛錬をすれば誰でも英雄になれるわけではない。残念ながらな。英雄になれるような、凄いスキルを持った者が英雄になれると言われている」

 「たとえば、殿下がお持ちの様な複数攻撃が出来る魔法などです。聞いた事ありませんか?」


 ガーナラルドの説明の後に、アルラダさんが問う。

 聞いた事ないかという事は、教科書には載ってないのかな?


 「クラドと言ったか、あなたのスキルは増殖だとか。ダンジョンを出ると全て消えるのでしょう。でしたら有能なスキルとも言い難い」


 ジルさんがそう言った。

 別に僕自身は、有能なスキルだとは思ってない。

 もしかして、このスキルでガーナラルドを釣ったとか思ってる? そんなつもりはないけど……。実際そうなってる?


 「もしかして、このスキルに期待して傍に置いてるの?」


 ガーナラルドの目標は、英雄になる事だ。僕のスキルがその手助けになりそうだと思ったのかもしれない。スキルを持った本人がヘタレでも傍に置くのはその為?


 「そんなわけあるか。別に英雄スキル持ちと共にダンジョンに入りたいなら募れば、わんさか来るだろう? 私が君を選んだ理由は前に言っただろう?」

 「対等な者……仲間として?」

 「そうだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 それがどうして僕? それこそ、僕じゃなくてもよくない?


 「そういうわけだ。二人が私達について回るのは仕事だから仕方がないが、今回の様な事をしないで頂きたい。助言なら口でしてほしい」

 「お待ちください。まだお話は終わっておりません」


 立ち上がろうとしたガーナラルドに、ジルさんが言った。


 「おっしゃるように助言させて頂きます」


 って、僕はこのまま一緒でいいわけ?


 「まず、モンスターを倒せるからと、どんどん先に進めば死にに行くだけです。絶対に攻撃を受けないとは限らないのですから。モンスターは、HPだけではなく攻撃力も上がっております。我々ダンジョンハンターは、スキルや魔法を授かっただけの人間だという事をお忘れなく」

 「急所をやられれば、その場で死ぬ可能性もあります。まずは防御出来る対策を手にしてからお進みください」


 うん? 防御の対策? それって防具を手に入れるって事? でも周りのダンジョンハンターの人は、ほとんど最初に支給された服だったけどなぁ?

 魔神様に授かったスキルや魔法以外に、そういう何かを授かる事ができるって事?


 「クラドは、わかってないようですが、殿下ならご存知でしょう。小手の存在を。まずは、それを装備してからお進み下さい」


 「小手? それって腕に付ける部分的な装備ですか?」

 「おや? ご存知でしたか?」


 授業で習ったから覚えているわけではなく、知り合いの英雄の話しに出て来たのを覚えていただけだ。

 たしか盾代わりにつけているとか言っていたような。


 「盾代わりにするやつですか?」


 意外だという顔を三人共した。


 「えぇ。そうです。衝撃を受けHPは1減りますが、有効な防御方法です。鎧などは、宝箱から手に入れない限り身に付ける事はできません。まずは、魔石を集め、報酬として受け取って下さい」


 それ報酬なんだ。


 「わかった。そうしよう」


 素直にガーナラルドが承諾した。


 「あと、剣ですが……」

 「このままこれを使用する。彼と居ればいずれ、武器も手にできる。そう父上に伝えて欲しい。皆と同じ様にして上を目指したいともな」

 「わかりました。お伝えしておきます」


 ガーナラルドが立ち上がったので、僕も立ち上がり彼について行き部屋を出た。

 なんか今回は、本当に王子なんだと実感した。

 本当にいいのかな? 僕なんかが王子の仲間で。

 まあ危なくなったら僕はともかく、ガーナラルドは助けてもらえる。気がラクになったかも。

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