第13話 振り出しでスタート

 「私がそう呼んで欲しいと頼んだのだ。彼はそれに従っただけだ」

 「そうですか。結局命令しておいでですね」

 「別に命令ではなく、お願いだ」

 「そうですか」

 「で、さっきの質問の答えは?」


 さっきって、僕を殺そうとしたかもしれないという事?


 「えぇ。彼はダンジョンハンターになりたくなかったように見えました。その彼が、あなたに認めて欲しくて死ぬほど頑張ったんですよ。俺も驚きましたよ。まさか少ないながらも倍になったんですからね」


 やっぱりわかっていたんだ。きっと先生も気がついていたよね。


 「よほどあなたの家来になりたかったようです。けどご覧の通り、自分がどういう状態なのかさえ把握できていない愚か者です」

 「な……。まさか本当にワザと僕を瀕死の状態にしようとしたの?」

 「前日にお前のステータスを見ただろ? あれだけ減っていれば、傷薬を普通は使うんだよ。それすら知らなかったんだろう? そんなお前が、殿下の側近? 笑わせるな! 誰が納得すると言うんだ!」

 「………」


 そうかもしれない。別に側近とかそんな凄い立場でいるつもりはなかったけど、ガーナラルドの側にいるならそういう役割を担うって事だよね。僕では役不足。

 ずっとダンジョンハンターという責務から逃げる事ばかり考えていた。自分の事ばっかり。


 「……側近とかそういうつもりはなかった。役にたたなくてもいいと言われて鵜呑みにして、現状から逃げてばかりだった。迷惑を掛けてごめんなさい。僕は……」

 「元々、側近になれなど言ってないだろう? 私が欲しいのは仲間だったんだ。腕っぷしの強さを求めたのではなく、精神的なモノを鍛え直せと言ったんだ。まあそこまで腕を上げたのだからそれなりに鍛え直したようだな」

 「え……」

 「殿下自ら、クラドのお守りをすると?」

 「お守り!?」


 それってなんぼ何でも酷くない?


 「それと仲間とは対等と言う事でしょうか? その割には、我々とは違う出で立ちですよね? その剣、クラドと交換してやったらいかがですか? 少しはマシになるでしょう」

 「きさま、先ほどから聞いていれば殿下に何て言い草だ!」


 デモンガリーの目の前に剣が振り下ろされた。


 あわわわ。どうしよう。大事になってきた!

 って、なんでこんなところで、言い合いを始めちゃったかな。


 「みなさんが思っている事を伝えているだけじゃないですか。殿下に捨てられそうになったら必死になって……」

 「な! そんなんじゃないから!」

 「もういいやめろ! 君が気にいらないのは、彼だけでなく私もなのだろう?」


 そう言ったガーナラルドはなぜか、カウンターに向かって行く。


 「これを彼らと同じ支給される剣と交換してほしい」

 「え!? そ、それは……」


 カウンターのお姉さんが困り顔だ。

 たぶんあの剣は、王族専用の剣だろう。それと僕達が持っている剣と交換すれと言われても困るよね。


 「交換できないのなら素手で戦うしかないか」

 「こ、交換致します!」


 ガーナラルド、それは脅しだ。貸さないわけにはいかないだろう。

 カウンターに置かれた剣をガーナラルドは受け取った。


 「これでいいか?」

 「………」

 「ギルドも自分達で稼いで設立する。キャンセルしておいてくれ」

 「は、はい……」


 カウンターのお姉さんがまた困り顔で頷いた。

 ふんと、デモンガリーが歩き出す。


 「待ってデモンガリー!」


 僕が呼び止めると、ピタッと止まって彼は振り向いた。


 「ありがとう。君のお蔭で僕は少し強くなれた。ちゃんと教科書読み直すよ」

 「ふん。好きにすればいい。甘ったれはどうせ死ぬ。せいぜい共倒れしないように頑張ればいいさ」

 「うん。頑張るよ」

 「君は、お人好しだな。そこを利用されたとは思わないのか?」


 隣に来てガーナラルドが言った。

 そうかもしれない。でも彼が言った事も事実だ。全くダンジョンハンターになる気がなかった僕が王子に気に入られ、思った以上にヘタレだったら恨みもする。


 それより、とばっちりを受けちゃったけど大丈夫かな?


 「すみませんでした。その剣……」

 「いや、ちょうどよかった」

 「え? ちょうどよかった?」

 「私もみんなと同じスタートを切りたかったのだが、どうしてもダメだと言われて、この格好だったからな。彼のお蔭で、剣だけでも交換できてよかった。ただギルドは言われるまで気がつかなかったよ。私もまだまだだな」

 「はあ……」


 なんでまたよわよわの剣にしたいのか?

 やっぱりMっけあり?


 「君はまた……前に話しただろうに。どうしてそういう顔になるんだ」


 あ、また引いている顔になっていた!?


 「ギルドは、お金を貯めて設立するつもりなんですか?」

 「そのつもりだ。頑張ろう」


 頑張ろうって。僕は別にギルドは設立しなくてもいいんだけどなぁ。

 まあ凄くお金がかかるから直ぐには無理だな。僕とじゃ人より時間がかかると思わないのかな?

 そうだ、お金と言えば!


 「さっきの治療代っていくらになるの?」

 「治療代?」

 「だから回復魔法代」

 「……そこからなんだな。無料だぞ」

 「え!? タダ!?」

 「当たり前だろう。でないと、ダンジョンに入れない者が続出だ。全く怪我なくと思ったら、ダンジョン攻略などできるか」

 「そうなんだ」

 「だが持って行く傷薬は買うからな。大事に使えよ」

 「はい。うん? あ!」

 「どうした?」

 「デモンガリーが全部持って行っちゃった!」

 「なぜ彼が、君の傷薬を持っているんだ」

 「訓練の時に取り上げられて、そのまま……」

 「なぜそこで変だと気づかないのだ、君は」


 いや、石をリュックに入れたりしたから。

 でも普通は使うとか言っていたし、奪ったのは間違いないのか?

 今度いつ会えるかな? って、言ったら返してくれるのか?


 「はぁ。君は本当に手が掛かるな……」

 「すみません。怪我をしないように気を付けます」

 「そうしてくれ」

 「あの、もしよろしければ、我々もお供しますが……」


 僕達の会話に近くにいたダンジョンハンターの一人が、そう言って割り込んできた。


 「いや結構だ。お供などいらないからな。クラド行くぞ。今度は10階を目指す」

 「え? また行くの?」

 「当たり前だ! 薬代を稼ぐぞ」


 え~。帰って寝たかった!

 って、スタスタとダンジョンへと向かって行く。


 「ちょ……置いて行かないで!」


 僕の後ろからは、「なぜあんな小僧が」と言い合う声が聞こえる。それには僕も同感だ。

 一体僕の何が気にいられたのだか……。

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