第10話 僕に足りないモノ

 コボルトダンジョンへ向かう馬車には、スライムダンジョンと違ってそれなりのダンジョンハンターが乗っていた。コボルトダンジョンの方が、スライムダンジョンより近かった様で、一時間程で着く。


 よかったよ。一時間で。なぜかと言うとガーナラルドも一緒だったから注目されたんだ。別々に行こうと言ったのに、迎えに来るんだもん。この王子の行動がたまにわからないよ。なぜそこまでするのか……。


 ぞろぞろと馬車からハンター達が降りる。もちろん僕達も。


 「思ったより人が多かったな」

 「うん。驚いた」


 馬車は、二時間に一本だ。朝一での馬車で来たというのに。

 早起きは平気だ。なにせいつも早起きして、畑仕事をしてから学校へ行っていたからね。


 それにしてもほとんどの人が、僕と同じ装備だった。つまり初期装備。年齢から言えば、20代の人もいたんだけど。宝箱って手に入れづらい物なのかな?

 剣ぐらいだよ。バラバラなのは。


 「まずは、ダンジョン内の地図をもらうぞ。後、入る時には手続きして入るからな。出た時もだ」

 「へえ」

 「手続きは忘れるなよ。忘れると入った事にならないからな。つまり魔石だけ持って帰ってもダメだと言う事だ。僕達の行動は、このシステムで監視されている」

 「え? 監視?」

 「あぁ」


 監視って。王族のガーナラルドが言うセリフ?

 月の半分をダンジョンで過ごした証拠は、手続きしないと残らないって事かな?


 「初めてなんだ。地図がほしい」

 「はい。かしこまりました」

 「………」


 チラッとガーナラルドを見ると、少しムッとしている。

 地図を貰うとガーナラルドは、少し離れた場所に移動した。

 一応僕も地図貰っておくかな。


 「僕も地図下さい」

 「はい。どうぞ」


 ガーナラルドがやっていたように、装置の下に手を入れると指輪のガラスが白くなった。よくわからないけど、これで手続き終了。地図を貰ってガーナラルドが居る場所へ向かう。


 「まずは入ってすぐに、コボルトを倒してみよう」

 「はい……」


 なんか凄く見られている。

 ガーナラルドが、第三王子だと知れ渡っているって事だろうな。そしてたぶん、僕とギルドを組んだ事も。正確には、居住地が決まってないから申請中になるけどね。


 「周りが気になるか?」

 「え? まあね。こんなに注目された事ないから、あまりいい気分ではないよ」

 「いい気分ではないか」


 ふふっと笑いながらそう復唱された。

 何かおかしな事言っただろうか?


 ダンジョンに入り、剣を手に持って進む。ハンター達は見えないけど、声や音は響いて来る。スライムダンジョンとは全然雰囲気が違った。

 そして僕は、コボルトを見て驚いた。


 「犬型のモンスターだけど、これって……」


 教科書には図などは載っていないかったわからなかったけど、目の前のコボルトは二本足で立っている。しかもぼろぼろだけど、ナイフを手にしていた。

 モンスターってすげぇ。


 「気を抜くなよ」

 「あ、うん」


 ガーナラルドは、目の前のコボルトを斬りつける。攻撃を受ける前にあっさりと倒してしまった。彼が強いのか、コボルトが弱いのか。

 よし! 僕も!


 剣を振り上げ、コボルトに斬りかかった。

 カキン!

 僕の攻撃は、コボルトのナイフで防がれた! しかも振り払われ、剣は僕の手から飛ばされて吹っ飛んで行った!


 驚いたのは僕だけではなく、ガーナラルドもだった。慌てて近づいて来る。

 って、コボルトも近づいて来て、ナイフで僕を切りつけようとした。


 「うわぁ!」


 目を瞑って屈んだが、一向に攻撃がこない。不思議に思って目を開けると、目の前にガーナラルドが立っていた。

 唖然としていると、倒して魔石になったそれを拾う。


 「一旦、ダンジョンから出るぞ」


 ボソッと一言だけ言った。

 ガーナラルドの声は、凄く低く聞こえ怖かったので、頷く事しか出来なかった。

 立ち上がり飛ばされた剣を拾うと、僕達は一旦ダンジョンを出る。


 もちろん、入り口から出て来るハンターなど僕達だけだろう。最低、5階に降りてワープして戻ってくるのだから。

 今日はやはり止めると言う事で手続きをして、僕達は建物を後にする。


 スタスタと歩くガーナラルドの後を僕は無言でついて行った。

 怒ってるよな。凄く態度に出てる……。

 本来は、僕が王子であるガーナラルドを守る立場だろうけど、守ってもらってしまった。


 建物から離れ、人気が無い場所まで来るとガーナラルドがクルッとこっちに振り向いた。


 「君は、死にたくないのではなかったのか?」

 「え?」

 「コボルトを倒すのに腕力が15はいるのを知っているな? 教科書を見て知っただろう? 君は、私をあてにしていたのか?」

 「え? ま、まさか!」

 「では問うが、昨日私が帰った後に少しでも腕力を上げようと何かしらしたのか?」

 「それは……」


 何もしていない。僕の腕力は今、7しかない。コボルトを倒せる腕力の半分だ。

 どう考えても勝てない。


 「見てみろ」


 そう言ってガーナラルドが僕に見せたのは、自分自身のステータスだった。


 HP:77/77

 MP:20/20

 体力:113

 魔力:11

 腕力:104

 素早さ:32

 ホーリーライト:MP10

 

 うわぁ。これって初心者の平均なの?


 「私のステータスは、初心者にしては少し高いが、鍛錬の賜物だ。本来、ダンジョンハンターになった時に困らない様にと、学校で訓練をする。剣を持っていても使いこなせないなら意味がないだろう!」

 「す、すみません」


 僕は項垂れた。

 ガーナラルドが言う事はごもっともだ。死にたくないなら強くなるしかない。


 「スキルがどうのこうのと言う前に、自分を鍛え直せ。三日後、迎えに行く。その時に私とこのまま組か、それともうじうじと一人いじけているか答えてもらう」


 そう言うと、ガーナラルドはまたスタスタと歩き出す。

 僕はただ、彼をジッと見つめる事しか出来なかった。


 うじうじといじけてるか……。

 僕は、魔神様に選ばれてしまった。それはもうどうしようもできない。死にたくないら強くならないといけないよね。


 僕はやはり、王子を守る役目には向いていないよ。

 ありがとう、ガーナラルド。こんな僕を選んでくれて。しかも三日間の猶予を与えてくれるなんて。


 「クラド!」


 うん? 淡い緑色の髪の見覚えのある男。げ! デモンガリー!

 三か月前に学校を先に卒業した同級生。噂では、ダンジョンハンターになったと聞いていたけど、今の見られていた!?


 「噂で聞いたけど、本当にガーナラルド王子と組んだんだな。驚いたよ」


 やっぱり噂になっていた。しかも丸一日も経ってないのに……。


 「強くなりたいなら、訓練手伝ってやろうか?」

 「え?」


 まさかそんな事を言うなんて驚いた。

 あ、もしかして、ギルドに入りたいとかなのかな?

 彼ならガーナラルドを任せられるかもしれない。腕はピカイチだったはずだ。

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