第9話 小さな宝箱の価値

 僕達は、これからの事を話し合う事にした。まあその為に僕の家に来てくれたんだけどね。王子自らわざわざ足を運ぶなんて、変わってる王子だ。

 僕の部屋には、座れるモノが机の椅子しかなくそこにガーナラルドに座ってもらっていた。僕は、ベットに腰を掛けている。


 「どのモンスターがいいとかあるか? そのダンジョンの近くにある物件を探そうと思うのだが」

 「あ、はい。モンスターですね……」

 「それ、捨てていなかったのだな」


 僕が教科書を開いているのを見て、ガーナラルドが言った。

 まるで真新しい教科書の様に綺麗なままだ。

 教科書には、ダンジョンのモンスターリストが載っていた。特徴もちょろっと書かさっている。

 資料らしいものが教科書しかないので、置いておいただけだが役に立つとは思っていなかった。


 「これね、資料用に一応置いておいたんです。目安になるかと……」


 そう思ったけど、驚いた。一応、適正腕力が書いてあるが、どれも二ケタ。つまり今の僕では、最初の一階にいるモンスターでも倒すのが大変のようだ。


 「どうした? 難しい顔をして」

 「えっと。腕力がどれも足りなくて、どうしましょか……」


 まさかスライム以外がこんなに強いなんて!


 「すぐに腕力は上がるだろう。問題ない。なので、素早さで優るモンスターにすればいい」

 「はあ……」


 そう言われても素早さは載っていない。特別素早いのは書いてあるけどね。


 「それは、この教科書には書いてないようです」

 「……そうか。ならば定番のコボルトにするか?」

 「定番?」

 「スライムの次に弱いだろうと言われているから、スライムの次に挑む者が多いって事だ」


 なるほど。そこならいいかも。それでも腕力15必要なんだよね……。犬型のモンスターか。


 「じゃそこでいいです」

 「わかった。取りあえず明日行ってみよう。一応言っておくが、スライム以外は、近づくと攻撃してくるからな」

 「え? そうなの?」


 囲まれたら嫌だなぁ。怖いんだけど。


 「まあそこで、ダンジョンの感触をつかもう。ところでこの宝石箱はなんだ?」


 ガーナラルドが、机に置いてあるあの小さな宝箱を指差した。

 まるで高価な宝石箱の様に見える宝箱は、僕の部屋にあると浮いて見える。似つかわしくない。


 「それ、宝石箱ではなく小さな宝箱です」

 「宝箱?」


 僕は頷いた。ガーナラルドは、怪訝な顔をしていた。意味がわからないのかも。


 「スライムダンジョンの2階にあった宝箱なんです」

 「は? スライムダンジョン? しかも2階? どうやって見つけたのだ? これだけ小さいと見つけるのは、至難の業だろう?」


 道端にでもなければ確かにそうかもしれない。普通は、スライムダンジョンの2階に宝箱があるとは思わないから探す事もないだろうし。


 「えーと、一番最初に覚えたスキルがサーチで、試しに使ってみたところ宝箱を発見したんです。小さい宝箱だったので、記念に持って帰ってきました」

 「………」


 じーっと、ガーナラルドが宝箱を見つめている。もしかして欲しいとか? 普通は大きいから持って帰らないって言っていたし、珍しいのかも。


 「あの欲しいのなら差し上げますけど……」

 「いや、そうではない。これに何が入っていた?」

 「これです」


 僕は腰にくくり付けていた無限革袋を指差した。


 「それか。鑑定はしたか?」

 「え? なぜですか? もしかして、必ず鑑定して使用するものなんですか?」

 「してないようだな。普通はするだろう。まあこういう物ならそのまま使うかもしれないが。ただ、それはレア物かもしれない」


 う、さすがガーナラルド。鋭い。


 「宝箱の特徴は知っているか?」

 「え? あ、はい。地下に行くほどレアなのを手に入れる確率があるんですよね? あと、毎日増える」

 「そうだが、それだけではない。宝箱の大きさにもよってもレア度の確率は変わる。人が入れる程の大きな宝箱なら君が持っている剣ぐらいの価値しかない装備品が入っている事が多いが逆に、この様に宝石箱程の大きさならレアなのはほぼ確定だろう」


 え? そんな事、レメゼールさんは言っていなかったけど!?


 「それって、ダンジョンハンターならみんなが知っている常識ですか?」

 「当たり前だ。知らない者はいないだろう。君ぐらいだ」

 「………」


 それじゃレメゼールさんは、レアだとわかっていて鑑定させた。しかも僕が嘘を言ったのもわかっていて、知らないふりをしたんだ。

 それでも一生懸命指導してくれた。


 「これ、無限革袋っていうレアです。本当は自分で鑑定して、嘘までついて……。でもそれって、バレバレだった」

 「自分で鑑定した!?」


 俯いて正直に言うと、無限革袋に驚くのではなく、自分で鑑定した事に驚かれた。


 「鑑定も覚えたのか?」

 「え? あ、はい。でも、ダンジョンから出たら消えちゃっいましたけどね」

 「……それが、レアだと言う事は誰にも言うなよ」

 「え?」

 「無限という名がついているぐらいだ。無限に入る袋なんだろうからな。奪われるぞ」

 「えぇ!? それって、ダンジョンハンターにですか?」

 「そうだ。ダンジョンに入ったら密室も同然だ。私と一緒だから殺されはしないだろうが、どさくさに紛れて奪うだろうな。奪われれば、君のだという証拠がないのだから」

 「証拠がないって……」

 「ダンジョンハンターも普通の人間だ。君が思った様に、他の者も死にたくないと思うのも普通だ。そして、ダンジョンで生き残る為に必要なのは、より良い装備だ。その中で一番欲しい物が、そういう物を入れれる装備品だ」


 え? 武器ではなく袋が欲しいの?


 「いいか。どんな凄い武器などを手にしても、それだけでダンジョンに乗り込んでは行けないだろう? 食料や傷薬。ずっと奥に潜るなら休憩用のテントなど身を守る装備品を手に入れる為に、持って進まなくてはいけない。どんなに大変な事か」

 「そっか。そういう者達から見ると、これがあれば凄くラクして進めるって事か」


 まあ入れられるのは、食料と薬ぐらいだろうけど。手ぶらまでとは行かないけど軽くなってラクにはなる。それに食料は腐らない。確かにほしいかも。

 って、そういう話を手に入れた時に聞きたかった……。


 あ、僕、嘘ついたから普通の袋って事になってたんだった。


 「普通は、君の様な奥に行けない者が持っているモノでないから身に付けていたとしても、誰もレアだとは思わないだろう」


 よかった。

 レアを持って歩くのも命がけだなんて、思わなかったよ。

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