第8話 対等な二人
なにを言っているんだこの王子は……。よわよわの僕とギルドを設立してどうするんだ。英雄になりたいんだろう? 足を引っ張る未来しか見えない。
「あの……そう言ってくれるのはありがたいのですが、僕とギルドを設立したとしても僕は何も役に立ちませんよ?」
「いや。ギルドは最低二人いないとダメなんだ」
「はあ……」
だったらそこにいるなりたがっている三人と設立すればいいのに。
「私は、対等に接してくれる仲間が欲しい。そして、損得なしで信頼できる人物」
それが僕に当てはまると? 損得なしでは何となくわかるけど、信頼できる人物に見えるって事?
「まあ君は、確かに頼りにならないかもしれないが、これからだろう」
「う……」
頼りないと思っているのに声掛けたのか。
「まあ、確かに弱いからな」
「……弱いって」
「正直、ステータスを見て驚いた」
「え?」
レメゼールさんがからかう様に言うけど、驚くほど低かったの?
「腕力が一桁の者は初めてだった」
あぁ。剣なんて型を習った後は、ちょっと素振りをした程度だからね。
なるほど。だからスライムを倒しただけで、上がったのか。
「……どんだけなんだ、君は」
呆れ気味にガーナラルド王子が言った。
「その様な者とギルドを設立するなど、ガーナラルド様が苦労なさるのが目に見えます。お考え直し下さい」
「あなたに言われる筋合いはない。彼は信頼における人物だ。それに興味もある」
どっちかというと、興味の方が大きいのでは?
って僕達、ちょっと話しただけですよね?
「きさま、何を吹き込んだ!」
凄んで指導者の一人に言われた。
何も吹き込んでないって!
もうどうしてこうなるの?
「一つ宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「その言葉は、王族としてでしょうか? それとも、いちダンジョンハンターとしてのお誘いでしょうか?」
そうレメゼールさんが、ガーナラルド王子に問う。
「もちろん、同じダンジョンハンターとしての誘いだ。なので、断っても構わない。ただ君にとっても好都合だと思うのだが?」
どこに好都合があるのかわからない。こうやって睨まれるだけじゃないか! 指導者に睨まれたら指導者になれないよ!
「いいんじゃないか? 王子としてではなく、ダンジョンハンターとしての誘いなら」
「え? なぜに?」
「ダンジョンハンターとして、君が必要だって事だ。スキルは関係ないって事だろう?」
そっか。スキルの事を話したのを知らないからそう思うのか。
興味はスキルの事だと思うんだよね。
でもここで断ってももう遅いよね。垂らし込んだと思われているんだから。だったらある程度まで一緒に居た方がいいかも。
ただ問題が一つある。
王子に何かあった時だ。非難されるだけで済まないかもしれない。
「わかりました。ただし一つお願いがあります」
「なんだ?」
「僕より先に死なないで下さいね」
一瞬シーンと静まり返った。
そして、ガーナラルド王子がっぷと吹き出すと、大笑いを始める。指導員の三人は激怒しているけどなんで?
レメゼールさんは、声を殺して笑っていた。
何がおかしいって言うんだ!
「あははは。自分が弱いと思っているのに、自分が生き残って私が死ぬかもしれないって思ったのか?」
「あ……」
それもそうだ。普通は、僕が先に死ぬ。
「そうですね。だったら問題ないです」
「あるだろう! きさまが死ねば、殿下に危害が及ぶかもしれぬ!」
あぁそうだね。でも僕が死んだ後の事までは、責任を持てないよ。どうしようもできない。
「問題ない。私はダンジョンハンターになると決めたのだ。死ぬときは一緒だ。私を死なせたくないと思うなら生き延びる方法を考えろ」
考えろって……。
やっぱり王子だ。難しい事を言う。
「君は知らない事だらけだろう? これからいっぱい学ぶだろう。そうすれば生き延びる方法も学べる。がんばれ」
ポンと、レメゼールさんが僕の肩に手を置いた。
「レメゼール! あなたは適当な事を!」
「未来の可能性がある若者たちの門出だ。喜ぶべきだろう? それに無理だと思えば解散すればいい。または、仲間を増やせばいい。そこは普通のギルドとかわらない」
そっか。そうだよね。解散という手もあるし、新しい仲間を入れれば何とかなるかも。
でもなぁ最終目的は、全然違うけどいいのだろうか?
「そういう事だ。では、ダンジョンを出て、早速手続きをしよう」
本当にギルドを設立する気なんだ……。
僕達全員、ダンジョンを後にした。
そして、ガーナラルド王子をリーダーにギルドを設立する。メンバーは、二人なので必然的にサブリーダーは僕になった。
受付のお姉さんの驚く事と言ったら凄かった。一体なぜに僕と? とじとーっと見られたよ。
知らなかったけど、ギルド設立には資金がいるらしい。けど全て、ガーナラルド王子が出してくれた。当たり前だけど、お金なんて持ってないからね。
ギルドには、居住地も必要だった。
それだけは用意してなかったので、二人で探しに行くことになり、その登録が終われば、本当にギルド結成だ。
で、なぜかガーナラルド王子が僕の家に来る事になった。一般庶民の家に来たって面白くないだろうに。
喜んだのは、母さんだ。
王子が、さすが君の母親だと言っていた。どこか似た行動をとっていたかな?
頑張って母さんが振る舞った夕食を食べ終えた後、王子は僕の部屋に来た。
「いい方々だな」
「そうですか? ありがとうございます」
「すまないな。君に迷惑をかけてばかりだ」
「はあ……」
そう思ったならギルドを設立しようと言わなければいいのに。
「だが君と出会えた事は、偶然ではなく必然だと思った。今しかないと」
「え? 必然?」
「私と君は、同じ日に生まれた。そのお蔭でこうして、出会う事が出来たんだ。必然だろう?」
「まあ、そうですね」
難しいな。確かにそういう事なら偶然ではないけど。
「私が英雄になるのには、王族を突破らい私と対等に対峙してくれる者と一緒に行動しないとダメだと思っていた」
「それが僕?」
「少なくとも損得だけで動かないだろう?」
そんな事はない。現にOKだしたのは、今断ったら指導員になれないのは確実だからだ。ガーナラルド王子と一緒にいて実績を積めば、そのうち認められる。そうなれば、指導員への道が確かなものになるかもと打算がありますが……。
まあ僕が考える事なんてちっぽけな事だろうけど。
「これから宜しくな。私の事は呼び捨てでかまない」
「え? それはちょっと……」
「同じ歳で対等なのだぞ?」
「だけど……」
「では、二人っきりの時は、そうしてほしい。どうだ?」
「わかりました。ガーナラルド。これでいい?」
「あぁ」
とても嬉しそうにガーナラルドは、ほほ笑んだ。
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