第7話 王子の話は唐突です

 突然ガーナラルド王子が地べたに座って、洞窟の壁に寄りかかった。


 「少し休憩しようか」

 「え?」


 もう狩らなくていいのだからちゃちゃっと降りちゃえばいいだけだろうに。もしかして本当に疲れた? いや僕よりは体力はあるだろう。なにせ僕は、言われた事をこなしただけで、特段体力をつける事をしなかったから。


 さすがに座った王子に立って下さい。行きましょうとは言えず座る事にした。

 どこに座っていいかわからないけど、取りあえず横に腰を下ろす。


 「君は、変わってるよな」

 「そうですかね……」


 またその話かよ。


 「嫌なんだろう? ダンジョンハンターになるのが……」

 「………」


 え? ばれていた?


 「君の態度を見れば、誰でも一目瞭然だ」


 マジか。じゃレメゼールさんもわかっていたんだ。

 って、レメゼールさんはいいとして、王子にバレたらダメだろう!


 「す、すみません! 名誉な事なのに。スキルを授かったのに……ぜ、善処します」

 「あ、いや。責めていない。ただまさか、君みたいな人がいるとは思ってもみなかったからな。学校に行っているなら、なりたいと思うものだと思ったからな」


 確かにそうかもしれない。授かれば名誉な事で、授かってダンジョンハンターになりたいと思うのが普通だ。でも僕は――。


 「僕の父の知り合いに、英雄と言われる人がいたんです。その人に会った事もあって、色んな話を聞いたんです。父さんも自慢してました。けど、亡くなりました。……それを知った時、英雄でも死んじゃうんだって知って怖くなった」


 僕は俯いてそう言った。

 あれは衝撃的だった。もしその人が、英雄でなければこんなに恐れなかったかもしれない。


 「それは、君がいくつの時の事?」

 「5歳です」

 「5歳か。だったら学校に行くぐらいの時か」


 僕は頷いた。

 学校に行く直前ぐらいだったと思う。

 教科書には死について触れてはいないかった。あったのは一か所だけ。「HPが0になる事は死を意味する」その一文だけだったんだ。

 英雄でも死ぬことはあるなど、書いてはいない。

 そうしたら教科書を読む気になれなかった。本当の事を書かれていないからだ。


 「よほどショックだったんだな。会った事がある英雄か。……君は、このシステムに疑問を持ったのかと思っていたが、ちょっと違ったのだな」

 「疑問? まあ確かになぜ死ぬこともあると教えてくれないとは思ったけど」

 「そんな事を教えれば、しり込みするだろう?」


 まあ確かに。僕みたいな人がいっぱい生まれるかもしれない。


 「これは、呪いなんだ……」


 左手を掲げてガーナラルド王子が言った。見つめている先はハンターリング。


 「呪いですか?」

 「あぁ、一度つけたら普通は外せない」

 「え? 外せない?」

 「そう。針が刺さったままだからな」


 そうだった! 今は痛くないけど、刺さったままなの?


 「ダンジョンハンターをしていれば、いずれ死ぬかもしれないという場面に直面するだろう。神に祈った所で助けてくれない」

 「でしょうね……」


 英雄さえ死ぬのだから当たり前だ。

 って、なんでそんな話をするのだろうか?

 王子も死にたくないからこれでやめるから、言い訳でもしてるのだろうか? 別にいいのに。


 「わかってます。王族は免除されるのでしょう?」

 「うん? あぁ、そう捉えたか。いや、私はこのままダンジョンハンターになるよ。やめたら婿に行かないといけなくなるからな」

 「うん? え~!? なぜに婿?」


 うわぁしまった。つい驚いて……。


 「……婿に行かれるのですか?」

 「あははは。別にいいよ。二人っきりの時は、さっきみたいな口調でも構わない。知ってるかい? 男児を三人まで産む仕来りがあるのを」


 うん? それって王族の事かな? 初めて知った。

 知らなかったので、首を横に振る。


 「まあ君なら知らないか。スキルなどを授かる確率は半分なので、一応後継ぎ確保の為にね」

 「そうなんですか? それなら生まれたら直ぐに鑑定すればいいのに」

 「君はもう……。なぜ15歳に鑑定するか知らないのか?」

 「それは知ってますよ。鑑定して確認ができたらその時からダンジョンハンターとして生きていかなくてはいけないからですよね?」

 「そう。王族も同じなんだ。赤ん坊にできるかそれ」


 できませんね。

 そっか。15歳まで待って、スキルを授かったから次の子をって言うわけにはいかないか。


 「兄上達は、授からなかった。なので、私が後継者にならない事は確定している。スキルなどを授かってダンジョンハンターになったとしても問題ない。むしろ、王族でもダンジョンハンターになって、英雄になるぐらい名を残せば国民の不満も出ないだろう。だから父上達は喜んでいたよ」


 悲し気な顔でガーナラルド王子は言った。

 たぶん僕の両親とは違う内容の喜びだろうな。名誉だと思っている僕の両親と体裁の為と思っている王子の父親、つまり王様。


 「王子も大変なんですね。僕もね、両親も兄も授からなかったんです。だから僕も授からないかもって期待していて……」

 「期待が普通の人と真逆だな」


 ガーナラルド王子は、くすりと笑う。


 「君と話せてすっきりしたよ。本来は、君がさっき言った様に、ダンジョンハンターにならなくてもいいんだ。だからこの指輪もしない。けど、私が出来る事をしようと思ってね。婿になるぐらいなら英雄になろうと思って、誓いに指輪を嵌めたんだ」


 呪いの指輪といいながら自分から嵌めたのか。やっぱりMっ気王子だ。


 「あのな。なぜそんな顔つきになる」

 「え? 僕どんな顔つきしてました?」

 「ちょっと引いていたな」

 「う……すみません」

 「ふふふ。君とは気が合いそうだ」


 なぜ!? どこも合ってないけど? 同じなのは、家族がスキルなどを授かってない事だけだよね?


 「さて、行こうか。あまり遅くなると騒ぐだろうから」

 「そうですね」


 僕が、叱られそうだ。

 立ち上がり魔法陣から10階へと向かった。案の定、三人はどうしたのだろうとおろおろしていたのだった。


 「合格だ。頑張れよ」


 魔石をレメゼールさんに渡すとそう言われた。おめでとうとは言わなかった。

 ここで一つわかった事がある。無限革袋は逆さまにしても中身が出てこない。おかげで、100個以上を一つ一つ取り出す羽目になった。魔石を入れる袋が別に必要だ。


 「はい。レメゼールさんを目指します!」

 「そう言ってもらえると嬉しいな。指導者になった甲斐があった。いい仲間に出会える事を願ってるよ」


 僕は頷いた。


 「いい仲間ならもう出会ってるだろう? 私は君とギルドを設立したい」

 「は?」


 ガーナラルド王子が、にっこり微笑んで恐ろしい事を言った。

 パーティーをすっ飛ばしてギルドってどういう事!?

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