第6話 王子と一緒に

 誰が王族の言う事を止められると言うのか。結局僕は、ガーナラルド王子の後をついて行く。

 誰だ! 王子の機嫌を損ねたやつは!


 「面白くないって顔だな」

 「え……」


 しまったぁ。顔に出ていたか。


 「なぜ僕と? 先輩方との方が安全なのに」

 「安全? それは君と行っても変わらないだろう? まあ、10階の敵を君が倒せるかわからないがな」

 「10階!?」

 「……君は学校に行っていなかったのか?」

 「いえ、行っておりました」


 習う事だったのか。にしてもバカ正直に10階まで行かなくてもよくないか? 王族なら免除されるだろうに。


 「僕は、全く役に立ちませんが宜しいですか?」


 最初に言っておこう。もしかしたら5階までにする気になるかもしれない。


 「別に構わない。特別扱いされるのが嫌なだけだからな。君にも悪かったと思っている。本来はもう一人は君につくはずだった」

 「はぁ……」


 別に指導者は、一人でいいけどね。


 「何をしている? 先に行って待っているのではないのか?」


 クルッと振り向くと、指導者の三人が後ろをついてきていた。


 「し、しかし……」

 「わ、わかりました。お待ちしてます」

 「くれぐれも気を付けてな」


 最後の言葉は、僕に向けられたセリフだ。

 何をどう気を付けれと? そこを教えて欲しいんだけどなぁ。


 「はぁ。行ったか」


 いや違う階でこっそりいるかもね。

 そう言えば、レメゼールさんがいないな。10階に行って待っているのかな?


 「そう言えば、君のスキルはどんなのだ? 増殖だかというスキルだったか」


 他人の事なのに覚えてるんだ。


 「階を下りる度に名前の通りスキルが増えるスキルですが、ダンジョンから出てしまえば全て消えてしまいます。僕には扱いが難しいスキルでした。ガーナラルド様が羨ましいです」


 ホーリーライトは、光魔法だ。光魔法は、どの属性のモンスターにも効果がある魔法。しかも範囲魔法らしい。複数をいっぺんに倒せるなんて、羨ましい。

 唯一習った魔法で覚えていた魔法だ。

 万が一授かるならこれがいいと思ったからね。


 「羨ましいか? 私は君のそのスキルの方がいいと思うけどな」

 「そうですか? どんなに凄いスキルでも消えちゃうんですよ? しかも覚えるのはランダムの様なので、あてにできません」

 「そうなのか? それは使い勝手が悪いな。だがある程度下の階に行けば、それなりの数のスキルになる。そうなれば、使えそうなスキルを手に出来るのではないか?」


 それは、元々強い者の考え方では? 弱ければ下になんて行けませんって。

 弱くても王子の様に装備がよければいいかもしれないけどね。


 「僕は弱いので、スキルなしで下になんて行けません」

 「まあ一人では無理だろうが、複数ならそれまでカバーできるだろう?」


 それって、パーティーを組んだりギルドに入ればいいだろうって事なんだろうか?


 「アドバイスありがとうございます」


 まあいいや。王子の機嫌を損ねたら指導者の道は閉ざされるから穏便に返しておこう。


 「アドバイス? 私は君と同じ新人だ。アドバイスにはならないだろう?」

 「……そうですか。そういう考え方もあると言う事ですね」

 「そういう事だ。ところで試験の仕方はわかってるのか?」

 「試験?」

 「……君は、全く何も知らないのか? いわゆる最初から合格しかない試験だから合格試験とも言われる試験だ。今から行うのだが……」


 げ。どうしよう。わからないや。

 合格試験という単語は聞いた記憶がある。変なのって思ったから覚えているけど、試験内容は覚えてない!


 「その様子だと知らない様だな。6階から少しスライムが強くなる。そのスライムを10階までに一人換算100体倒す試験だ。数のカウントは、魔石だから拾うのを忘れるなよ」


 ……王子に説明をさせてしまった。なんか情けなくなってきた。こんな事になるなら覚えておくんだったよ。


 「ありがとうございます。記憶力が悪くてすみません……」

 「君は、面白いな」


 面白い!? どこが? つまんないやつだろうに。


 何を話していいのかわからないので、後は6階までほぼ無言でついていった。ダンジョンの事を何も知らない僕に、語れるものなどない。


 青っぽい光を放つ魔法陣に乗っかると、とうとう6階に着いた。


 「あ、赤い……」


 さっきまで青いスライムだったのが赤いスライムになっていた。大きさはかわらず小さいけど。


 「魔法陣まで蹴散らせながら行くぞ」


 蹴散らす? 凄いな。普通は、スライムは雑魚か……。

 僕が剣を手に持つと、ガーナラルド王子も剣を手に持った。魔法は使わないんだ。


 スライムって弱いけど、小さくて足元にいるから攻撃すると腰にくるんだよね。しかも倒したら小さな魔石を探さないといけない。面倒くさい。

 僕達は、黙々と魔法陣に向かいながらスライムを狩って行った。


 9階に降りた時には、100体以上になっていた。もう狩らなくてもいいよね?


 「あの、ガーナラルド様。僕、100体以上になったので狩るのやめてもいいですか?」

 「……驚いたな」

 「え? まだ100体になってないですか?」


 僕より倒している様に見えたのに。


 「いやそうではなくて、自分が終わったから私の手伝いをするとか、自分の魔石を使って下さいとか言わないから驚いたのだ」


 どういう事だろう? なぜ僕が、王子の分まで狩らなくてはいけないの? 自分の分だけで精一杯だよ。


 「君はすぐに顔に出るな」


 ふふふと笑いながら言われた。僕、どんな顔つきだったんだ?


 「君は、媚びを売ったりしないのだな。嫌だとすぐに顔に出て、わかりやすい」


 げ。嫌な顔つきしちゃっていたのか。


 「す、すみません……」

 「責めているわけではない。むしろ嬉しい」

 「はあ……」


 Mっ気がある王子様ですか……。


 「なんだその表情は?」

 「え……」

 「凄く嫌そうだな。何か勘違いをしているみたいだから言っておく。あの三人なら試験だから倒す事をさせても、魔石を拾う事は彼らがするだろう。そういう事だ。だから驚いたのだ」


 そこまでするのか……。

 覚えがめでたくても別に僕には何のメリットもないからな。指導者になるだけだから。そこまでしなくてもいい。

 あ、でも王子にとってそれが普通? でもさっき、嬉しいと言ったよな?


 ふと王子を見ると、こっちをじーっと見ていた。

 しまった。放っておいてしまった。何か返事が欲しかったのかな?


 「えーと。僕には、そんな余裕はありませんでした」

 「っぷ」


 噴出して笑われてしまった!

 僕、そんなに変な事を言ったか?


 「百面相していると思ったらそんな答えか」


 バカにされてしまった。

 まあ試験の事も知らなかったのだから仕方ないけどさ。

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