第5話 ちょっとだけ見えた希望
次の日、スライムダンジョンに行って驚いた。ガーナラルド王子が来ていたんだ。てっきり昨日だけかと思ったらちゃんと三日間通うらしい。
僕を見かけると、「今日も頑張ろう」と声を掛けてくれて、ダンジョンに潜りに行った。
「じゃ、俺達も行くか」
「はい……」
「まずは、そのまま2階に直行だな」
そうすれば僕のスキルは増えるからね。
そうだ。毎日宝箱増えるんだよね? だったら下に降りたらサーチしてみよう。昨日は2階しかサーチしなかったけど、今日は5階までしてみるかな。
魔法陣で僕達は2階に降りた。
さてと……サーチ。
……うん? 表示されないな。
「サーチ」
「どうだ? 宝箱はあるか?」
「うーん。変だな。表示されない」
「うん? 表示されない? ちょっとステータス出して見ろ」
「うん。ステータス」
HP:25/25
MP:5/5
体力:108
魔力:10
腕力:6
素早さ:60
スキル増殖
バイバイ
「え……」
「なんだそのスキル……」
僕もレメゼールさんも驚いた。
まさか昨日と違うスキルとは思わなかったよ! しかも何その不吉なスキル名は!
「毎回違うのか……固定じゃないとすれば、それはそれで厄介だな。計画が立てられない」
うーんと腕組をして難しい顔つきでレメゼールさんが言う。
もしかしたらサーチも鑑定も、もう出て来なかったりして。一度きりのスキルだとしたらあんまりだ。
「で、バイバイってどんなスキル?」
「え? 確認するんですか?」
どうせ凄くたってここでは役に立たない。使わないからね。しかもダンジョンから出れば、なかった事になる。はぁ……。
「バイバイの詳細」
■バイバイ ダンジョンを出るまで素早さが倍になる。
あぁ。よく見れば、確かに倍になっている。このスキルが消えるまでは、倍でいられるって事か。スライム相手にこのスキルは必要ないな。
「これまた凄いスキルだな」
「凄いけど、必要ない」
「確かにそうかもしれないけど、考えようだぞ。例えば素早さがあれば早くダンジョン内を移動できる。倍にって事は、10階まで行けた時間で20階まで行けるんだぞ? うまく行けばいい装備を手に入れれるかもしれない」
それはみなさんの考えであって、僕はどっちにしても5階までしか行かない予定だし、もう出てこないかもしれないから全く意味がない。
「……なんていうかな。宝の持ち腐れ?」
「え?」
「凄いスキルなのに、本人はそれを活用する気がないようだからさ」
そうは言ってもね。ダンジョンに慣れてない僕が、毎回違うスキルを使わされるんだ。どんだけ大変だと思うんだよ。
一緒にパーティーを組む相手もいないし、一人なら安全を選ぶだろう?
そうすると必然的に、5階までとかになる。
それに使えるスキルが当たるかどうかわからないから、スキルをあてに出来ない。そうなれば、スキルに頼らなくても倒せるモンスターのダンジョンに行くだろうに。
「僕は、レメゼールさんと違って初心者なんだから毎回違うスキルを駆使するなんて無理。そうしたらスキルに頼らなくていいダンジョンに行くことになるから結局スキルは使わないんだよ」
「そっか。だったらギルドに所属したらどうだ?」
「ギルド?」
「やっぱり覚えてないんだな……」
確かにその単語には聞き覚えはあるけど、どんな意味だったか覚えてない。
「ギルドは、パーティーとは違ってずっと一緒に組む仲間だ。資金など出し合い、装備品を整えたり必要なモノを買ってみんなで使う。もちろん、沢山稼げば分け合う。ギルドにはランクがあって、ランク10なら10階まで行った事があるギルドだ」
なるほど。でも僕と組むメリットが相手にないんじゃ、受け入れてくれないだろうに。
「君の場合は、どこでも入れると思うぞ」
「え? なんで?」
「だから君のスキルは、君が思っているより凄いんだって事。ずっと奥まで行くパーティーなら大歓迎だろう。みんな一つしか持っていないスキルが、一時的にでも増えるんだぞ?」
「冗談じゃない! 僕は、5階までしか行く気ないから!」
その考えだと、最前線に行かされる! そうじゃなければ期待外れだと言われるだけだ。一人気ままがいい。別に英雄を目指しているわけじゃないからね!
「そうか。ダンジョン攻略は、人それぞれだからな。でもずっと5階までだとステータスは伸びないぞ?」
「別にいいよ」
「いや一か月後からきつくなると思うけど?」
「え?」
「君の様にその日暮らしだけだとモンスターが減らないだろう? だから一か月たったら君は、ひと月に稼ぐ量を課せられる。魔石の量だな。小さかったらいっぱい必要だ。でも大きければ数個でいい。免除してもらうには、俺みたいな割り当てにつくしかないが、これはそれなりの知識が必要だろう? 教えないといけないんだから」
うん? 一か月後には最低ラインを決められるの?
「それ守らないとどうなるの?」
「強制的に討伐隊に入れられて、ダンジョンに行かされる。まあ教育だな。モンスターの狩り方や、ダンジョン内の過ごし方などを指導される。できてないから稼げないだろうって事だ。怪我などでリタイアすれば事務仕事もありだけどな」
なんだそれ! 強制なのかよ。いや、元々強制だった。ノルマが課せられるなんて。
だったらレメゼールさんの様に、新人教育者みたいな割り当てに付ける様になろう。
年齢的に言って10年も頑張ればなれるよな? 条件を聞いておくかな?
「えっと。反省しました。僕、レメゼールさんみたいになりたいです! どうしたらなれますか?」
「俺? うーん。手っ取り早いのは、功績を残す事かな? 例えば奥深く行って凄い装備品を手に入れて帰って来るとか。モンスターを倒しまくるとか。それで信頼を得て、後は指導者に適している人物だとなれるだろう。凄い人物でも横柄な態度の者には任せないだろう?」
マジか。結構大変だった。でもずーっとよりは、10年間だけダンジョンに潜ってあとは、新人と一緒にの方がいいよな?
「丁寧に教えて下さりありがとうございます!」
「っぶ」
「え?」
「いや、態度がコロッて変わったからおかしくって」
心を入れ替えたのに。少しはやる気になったんだけど?
「まあ君ならなれるかもな指導者に」
「はい! 頑張ります」
やっと希望が見えてきた。
こうして僕は真面目にスライムを狩った。
今回覚えたスキルには、ステータスを上げるモノがなかったのが残念だ。スキルが活躍するのってそれぐらいなのになぁ。
腕力はあんなに頑張ったのに、今日も1上がっただけだった。
三日目、スライムダンジョンに行ったら何かもめていた。もめている相手がガーナラルド王子で驚いた。
「どうしたんですか?」
困り顔で見ていたレメゼールさんに聞く。
「それが……」
「クラド、待っていた。一緒に潜るぞ」
「うん? え~!!」
なんで僕が王子と一緒に行かないといけないの?
驚いてレメゼールさんを見た。
「本来三日目は、新人同士だけで潜る事になっているが、ガーナラルド様とクラド二人だけだったから三日目も今までと同じスタイルで潜る予定だったんだが……」
は? そうなの? いやいやいや。王子と一緒なんて無理! 何かあったらどうするの?
「行くぞ!」
そう言って、ガーナラルド王子はスタスタと歩き出した。
ちょっと誰か、あのわがまま王子を止めてよ!!
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