第2話 やる気がでません
最悪な誕生日から三日後、行きたくないけど家族に見送られてスライムダンジョンへと向かった。ダンジョンへ近づけるのは、スキルや魔法を授かった者のみ。
ダンジョンの入り口には必ず、建物が建っている。そこは、ダンジョンハンターの休憩所らしい。詳しくは知らない。
馬車に揺られ三時間、僕だけ乗せたスライムダンジョン行き馬車は無事に着いてしまった。ダンジョン行き馬車は無料だ。
建物の入り口は開いていた。そっと入って行く。
ガーナラルド王子はもう来ていた。三人のダンジョンハンターだと思われる人達と一緒に居た。
「おたくがクラドか?」
椅子に座っていた20代後半ぐらいの男性が近づいてきた。僕はそうだと頷く。
「俺は、君に数日つくダンジョンハンターのレメゼール。宜しくな」
「えっと、よろしくお願いします」
そう言えば、暫くの間はダンジョンハンターの先輩と一緒に行動するとか習ったっけ?
「まずは、登録な」
そう言ってカウンターへと向かう。
がっしりとした鎧に剣。そして、あまり艶のない紺色の髪。
「クラドさん、おめでとうございます」
「……はい」
なんで皆おめでとうって言うんだ。めでたくない!
「……では左手の甲を上にしてお出しください」
僕の反応が思っていたのと違ったのか一瞬驚いていたけど、カウンターのお姉さんはそう言った。
僕は言われた通り、左手を出した。
「これは、ハンターリングです」
そう言って指輪を左中指に嵌めた。
これがステータスだかを見れる指輪か。
嵌めると手の平側にチクリと痛みが走った。
「いた……」
「大丈夫ですよ。あなたの血を使ってステータスを確認するので針が出ただけですので」
「………」
針って……。授業で血を使ってとは言っていたけどそんな方法だったとは。
指輪の白いガラス玉が赤く染まっていく。
「では、ステータスを確認しましょう。ステータスを見たいと思えば、文字が浮かび上がります。出来れば何か黒いモノをバックにした方が見やすいでしょう」
はあ……知りたくない。
「で、でませんね?」
カウンターのお姉さんが困り顔だ。
「ステータスと言ってごらん。初めは怖い感じがして出てこない者いるから大丈夫」
レメゼールさんがそう教えてくれた。
怖いからじゃなくて、嫌だから表示されないんだけどね。仕方ないな。見ないといけないみたいだから。
「ステータス……」
そう言うと、お姉さんが言った様に文字が浮かび上がった。
HP:25/25
MP:5/5
体力:107
魔力:10
腕力:5
素早さ:30
スキル増殖
文字は黒い縁取りの白抜きで表示されていた。確かに黒いモノをバックにした方が見やすい。
「習ったとは思いますが、復習を兼ねて説明しますね。まずHPですがこれがあなたの怪我の程度を表します。0に近づく程、瀕死と言う事になりますね」
そう言えばHPが0になる事は死を意味すると習った。それだけは覚えている。
「体力とは、どう違うんですか?」
「え? あ、はい。体力は、持久力の目安みたいなものです。重い物をどれくらい持てるか。どれくらい動き回れるかですね。体力が高いと重い装備などしても疲れづらいという感覚でしょうか」
「たぶん、これが一番伸びる数値だ」
とレメゼールさんが補足した。
「MPは、魔法やスキルを使える容量ですね。これが少なくなると授かったスキルや魔法が使えなくなります。えーと、あれ? 本来はスキル名の後に使用MPの表示があるのですが……」
お姉さんが、不安を煽るような事を言っている。僕だけないってなんだよそれ!
「それは、こっちで確認するよ。それより着替えようか」
「あ、はい……」
「クラドだったっけ?」
うん? 突然後ろから声をかけられ振り向くと、ガーナラルド王子だった。
「はい。そうです」
「無事に戻れる様に頑張ろう」
「はい……」
「ささ、ガーナラルド様。行きましょう」
「では、先に失礼する」
「お気を付けて」
レメゼールさんが、頭を下げてそう言った。
やっぱり王子なんだ。
向こうは三人も先輩がつくんだな。
「なぁ、ミーナ。本来は、彼に二人着くはずが、ガーナラルド様について行ったから俺一人になったんだ。特別に何かつけてやれないか?」
え? 本当は僕にも二人つくはずだったの? それが一人向こうに行ってレメゼールさんだけになったと。
よりによってもう一人が王子だもんな。
「そ、そうですね。では帰還の水を差し上げます」
「帰還の水?」
「ご存知ありませんか? ダンジョンから戻る為に飲む水です。聖女が祈りを捧げた特別な水ですよ」
「へえ……」
「習わなかったか?」
レメゼールさんに聞かれたけど覚えてない。でもそんな便利な水があるなんて凄い。
「では、あちらに着替えを用意してあります。着替えたら出て来て下さいね」
「はい……」
仕方がない着替えるか。
装備品は、最初だけ国から支給される。ハンターの服に靴。それとリュック。中には、傷薬と水が入っているはず。
武器は指定しない限り剣だったはず。
まあ王子様は、自前の装備だったようだけどね。つく人も手厚く、装備もいいもの。それで死んだら凄い。
着替えて出ると、二人は様似なっていると言った。嬉しくないけどね。
「では俺達も行こうか。このダンジョンはスライムしかいない。奥に行かなければ、何も授かっていない者でも倒せる弱いモンスターだ」
「はい」
「お気を付けて」
お姉さんに見送られて僕達はダンジョンに入って行った。
ダンジョンは、モンスターの種類ごとに分かれていた。なので同じモンスターしかいない。奥に行くほど強くなる。と習ったような気がする。
「このダンジョンは、君達みたいにハンターになりたての者達しかいないダンジョンだ。ここで、感覚をつかんだら好きなダンジョンに行っていいことになっている」
「好きなダンジョン?」
「どのダンジョンも最初の階は、弱いからな。でも弱いと言ってもモンスターによって違いはある。魔法を使えるモンスターもいるし、素早さが尋常じゃないモンスターもいる」
「そうですか」
「別に一人で行く必要はない。大抵の者は、同じ日にダンジョンに入った者とパーティーを組むが……」
同じ誕生日仲間か。でも向こうは王子なんだよね? 無理だろう。これ詰んだな。はぁ……。
「まああれだ。別にそうじゃなくはいけないって事はないし……」
入ってすぐに重い空気に包まれてしまった。
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