英雄になんてなりたくないから!

すみ 小桜

第1話 最悪の誕生日

 その昔、この世界はモンスターで溢れていた。そこで、この世界を救って欲しいと祈った。祈って祈って……祈って、とうとう聞き入れてもらえた。たがそれは魔神様だったのだ。


 ダンジョンを作りそこにモンスターを閉じ込めてくれた。でもそこは魔神様。ダンジョンには、容量がありモンスターが増えると他の場所にダンジョンができ、ダンジョン自体が増えて行く。放っておけばダンジョンで世界は埋め尽くされる。


 これではいずれ、困る事になる。だがモンスターを倒せる人間がそんなにいないからお願いしたのだ。なのでダンジョンは、増える一方。

 それでまた祈った。


 また魔神様は聞き入れてくれた。なんと、無差別に選んだ者に無差別にスキルや魔法を与えるというのだ。その代わり、それを授かった者には必ずダンジョンのモンスターを倒させる事。と約束をさせられた。

 それは勿論、王族もだ。


 そこで王族達は、祈った。自分達が危ういからだ。

 それを聞き入れてくれたのは、祈りの女神様。でも祈りの女神様は、祈りを捧げる者に祝福を授けるだけだった。しかし、祈る事によってモンスターが増えるのを押さえる事が出来る様になり、祈りのスキルを授かった者は一度だけモンスターを倒しにダンジョンに入った後は、祈りを捧げる聖女となる。

 そして、ダンジョンで功績をあげたダンジョンハンターは、英雄として語られていった――。



 パタンと、ダンジョン物語の本を僕は閉じた。

 はぁ……。

 明日僕は、鑑定を受ける。15歳の誕生日祝いと共に……。全然嬉しくない!

 ダンジョンに入るのは、スキルや魔法を授かった者の義務。そう小さな頃から言われていた。


 聖女になりたいな。聖女って言われているけど、祈りのスキルを授かれば男でもなれる。ただ、女性が殆どらしいから可能性は低い。だったらスキルも魔法もいらない。

 死にたくな~い!


 「クラド!」

 「はい……」


 僕は名前を呼ばれて立ち上がる。


 「卒業おめでとう」


 拍手を送ってくれた。

 14歳まで学校に通える。今日で学び舎を去るんだ。15歳になった者の半分は、ダンジョンハンターになる。そう半分の者は、何らかの能力を授かるって事。僕はいらないけどね!


 今まで文字や歴史の勉強と、剣や弓などの武器の扱い方を習った。また畑仕事の手伝いなどもやった。ダンジョンハンターになってもならなくても生活していけるように。


 「では、一言どうぞ」

 「僕は……父と母と一緒に畑仕事がしたいです」

 「………」


 普通、ここで言うなら立派なダンジョンハンターになりたいとかなんだろうな。スキルや魔法を授かる事は名誉な事と習ったから。でも僕の本当の気持ちはこっちなんだ。


 「そうか。クラドの家は農家だったな。スキルや魔法を授からなかった時の覚悟も出来ているって事か。素晴らしい」


 先生はそう話を持って行った。

 今の所、兄も農業を手伝っている。つまりスキルや魔法は授からなかったのだ。両親も引退したのではなく、最初から授からなかった者達だった。なので、希望はある。

 僕の様な考えを持っているは、珍しいのかもしれない――。


 次の日、新調した赤い服を着て神殿へと向かう。僕の朱色の髪もあいまって、凄く目を引く格好なんだけど。もう少し色を考えて選んでよね。選んだのは母さんだ。


 「まあ、似合ってるわ」

 「……派手だと思うんだけど?」

 「俺の時よりいいと思うけど?」


 二つ年上の兄、スガルダ兄ちゃんは、金の服だっけ? あれもどうかと思うけど、母さんのセンスは今一だよなぁ。


 こうして四人で神殿へと向かった。基本神殿に入れるのは、鑑定をする者とその家族。そして、聖女様だけ。聖女様は、この奥でお祈りをしているらしい。僕もそこに加わりたい!


 受付を済ませ中に入った。

 入ってすぐに壇上があり、そこに二人が向かい合って立っていた。


 「クラドさんもあちらへどうぞ」


 どうやら僕も壇上に行くらしい。だとすると、あそこにいる一人は僕と同じく鑑定を受ける者か。

 銀の髪に銀の服。明らかに金持ちだ。服の質が違う。後ろ姿だから顔はわからないけど。


 歩いて向かって行くと、彼は振り向いた。凛々しい顔つきだ。こいつ絶対モテるぞ。


 「まあ……」


 という、母さんの声が聞こえた。それ以上何もいうなよ! 恥ずかしいから!

 僕は、彼の隣に立った。


 「では、これから鑑定の儀式を行います」


 うん? 二人だけ?

 今日15歳になったのって、ここら辺で僕と彼だけか……。どこの村から来たんだろう。


 「ガーナラルド様、失礼します」


 そう言って神官様は、ガーナラルドさんの頭上に手をかざす。


 「おめでとうございます。ホリーライトを授かりました」


 周りから拍手が起こった。一応僕も拍手を送る。世間一般的にめでたい事だからね。チラッと彼を見ると、俯いたままキュッと唇をかんだ。


 「……ありがとうございます」


 あれ? この人、僕と一緒で嬉しくない? もしかして仲間?


 「では、クラドさん、鑑定を行います」

 「はい」


 うん? あれ? 僕は、さん・・? なんで?


 「おめでとうございます。スキル増殖を授かりました」


 げ! なんでだよ!!

 拍手が僕にも送られた。なぜだ、なぜ家族で僕だけ授かったんだ~!


 「おめでとう」

 「あ、ありがとう」


 ガーナラルドさんが僕に手を出して来た。握手を求められているらしい。嬉しくないけど仕方がない握手を交わす。


 「お互い頑張ろう」

 「あ、うん」

 「では三日後、スライムダンジョン前にお越しください」


 神官様はそう言うと、壇上から降りて行く。ガーナラルドさんも降りて行くので、僕も降りると三人は喜びの表情で近づいてきた。


 「いやぁめでたい! 今日はお祝いだ!」


 父さん。今日は元から祝ってくれるんだったよね?


 「羨ましいわ。殿下と握手できるなんて!」

 「うん? 殿下? あ!」


 そう言えば母さんがよく言っていたっけ。第三王子と同じ誕生日だって。じゃあの人が、第三王子? って、なんでこんなところで鑑定受けているんだ? 王都から離れているだろう?


 「って、なんであの人が王子ってわかったの?」

 「母さんは、ガーナラルド様のファンなんだよ。一度、村にも来た事があってね……」

 「来たんだ……」


 知らなかったよ。


 「お忍びでね」


 と母さん。お忍びなのによくわかったね。さすがと言うか何というか。


 「最高の誕生日になったな!」


 いや父さん、最悪の誕生日だよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る