第17話 4月25日(水)助平実師範代の稽古

 天気は晴れ。昼にみんなで集まって、今日の活動を決めた。今週は能力レベルアップ週間なので、拳法を学ぶこととなった。だけど、空手部に入門するわけじゃないんだ。え?じゃあ、誰に学ぶかって?実はうちのレボ部の部員の中に親が道場を開いていて、自分はその道場の師範代までやっているのだ。皆さん、そんな奴は誰だと思う?そう。実はそいつは助なんだ。驚きだろ。

 今日は助にちょっとだけ拳法を習うんだ。今日の話は助の道場の玄関にみんなで学校から歩いてきた所からだ。

名取:ここが助の道場ね。

川村:へえーっ。助の道場って木造なんだ。

長崎:火をつけたら燃えそうだな。

助平:勝手に燃やすな。

長崎:まあそう言わず、道場へどうじょ。

助平:チャンポン寒いぞ。

長崎:じゃあ、この道場に火をつけてあったまろうか。

助平:お前。そんなにうちの道場に火をつけたいのか。

長崎:いやあ、サツマイモを持ってきたから焼き芋が食べたくてさあ。

助平:おい。うちの道場は落ち葉か。

川村:あの、そこの二人。無理にギャグを言わなくていいからさあ、早く中へ入ろうよ。

助平:わかった。わかった。

 みんな中に入った。

 助の道場はけっこうシンプルな造りだった。広さはバスケットコート二個分ぐらいで、床は畳である。

 壁を見てみると、「色即是空」と書いてある掛け軸があった。その下に、頭のてっぺんがはげている、白髪のじいさんが座りながらこっちを見ていた。

 助はそのじいさんに言い出した。

助平:師匠。今日は友達を連れて来ました。今日は稽古日ではないので、うちの道場が空いているから、今日のクラブ活動をここでやらせてください。

助の師匠:クラブ活動かい。ここでは格闘技しかできないが、格闘技をやるつもりかい。

助平:さすが師匠。すべておわかりで。

 よーく聞くと、この会話変だよね。僕は、ボケが始まっている爺さんの師匠をおだてているにしか見えないけど・・・。

助の師匠:そのぐらいのことはお見通しじゃ。それならまずは胴着に着替えなさい。胴着なら1番の棚にあるから。

名取:ちょっと待って。胴着に着替えるとか言ってて、実は胴着が水着だったって言うことはないよね。

助平:静香ちゃん。いくらなんでも、そんなわけないよ。根拠は何だよ。

名取:根拠?それは、助の師匠だからに決まってるじゃん。

助平:静香ちゃん。それはないんじゃん。

神山:でも、胴着は破れているでしょ。

助平:まあ、とにかく胴着に着替えてくれ。

 助が胴着を持ってきて、一人一人に胴着を渡した。その中には破けている胴着もあった。もちろんレボ部の女どもは不満だった。

川村:助ーっ。これはどういうこと。

助平:伝統ある胴着だからだよ。そうですよね。師匠。

助の師匠:実(助の名前)。いま、わしは精神統一をしておる。声をかけんでくれ。

名取:助。見損なったよ。

長崎:それなら、その胴着もついでに燃やしちゃおうぜ。

助平:チャンポンは燃やすことしか頭にねーのか。

朝霧:でも、これって、実はジョークで、ちゃんとした新しい胴着があるんでしょ。ね。助平君。

助平:朝ちゃん。察しがいいねえ。今日の俺、朝ちゃんにはかなわないかも。と、いう訳で、胴着は更衣室のロッカーの入り口に用意してあるから、みんなそれに着替えるように。

 5分後。みんな着替えてきた。

助平:よし、みんな、これから、準備運動をするけどいいかい?

助以外全員:O.K.

 準備運動とストレッチが終わった。

助平:では、さっそく、二人一組になってくれ。もちろん男は男と、女は女とだ。

秋山:何で男と女がペアーじゃだめなの?

名取:清彦君。みんな男と女がペアーだと、誰とも組めない助が惨めになるからよ。

助平:静香ちゃん。それは違う。男と女がペアーだとみんな真面目じゃなくなるからだ。

名取:助。そのセリフ助らしくないよ。

助平:じゃあ。静香ちゃんは男とペアーを組みたいのかい。

川村:わかった。静香ーっ。実は清彦君と組んでいちゃつきたいんでしょ。

 ここで、静香ちゃんがとんでもない答えを言った。

名取:そうよ。当たり前よ。恋人同士でいちゃつきたいのは当たり前よ。ね。清彦君。

秋山:え?あはは。あはははは。(冷汗)。

 今日の静香ちゃんはちょっと変だった。

佐々木:とにかく先に進もうぜ。

助平:そうだな。今日は暑いからしょうがないってことで、では、男同士、女同士でペアーになってくれ。

 こうして、助平実師範代のレッスンが始まった。防着を着て互いに攻撃しあうという実戦式であった。

 助の教えは意外にもうまかった。助がどういうふうに教えたかは内緒。どうしても知りたい人は講習料として八千円。

 とにかく、話は戻って、助の講師は一通り終わった。

助平:みんな疲れたかい。

佐々木:みんな、実際に試合をしてみようぜ。

川村:えー。やだー。

名取:私も。ね。清彦君。

秋山:え?う、うん。でも静香ちゃんとだったらいいかな。は、ははは。

川村:今日の清彦君も少し変ね。

助平:この二人は、暑さでほてってきてるのかなあ。

神山:疲れてるだけじゃない?奥の部屋で休ませたら。

助平:奥の部屋で二人きりはよけいに危ない。

川村:そうよね。帰るときに静香が赤ちゃんなんか連れてきたら大変だからね。

秋山:あの・・・。赤ちゃんって、生まれるのにものすごく時間がかかるんだけど。

長崎:朕も危険だと思う。静香ちゃんが赤ちゃんなんか連れてきたら、この道場は燃えちゃうからな。

助平:チャンポン。お前も別の意味で変。

佐々木:それより、とにかく試合やろうぜ。

助平:佐々木。そんなに試合をやりたいのか。うーん。他にやりたい人はいるか。

 試合をやりたい人は他にはいなかった。

佐々木:じゃあ、佐々木、俺とやるか。

佐々木:おう。やるか。

 僕はドキッとした。この二人って恋のライバル同士だからだ。

神山:佐々木君がんばって。

朝霧:助平君がんばって。

 この応援は人間関係が露骨に出てるなあと思った。美子ちゃんは佐々木が好きで、朝ちゃんは助が好きだからだ。当然次はこのセリフがきた。

長崎:二人とも私のために喧嘩しないで。

 おい。そのセリフはチャンポンじゃねーだろ。と僕は心の中で突っ込んだ。

川村:チャンポン。ボケないでよ。

長崎:え?このセリフ、愛ちゃんのセリフだった?

川村:えーい。二人ともがんばれ。

 愛ちゃんはヤケになっていた。

助平:じゃあ、試合を始めるぞ。一応防具はつけて、時間は三分間の1ラウンド、一本勝負。審判は・・・。

名取:愛が適役だと思う。

川村:なんでよ。静香の裏切り者。

名取:さっきのおかえし。

 審判は愛ちゃん以外満場一致で愛ちゃんに決まった。

川村:えー。・・・・・・。では、試合を始めます。一応、二人とも怪我をしないように健闘を祈ります。もし、怪我をしたら私が介抱してあげるのでがんばって。

 僕は、愛ちゃんもうまいことを言うなあと思った。この言い方では、助も佐々木も本気を出すことはできないからね。え?なぜ?って。それは、本気を出して相手を倒したら、倒されたほうが愛ちゃんに介抱されるからだ。まあ、僕もこのセリフで一安心したけど。

川村:では、始め。

 お互い拳を繰り出し、足を使い、いろんな角度から攻撃をしていた。

 実力は互角に見えた。でも、僕から見たら手を抜いているようには見えなかった。二人とも強いなあと感心してしまった。

 三分が経った。

川村:じかーん。ストップ。二人ともストップ。

 試合は無事に終わった。佐々木はだいぶ息が上がっていた様だった。

助平:佐々木。お前、結構強いなあ。

佐々木:助もなかなか。

名取:佐々木君。今日はこれで活動は終わり?

佐々木:そうだな。今日はこれで終わり。これからはチャンポンがサツマイモを持ってきたみたいだから焼き芋しようぜ。助。いい場所あるか?

助平:庭でやっててくれ。俺は師匠とちょっと話をしてるから。

 みんな庭に行き、落ち葉を集め、準備をした。

名取:誰かマッチ持ってない?

川村:私が助にマッチどこだか聞いてくる。

 愛ちゃんは助の所に行く途中で、助とその師匠との会話が聞こえた。愛ちゃんは立ち止まって、その会話を聞いた。

助の師匠:実(助の名前)。さっきの佐々木君との練習試合手を抜いてただろ。

助平:わかってました?さすが師匠。

助の師匠:おい。師匠をおだてるんじゃない。・・・。まあ、とにかく、理由は?

助平:恋敵でも親友だからですよ。

助の師匠:そうか。はははは。

 愛ちゃんはこの会話を聞いていない振りをして助を呼んだ。

川村:助ーっ。どこにいるの。

助平:あ、愛ちゃんの声だ。

 助はマッチを持って愛ちゃんの所へ行った。

助平:愛ちゃん。マッチは持ってきたぜ。

川村:うん。・・・・・・。助。頭にこぶがあるんじゃない?見てあげるから頭を下げて。

助平:こぶなんかないけどなあ。

川村:いいから。

 助は少し腰をかがめて、頭の位置を下げた。その時、愛ちゃんは、助のほっぺにキスをして、さっさと庭へ行ってしまった。

 え?なんでキスしたかって?僕が知るわけないじゃん。まあ、それぐらいは考えてくれ。

 その後はみんなで楽しくやきいもを食べた。

 今日はここで話は終わり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る