第十三話 『紅炎の激情』
【証明——解放!】
叫びと共に、夜闇に赤い炎が駆け巡った。
アスファルトの地面や壁面が、真っ赤な色に染まる。
燃料もなしに、ひとりでに炎が広がった。
その炎の発生源は俺の胸の中心、心臓の位置。
ごうごうと、燃え盛る烈火の元は感情の爆発、つまりは心火。
「総汰、あなた……体のそこらじゅう、燃えてるわ!」
突如俺の身に起こった事態に、智富世が焦りを含んだ声を上げる。
彼女の指摘通り、周囲の景色と同様、俺は身体の至る所に炎を纏っていた。
揺らぐ焔が、俺の影を不明確な形に作り変える。
炎は全身を包んでいるのではない。心臓を中心として頭や手足に炎が伝播、血管をなぞって肉体に炎は広がっていた。
「熱い……」
烈火を帯びる肉体の随所が、熱い。
だが苦痛は伴わず、代わりに満たしているのは、燃えあがるような闘気だ。
俺の中の心の熱が、高揚する。
「燃える。ただ、燃え盛る。この私が! この俺が! 嗚呼、接続! この感覚、悪くねえ!」
沸き上がる感情に当てられて、歓喜が口から溢れ出る。
『私』だなんて自分でもわかるくらい、自己の在り方が普段と掛け離れている。
まるで誰かに心を乗っ取られたよう。
そう。これこそ、単存在の俺の力。
他者と自らを存在規模で繋ぎ合わせ、同期する。
無秩序に他者へ手を伸ばし、接続を図ることで自らの存在を世界に証明、自らの領域を広げる怪物。
奇縁の単存在が引き起こす、存在証明の一側面。
「縁結び、力、借り受ける! こころ
繋がりの強い他者と接続し、その者の要素を借用する。
まさに、縁を結ぶだけで世界を掌握しかねない、悪辣な単存在現象。
他者との繋がりがそのまま強さに変わる、それが俺の単存在としての証明だった。
気づけば俺は、記憶にもない女性の名を、旧知の友であったかのように叫んでいた。
『こころ姉』と。
力だけでなく、互いの意識が融けあっている。
自我が混合してしまいそう。
己を焼く炎は、俺の感情の発露だけでは無い。
地を轟かすほどの彼女の熱が伝わってくる。
俺の全身を燃やす炎は二人分の情熱。
『証明』による己の解釈を確定させなければたちまちに思考回路が蒸発してしまう、無際限の情報量。
『感情の種』。物語を進める原動力のモデルケースが、
「貴方の炎……ただの燃焼反応じゃなくって、感情の写し鏡ね」
「ああ、私はな……違う、俺は智富世や祈織を守りたいって気持ちが抑えられない。俺に力を貸してくれた人は、そういう強い感情を力に変える力をくれた」
なんとか性格を平常に保って智富世に答える。
証明をしていたというのに、こころという未知の英雄の自意識は強すぎる。でもそのおかげで彼女の持つという感情の種、その知識を引き出すための情報が記憶域に植えつけられた。
今、この身を包む炎も、感情の知識を司る権限の一端。
湧き上がりとめどなくあふれる感情を、純粋な力に変換する。溢れる炎は、単存在の容量を持ってさえ余剰する力の余波だ。
「まだ、戦うんですか」
「そうだ。でも……」
この土壇場で俺が力を得たことを、目の前の少年も理解したのだろう。
流石は全宇宙、全物語の根源。あれほどの力を使ったあとでも消耗の様子一つない。
「これは、殺し合いなんかじゃない」
いい加減、力の要領を読み解くのは心の限界だ。
そんなことはとっくに理解してる。
意識するのは目の前の彼を止めること。それだけでいい。
「感情の種は人を殺すためじゃなく、救うために使う。それが持ち主の思いだった。だから俺も、その願いに応えて……」
向き合え、繋がれ。意識も、情報も。
——つう。
スイッチが、切り替わる。
心の線が、視線を向けた彼に集中した。
「
彼の名を叫ぶ。
大地を蹴った。
「……ぐっ!」
感情の炎に爆発的に底上げされた身体能力は、調整を知らない俺の身体を前方に吹き飛ばす。
どぱん! とコンクリートが爆ぜる音が響いたのは俺が跳躍から何秒後か。
肉薄する速度は彼——歩に到達するまで、一秒と掛からない。
だが。
「それくらい!」
歩の周囲に、無数の拳が浮き上がった。
そして浮遊した拳すべてが、直進する俺を打ち落とそうと同時に迫ってくる。
苛烈さを増した猛攻は、本気で俺を殺しに来ているということ。
「——っ!」
すんでのところで宙を蹴って、体制を変更し回避。
直後に飛来する魔手を横に飛んで避けつつ、ひたすら歩の元へ。
後退は彼に有利を取らせる。精密な身体の動作で、拳の間隙を縫ってでも前に進む。
気付けば、景色はスロウになっていた。
己の知覚を肉体の動きに適応させていた。
しかし、減速した世界の中でも未だ高速を保つ拳達。俺の機動速度を上回って迫りくる。
俺が回避行動に意識を囚われている隙に、歩は俺と距離を開いていく。
これでは、追いつけない。
現像の種同士の基本性能事態は対等であるはず。なら、炎……『
不足しているのは、動作の最適化。
彼の放つ魔手を回避する動作の能率を上げること。
そのために必要なのは彼の攻撃の癖、彼自身の気配、彼の──手塚歩の情報。
単存在証明をした俺には、ただ欲するだけで彼の情報が流れ込んでくる。
無選別な膨大な彼の要素が。
俺の能力は智富世の知識の種のように、任意の情報を読めるわけじゃない。ただ、直視出来るだけの代物。ただ見るだけじゃ裸眼で太陽を見るようなもので、目を痛めるだけだ。
何度も自分に言い聞かせる。
捉えろ。一心に相手の必要な要素を見定めろ。
沈黙を貫く彼を、言葉以外の情報で分析する。
「はッ、はぁーーっ……」
荒く、興奮したような呼吸。
現像の種の持ち主が、疲れることなど無い。
きっと、人間時代のくせが抜けていないんだ。
つまり歩は、俺と同じで戦いに慣れていない。
恐らく搦め手は有効だろうか。
もっと、情報が欲しい。
彼との距離が離れないように加速して、心の線から流れ込む歩の情報を読み解いていく。手塚歩を解体する。
例えば彼の浮遊する拳、あれはなんだ。
現像の種だということは分かっている。
だが、一体如何程の知識のモデルケースであるのだろう。
その疑問に、単存在の力は言葉でなく直接的な五感の刺激として見せてくる。
飛来する物体を避けながら幻影を認識するのはかなりの集中力を要するが、それは度外視だ。やってみせる。
視界に映ったのは単純な立方体。
その中は空洞で、天面が蓋のように開いている。
箱……?
俺の問いより先に、目の前の箱はぐにゃりと形を変える。
続いて形作られたのは、赤茶色の丸みを帯びた壺だった。形容するのであれば土器。そういう例えが相応しい。
しかしそれもすぐに形を変質させ、次々と形を象っては消えていく。
卵、ボトルシップ、コンピュータ、細胞、宇宙の泡構造、ティーポット。
そして最後に白と朱を基調とした和装、巫女服に身を包んだ白い髪の少女。
──『器』か。
理解する。
手塚歩の現像の種が司るのは、器の知識だ。
世界を形作る宇宙の基本単位。
内と外を隔絶して内部の物を他者から守り、中身が溢れないようにする。
生物の細胞を守る膜も、その生物の作る縄張りも、縄張りとなる大地や海も、星も、宇宙そのものさえ、ある一種の器だ。
彼はそんな器という定義を物語に設定した種子を持っている。
気づけば、ある事に合点がいった。
彼が襲撃してくる直前、俺の自宅のドアが幾ら鍵を挿し直しても開かなかった。
あれは、家を一つの器として扱うことで、出入り口を蓋にしたんだ。
なら彼が今も飛ばし続ける魔手や、夜を振らせた『
彼が能力を使う時、周りの空間が歪んでいた。
空気ではなく、空間そのものが。
そのせいで無理やりに歪まされた空間が黒く、紫電を纏っていた。
本来硬さなど存在しない空間に器という概念を設定、適用させ、解き放っていたということだ。
そして解き放たれた空間は、周囲の空間を押しのけて進む。
どのような生物であれ、自らの位置する空間そのものが抹消されれば耐久度など関係なく、等しく身体を失ってしまう。
智富世がダメージを負わなかったのは、彼女が空間と不干渉で、任意の場所に存在していたからだ。
厄介な相手だ。
現像の種。世界を作った物語のプランナー。
宿主の思いのままに、世界を作りかえる力。
その気になれば、彼の周りの空間を器として、完全な障壁だって作れるのだろう。
それをしないのは、空間という概念では強度が足りないから。重力に歪まされる程度の概念では、種を持つもの同士の戦いでは効果を成さないからだ。
それでも器という知識を設定できるならば、脅威となる定義の一つや二つ、世界に適用できるはず。
無理に歪んだ空間の拳も、透明な不可視の攻撃にできたはずだ。
歩は恐らく、種の使い方を熟知していない。
なら。
地面を踏み締める脚に、今までより強く力を込める。
歩の意識が俺に集中していることを、彼が俺を視ていることを、確認する。
「……!」
──目が合った。
今だ。
蛇に睨まれた蛙は体を竦ませると言うが、感情を司る権限を持ってすれば、視線を交わした相手の感情を傾け、恐怖心を引き立てるなど容易な事。
苦痛の恐怖、他殺の恐怖を視線の中に擦り込ませる。
『
「──っ!?」
一瞬、俺を見る歩の表情が強ばった。
たった一瞬、それでいい。
それだけあれば、感情の炎は彼まで届く。形相の腕の射程に入る。
「……ふっ!」
一瞥と同時に、貯めた力をバネにして跳躍する。勢いの弱まった魔手の間を一呼吸で駆け抜けた。
歩に向けて腕を伸ばす。腕の痣から『証明』によって糸から腕ほどの太さにもなった形相の腕を解き放つ。
「近づいて来ますよね……っ!」
伸ばした形相の腕は、突如突き上がった大地に妨げられた。
恐怖から解放された歩が咄嗟に器の種の権限を行使し、アスファルトの壁を作り上げったためだ。
だが、今更その程度の防壁など障害足りえない。
「そんなんで俺は止まらない、ぞ!」
吠えながら、せり上がった地面を拳の一撃で叩き割る。崩壊したアスファルトの壁から、勢いよく瓦礫が飛び散った。
一瞬、巻き上げられた砂塵に視界を遮られるが、真正面に押し退け、突き進む。
そのまま形相の腕を歩の全身に巻きつける──直前で、今度は濃紺の塊、俺の足元の空間そのものが器へと変質し、空中へ吹き飛ばされた。
そして歩自らも上空へ飛び上がり、紫電を拳に纏わせ叩きつけてくる。
「やァッ!」
半ば反射的に形相の腕で盾を形作り、俺は高速の
衝撃が形相の腕越しに、ダイレクトに伝わってくる。
思わず、歯を剥く笑みが漏れてしまった。
「地面を壁にしたのは、視界を遮って器に変えた地面に俺を踏み込ませるためか。戦いに慣れてはいないだろうに、咄嗟に考えたな……!」
ああ、くそう。殺しが嫌いな癖に、好戦家だった英雄の性格が表に出てしまう。
傷つけたくないのに、楽しいと感じてしまう。
「じゃあ……やろう、か!」
挑発と共に、俺と歩は更に高みへ跳躍した。
瑠璃髪の少年は、空間を実体のある器へ変質させ足場とすることで空を飛び回る。
対する俺は起動させた祈織の人工翼と、空気を力任せに蹴り飛ばすことで宙を舞う。
星明りの下、濃紺の闇と紅の炎が幾度となく衝突した。
交錯の度に星屑の光が夜空に飛散する。
何度も、何度も拳を交える。
視界の外で形相の腕と浮遊する拳がぶつかり合う。
「まだだ。もっと速度を上げろ!」
世界中の全てがフィールド。
何たる高揚感……!
心のままにぶつかり合って、縦横無尽に世界を駈ける。
空を、街を、地球を!
風を置き去りにしての立体戦に、種の持ち主の記憶が懐かしさを覚えていた。
燃え盛る心の炎をぶつければ、敵も味方も熱に当てられる。
他の事なんて意識から抹消されて、ただ戦いに熱中する。
翼の軌跡の電光が紫電と混ざり合って、二色の稲妻を呼び起こしていた。
地上から見れば、奇異な稲光はオーロラや夜光雲のように見えたかもしれない。
だが稲妻がどのように見えていたか、それを俺達が確認する手段はとうに失われていた。
だって、街の光は既に遠く下。
気づけば空気が薄い。自分たちの上にあるはずの雲海さえ、目下に広がっている。
つまり俺達は、空と宇宙の境界まで辿り着いていたのだから。
「ここは中間圏。……本当に規格外だ。この力」
徐々に、意識せずとも性格を保てるようになるうち、俺は自らの借りた現像の種が想像以上に人の手に余る性能であることを実感していた。
たった十数度の交錯。それだけで、生身の人間では到達しえない座標まで移動していた。
こんなに地上から距離があるというのに、智富世が今もこちらを捉えている事実を、こちらからも捕捉し返すことで理解している。
成層圏より上の空間である中間圏はマイナス何十度の冷気だというのだが、俺も目の前の彼も肌寒いだけで済んでいる。
明らかに、本来人間という狭い規格には収まらない代物だ。
一体どこまで行けば限界に辿り着くと言うのだろう。
心の奥で、赤髪の女性が渇望している。
もっと戦いを続けていたい、と。
「でも……これで終わりにしよう」
その欲望を、俺は拒絶した。
何故なら、俺は進んで彼と対峙した訳じゃない。智富世を守りたくて、彼と戦う道を選んだのだ。
戦闘に熱中するだなんて、俺が本来嫌悪する行為である。
「そうだ、こころ姉。俺達は戦う為でなく、救いたいんだ」
俺は全身を駆け巡る煙炎に、持てる意識を集中させた。
展開した翼を駆使し、更に高度を上げる。
目指すのは、夜の王座。
地球を最も近くで見守る星、月へ飛翔する。
俺が何か仕掛けようとしていることを察してか、歩も大きく距離を取った。
彼の背後の雲に、無光沢の亀裂が走る。
彼も切り札を、切るつもりでいるらしい。
「いい加減、決着をつけます……!」
啖呵を切った歩に応えて、38万キロメートルの距離を一気に飛翔する。
神々の沈んだ星、人類の出発点へ。
近付けば、月はなんて遠い場所にあるのだろう。
振り返れば、青く染った生命の移住星が、小さな球体に収まっていた。
人間の肉眼では捉えられないほど、少年の姿は遠かった。
だが、感傷に浸る暇も残ってはいない。
──ずず、り。
音を伝える媒質の無い宇宙に、世界がひずむ音が響いた。
発生源は地球の方。光すら到達するまで1秒と少しの時間を要する距離であるというのに、鳴動は耳を塞ぎたくなるほどに響いていた。
周波数を低くした鯨の鳴き声にも似た轟音が、月の大地を震わせる。
まるでそれは、法則を破られた世界の悲鳴のよう。
そして、地球の蓋が開いた。
光を返さない、空虚な孔が地球の中心に顕現したのだ。
「地球を……じゃない。雲を器にして、その蓋を開いたのか!」
虚空の正体を、単存在の本質が理解する。
あれは雲、正確には先ほどまで雲であった知識だ。
歩は地球の夜空に広がっていた雲を器と定義し、その器に『蓋』の概念を適用。
器から蓋を取り外すことで、強制的に知識を放出させていた——!
「なんていうか滅茶苦茶が過ぎる」
孔のように見えたのは、通常の方法では発見不可能な雲の内部の記憶域だ。
無理やりに、蓋を取り除かれた雲の中身が現実世界へ露になる。
瓶から栓を抜けば、中身が溢れ出るのは必定の事。
至極色のストロボライトが、雲の孔から放たれた。
「
物理的干渉力を備えた光線へと変貌した知識の塊は、正確な狙いで俺の元へ照射される。
月と地球の間を引き裂き突き進む光は、
濁流のように荒ぶるのは、知識の本質を調律していないため。
未調整のエネルギーは周囲の宇宙そのものを捻じ曲げ、智富世の『
流石に直撃すれば、ひとたまりもない。回避する選択が正しいのだろう。
だが、対象を俺に絞ってはいるであろうが、恐らくあの光線自体は器の種の対象外。
回避すれば、月が傷つけられてしまう。
【その行為は、
故にこちらも、月面へと降り立った。
一面白銀の、砂の世界。着陸地点の近くに細長い車輪の跡のようなものが刻まれていた。
思わず意識をそらしてしまいそうになる。
「月。当たり前だけど、来たことなんてなかった。……でも」
——月に望みを抱くのは、今じゃない。
軽く息を吐いて、纏う炎を右足へ集中させる。
右の足先で地面を二回小突くと、無音のままに火花が辺りに飛び散った。
「ハ……ッ」
そして集まった焔を、足を引き構えるのと同時に解放した。
爆炎が、ぼうっと月世界に響き渡る。
極限まで圧縮した情熱を、限界を超えて爆発させたのだ。
まさに、燃焼とは桁違いの太陽の炎。
そのまま炎を纏っていない左足に、力を籠める。
対象は星を砕く知識の光線。
背に電光、足に太陽を据えて、月の地を蹴った——。
右足に炎を集中させても、身体能力自体は衰えない。六分の一の重力を軽く振り切って、迫りくる光線へ一っ飛び。
身体を地球の方へ反転させて、恒星を抱く右足を伸ばす。
翼の推力を最大まで引き上げて、急加速する。
迫りくるビームを飛び蹴りで迎え撃つ。
さながらテレビの世界の英雄のよう。でも確かに、こころという女性は英雄を体現していた。不可能を可能とする英雄であった。
ならば俺も、奇縁の単存在として、彼女という英雄像を体現し使いこなして見せよう——!
「うおりゃァアアアアア——ッ!」
ラグランジュポイントにて、光線と紅炎が交わった。
暴走する知識の奔流は、俺の全身を喰らい尽くすさんと流れ込んでくる。
対抗する武器は己の身、ただ一つ。
光線の中を、キック一つで貫いていた。
紅炎が光線と反発し合って、全身が焼き付くように熱い。
中でも、今も燃え盛る右足は、以前の俺なら意識を奪われかねないほどの痛みが襲っている。
耐えることが出来るのは、
彼女の強靭な精神が、俺の背中を押していた。
誰かを救いたくば、痛覚になど騙されるなと。
相当な無茶を、彼女は言っていると思う。
痛覚に動じるなと、生存本能に抗えと言っている。
自らを犠牲にできる狂気に染まれというわけだ。
でも、彼女はそうやって街を守っていたらしい。
人々を救うには、それほどの覚悟が絶対であったらしい。
到底俺如きには真似できない高潔な精神、そう確信できる。
ただ、大切な接続者達を守る。その為ならば——。
——なんだ、簡単なことじゃないか。
智富世や祈織、悠、日優。俺にとって、大切な存在。
彼女たちを守れるのなら、痛みなど、自己など、死さえ、気にすることではない。
【死んだって彼らとは、記録として繋がっていれるのだから!】
思い至れば、心が熱で満たされた。
感情に呼応して、宿る炎も最大の火力で全身から放たれていた。
勢いに任せるだけ、ただそれだけで光線を散らして霧散させていくほどに。
もう、世界のエッセンスなど何の障害にもならなかった。
真空を光が直進するように、最盛の速度で知識の濁流を遡る。
秒読みすら数えないうちに光線の大河を渡り切り、そして——。
——歩の元へ、辿り着いた。
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