第4話 結




 溺れる夢を見た。


 生暖かい、ドロっとした血の海に僕の体が沈んでいく。


 必死に手足を動かそうとしても、動かない。僕の体は鉄の鎖でぐるぐる巻きにされていた。誰かが僕の足を掴んで、更に下へと引きこむ。


 自分はこのまま死ぬのだと思った。

 それもいいかもしれない。楽になれるから。


 が、そう思った瞬間、僕の体は急速に浮上していく。


 「がはっ」

 

 鼻や喉の奥まで流れ込んでいた血を吐き出した。激しく咳き込む。

 その苦しさに、まだ生きている事を実感した。


 なんだ、まだ楽になんかさせるかって事か。


 運命はまだ僕に尻を拭かせる事を要求しているんだろう。

 なら、存分に生きてやる。


 金太郎は僕にのしかかったまま、既に冷たくなっていた。


 僕は必死に金太郎の体の下から這い出ようとする。体のあちこちの骨が折れているようだ。激痛に顔を歪めながら、少しづつ這っていく。どうにか金太郎の体の下から這い出た僕は、また再び気を失った。



◇◇◇




 ピタッピタッピタッ


 何かの音が近付いてくる。


 朦朧とした意識の中、その音を漠然と聞いていた。音は次第に大きくなっていく。どうやら足音のようだ。音がする方を見ようとするが、何も見えない。

 

 ああ、目を開けてないのか。


 気づいた僕は目を開けようとしたが、瞼が開かない。手でこすった。

 ニチャニチャした。血が固まってしまっていたようだ。何とか薄っすら瞼を開ける。薄暗く、ぼんやり赤く染まった部屋が見えた。


 あれから何時間、いや何日たったのだろう?

 

 時間の感覚がまるでなかった。ついさっきのように思えるし、1週間前のようにも思える。


 やがて足音が止まり、入口から鬼がぬーっと顔を覗かせた。人間よりひと回りほどデカかった。鬼としては標準サイズだろう。肌の白い鬼だった。


「こりゃひでぇや、クックッ」

 部屋の様子をぐるりと見渡した鬼が、そう呟くのが聞こえた。

 ゆっくり中へと入ってきた。


「旦那、ダンナ〜、居ませんかい?」鬼が呼び掛ける。


 僕は声を出そうとしたが、喉もやられて、上手く出ない。


          「ここだ、僕はここだ」


 鬼が足元を探りながら近付いてきた。発見した僕を見下ろして、にいっと笑う。


「旦那、無事でしたかい?」


 そう言いながら僕をヒョイッと掴み、掌の上に乗せた。そのままゆっくり立ち上がる。


「また、随分と派手にやりましたね」鬼が嬉しそうに嗤う。


 高い目線から見た宝物庫の中は、壮絶な風景だった。


 目も眩む財宝の前で、海老のように背を曲げて、血溜まりに横たわる浦島太郎。


 背中を真っ赤に染めて絶命している金太郎。


 そして、その金太郎の下で頭を割られ、右手と命を失った桃太郎。 


 宝物庫の地面は、その三人に血で赤く濡れていた。


 こうして見ると、よく生き残れたものだと感心する。

 それもまた運命というものなのだろう。


 僕は鬼の、鬼に告げた。







「さぁ、









 


 

 



 


 

 



 

 







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