中編
玄関の扉を閉じ、急いでいつもの格好へ着替えるべく横道に入ろうとした時、目の前に子供がいた。
綺麗な身なりをしており、商人がよく被るのと似た見た目の帽子を被っている。
このような路地にいるとは思わぬその身なりとその帽子から、行商人の子だと彼女が予想する。
その子はオロオロと怯えた様子と足取りで、目の前の道の真ん中にいた。
「どうしたの?道に迷っちゃった?」
その様子に見かねて彼女がその子へ近づき、膝を折って視線の高さを同じにする。
「うん。町をずっと見てたらお父さんとはぐれちゃって・・・・・・。」
目に涙を溜め、それを服の裾を引っ張りそこで拭く。
彼女がその
転んだのだろう、と彼女がその傷に手を添え治療の光を出すと、その傷はすっかり消えていた。
「大丈夫。すぐにお父さんに会えるからね。」
彼女が立ち上がり、その小さな手を握る。
行商人ならば宿屋に部屋を取る
そう考え、町の門へと向かった。
「お父さんってどんな人かな?」
ただ黙ってその子の手を握って歩くという状況に耐え切れず、その口を開く。
「えっとね、えっとね。おっきくてかっこよくてー・・・・・・でもちょっと臭い人!」
その子が空いている手で鼻を摘まむ。
「お姉さんは僧侶さんなの?ここにあった傷も綺麗に直してくれたよね。」
その子が擦り傷のできていた部分に手を当てて尋ねる。
「う、うん。そうだよ。」
これからする予定だった事を思い出してしまい、彼女の浮かべる笑みがぎこちなくなる。
「そうなんだぁ。どんな傷も治しちゃうなんてすごいなぁ・・・・・・。」
その子が握っている手をキラキラと輝きを湛えた目でまじまじと見る。
この子供の言う僧侶というのは、いわゆる冒険譚で出てくる僧侶の事であろう。
事実、勇者の一行として冒険していたあの頃であらば、彼女もその僧侶だったかもしれない。
だが、その正体はお尋ね者として追われ、日の暮らしのためにその体を汚す。
憧れなんて言葉とは程遠い姿だった。
「あっ!お父さん!」
いつの間には宿屋の前まで来ていたことに彼女が気づき、その子が彼女の手を離れて宿屋の前で待つ男性の元へと一直線に走っていく。
そしてなにやら話しており、男性が何かをその子へ手渡すとトテトテと彼女の元へと走ってきた。
「ありがとう!これお礼です!」
その手には金貨が3枚あった。
ありがとう、と彼女がそれを受け取ると、その子は手を振りながら父親の元へと戻っていった。
普段の稼ぎは金貨5枚であるが、これだけあれば切り詰めればその日の食事は賄える。
だが、それだけでは足りなかった。
ここから逃げるためにはまだいくらか余剰で金を持っておく必要があった。
彼女が自分の身に着けている服に気が付き、後ろと周囲とを見渡し追手や衛兵が歩いてきていないことを確認し、胸を撫でおろす。
衣装に着替えるべく周囲をキョロキョロと見渡し手頃な場所を見つけるが、ふと宿屋に視線を戻す。
「子ども・・・・・・かぁ。」
彼との間にできたらどれほど嬉しいだろうか。
だが、それはもう叶わないだろう。
こんなに汚れた自分を彼はどう思うのだろうか。
普段であればここで客の物色をする彼女であったが、先ほどの子どもと交わした会話を思い出し衣装へ着替えれずにいた。
「ここでやったら・・・・・・。」
あの子の夢を壊してしまうかもしれない。
彼が王と人とに裏切られてから何でもする、と心に誓った。
だが、そんな
そんな自らに唇を噛む。
「そこの君。」
不意に肩を叩かれる。
見るとそこには小太りの男が立っていた。
貴族のような服を身に纏っており、細い髭を蓄えている。
「君、ここらで身売りをしているね?見てたよ。」
全身を舌で嘗め回す様な視線運びで彼女を見る。
法衣の下に普段見かけている肢体を重ねて舌なめずりをする。
「はい。してますけど。」
警戒し、身を強張らせる。
手にした袋の中に手を突っ込み短刀を探し当て、それを袋の中に入れたまま握る。
「いやいや、警戒しないでおくれ。」
男が目元を緩めて歯を見せるが、彼女の姿勢は変わらない。
「まとまったお金が欲しくないかね?」
「皆様お待たせしました!」
その男の大声が響き大きな歓声が上がる。
耳鳴りがするほどに大きな声に、彼女がとっさに耳を塞ぐ。
彼女は町の路地にある井戸、そこから入り組んだ道の先にある空間にいた。
彼女は舞台の上におり、そこは高い塀と一つの金属の柵で囲われており、その塀の上には段を作って椅子が並んでおり、そこには所狭しと人が座っている。
それら一人一人は仮面をつけており、デザインが一人一人違う。
大勢の前でその行為を見せたら金貨100枚をあげよう。
その提案に彼女は最初は断ったが、次にその男は
「君、お尋ね者の僧侶だろう?」
と言って彼女の肩に手を回した。
その言葉によって彼女の選択肢は無くなってしまった。
「今回の主役は・・・・・・現在世間を騒がしている勇者御一行!その一人の僧侶ちゃんだぁぁぁ!」
全員の視線が彼女に集中する。
身に着けているのはいつも行為に及ぶときにしているものではなく、普段勇者の彼の前で着ている法衣。
頑なに拒否をしたが、弱みを握られている以上その要求を呑むことしかできなかった。
なぜそこまで固執するのか彼女には疑問であったが、ようやく合点した。
聖女としての自分の情事を見たいんだ。
思えば、周りにいる人間の服装は宝石をちりばめたドレスや装飾品を身に着けている。
成程、金貨50枚ははした金という事である。
舌打ちをし、はるか遠くの金持ちを
人の汚さは彼があの時裏切られてから知ったつもりだったが、あの時とは全く別種の汚さを見てしまい、その眉間にシワが寄る。
その彼女の睨みをそれらはおどけるような仕草をしたり、それを肴にグラスを傾けて酒を煽ったりしている。
とはいえ、やることは普段と何ら変わらない。
また心を無にして適当な所で声を上げればなんとかなる。
彼女はそうタカを括っていた。
「ではこわーい敵を今から皆様ご一緒にご
すぅ、っと四方から大きく息を吸い込む音。それからその名前が一斉に叫ばれる。
「「「ビッグオーク!!」」」
「え?」
ズシンズシン、と床が揺れそれが近づいてくる。
鉄格子の前に彼女の身長をゆうに超えるモンスターが立っていた。
「オークだ・・・・・・。」
そいつに腕を掴まれて地面へ叩き伏せられた時をまざまざと思い出す。
絶望感と一人ではどうしようもできない重さと生暖かい鼻息。
そこに勇者が手早くその敵を切り捨てて助けてくれた。
今はその彼が居ない。
「ああっ・・・・・・。」
あの時の無力感がその体にのしりと
「では、皆様お愉しみくださいませ!オープン!!」
ギギギ、と金属音を開けてそこが開かれ、オークがのそりと彼女へ近づく。
そして改めてその巨体が露わになる。
鼻からは荒い息を出しており、その口からはてらてらと涎が垂れている。
でっぷりとした腹にぶよぶよとした肉体。
たるんだ太い腕に、その先についている指先の尖った爪。
そして、人間の物とは比べ物にならない大きさの挿入可能の状態となったソレ。
「イヤッ・・・・・・!」
ガシャン、と金属柵が無慈悲な音を上げた。
荷物はその柵の奥に置いてきてしまい、その事実に彼女の顔から血の気が引いてゆく。
体をまさぐるが、短剣はあの袋の中だという事実を叩きつけられるだけであった。
オークから一目散に逃げ、塀に頭をぶつける。
そこをよじ登ろうと手を伸ばすが、その表面はツルツルとしており何の引っ掛かりもなく、ただ爪とそことが擦れて白い縦線を作るのみだった。
「いや、来ないでっ!」
今度は塀に背を向けて靴を脱ぎ、迫りくる脅威に向けて投げる。
しかし、命中はするもののそれを全く意に返さずその体が近づいてくる。
そうして彼女が足掻くたびにその空間に笑い声や興奮した声、手を叩く音が響き渡る。
ガシッ。
とうとうその腕が掴まれる。
「あ・・・・・・。」
犯される。
そしてビリビリと布の破れる音。
「嫌っ!やめてっ!その服は彼の・・・・・・。」
彼と共に旅をした思い出の服が彼女の何倍もあるその手でビリビリに破かれ、そこから彼女の裸体が現れる。
「う・・・・・・あ・・・・・・。」
そんな彼女の事など関せず、オークがそのまま彼女の腕を掴み体を持ち上げる。
ハラリと法衣だったものが落ちる。
そして自らのソレに彼女の穴をあてがうと、一気に挿入した。
「いた・・・・・・がっ・・・・・・!」
ボコリと腹が膨れ上がる。
その様子を見た者らが熱狂する。
「やめて・・・・・・痛い・・・・・・。」
視界が
呼吸が出来ず、口をパクパクと動かす。
そのような声と行動一切を無視してオークが彼女の胴を支え、そのまま手を上下に動かす。
ボコボコとゴムの様に彼女の腹が伸縮を繰り返す。
「うっ!あっ!ガッ!ギッ!」
挿入されて奥を叩かれるたびにその喉からは普段の嬌声ではなく、肺を圧迫されたことによる悶絶の悲鳴が絞り出される。
血は止まらず、それがオークの体を伝い何本もに分かれて足へと流れてゆく。
時折抉るように暴れ、それが破れたであろう部位に上がり
抵抗しようとその身を
やがてそのスピードが上がってゆき、オークの鼻息が荒くなる。
やっと終わる。
まだ働く頭でそれだけを思い浮かべ、もう感覚がなくなったそこをもう見なくて済むように目を
早く出せ、終われ、終われ終われ追われ終われ・・・・・・!
そしてドクン、と吐き出される。
あまりの量に腹が妊婦の様に膨らみ、ドロリとその接合部から人間の男よりも強烈な臭いを発する液体が垂れて彼女の足を伝う。
不快感と激痛と圧迫感、周囲の刺すような好奇の視線に晒された嫌悪感とがない交ぜになり、嘔吐する。
ヌルリとやっとその凶器がぬけ、彼女の体が床に放り投げられる。
痙攣して動かない自らの腕と
「では休憩を挟んだのち、また開始致します!おトイレはアチラです。」
彼女は我が耳を疑った。
すかさず尋ねる。
「もう見せたでしょう!もう私は・・・・・・。」
「む?一回だけって言ったかね?」
首を傾げてその男が言い放った。
法衣だった破れた布を抱え、裸のまま彼女が疾走する。
あれから彼女は、鉄格子が開いた瞬間に荷物の事など忘れて一目散にあそこから脱出した。
追手が来ているかなどもはや分からない程に走り、ゼェゼェと息を切らしていた。
早く帰りたい。彼の顔が見たい。
それだけの一心で体を動かしていた。
やがてどういう道順を辿ったのか自身でも分からないが地上へ出ることができ、ようやく彼のいる家へと戻ってこれた。
日はすっかり上がり、多くの人が道を行き交っていた。
その人々が彼女の姿を見ては顔を赤くしたり目で追うが、そのような視線は今の彼女は気が付かなかった。
扉を開き中に入る。
「どこに行ってたんだ?心配したんだぞ・・・・・・。」
彼の瞳に彼女の姿が映る。
「お前・・・・・・。」
一糸纏わぬ彼女の姿。
そして、股から流れる血とドロリと粘度を持つ白い液体。
彼の目線運びにようやく気が付き、彼女が恐る恐る自らの体を見て気が付く。
そして下腹部の激痛とツウ、と伝うぬめった液体の感触。
見せまいと秘密にしていた全て、それらが彼の目の前に晒される。
その目から涙が溢れる。
「ごめんなさい。私・・・・・・。」
そう言い口を動かす彼女の肩へベッドのシーツが掛けられた。
汚れていて臭うがわずかに暖かく、彼がさっきまで横になっていたことが彼女は分かった。
「何も言わなくていい。」
そう言って彼女の体を抱き抱える。
その体は以前に抱きかかえた時よりも随分と軽くなっており、そんな彼女へ背負わせた事を知り、彼の胸がジクジクと痛んだ。
そしてその体をそっとベッドへと横たわらせる。
「お前には世話になってばかりだな。」
呟くようにそう口にし、彼女の頬に手を当てる。
暖かく、優しいその温度が彼女の体を包み込む。
「あとは俺が何とかするからな。」
そう言って彼が壁に立てかけてある剣を背に背負い、頭にフードを被り外へと出ていった。
霞む視界でそれを見送った彼女はそのまま瞼を落とした。
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