数学の運命に抗わない(後編)
二問目。
「違いますわキーン王子! スタミナの最大値はランク100以降は偶数の時しか上がらなくなるのです!」
三問目。
「違いますわキーン王子! 確かに数値上の足の速さはBさんよりもCさんの方が速いですが、Bさんが走った場合は『走行時速度上昇(中)』が発動するので計算すると……!」
四問目。
「違いますわキーン王子! まず基本ダメージ枠に攻撃力を二倍した数値を入れて、それを相手防御力の1.5倍分の数値で引くんですのよ! それとこの技は『とても強力なダメージ』を与える技なので通常のダメージより高い補正がかかってます! そこに更に陣形でダメージは上がりますし、技レベルでも補正がかかるんですのよ! あ、あと技レベルの補正は基本ダメージ枠ではなく技威力枠というところにかかるので乗算する時は間違えないでくださいましね! あと枠には属性相性枠とか特殊枠とかがあって……」
「分かるかあああああっ!」
キーン王子が怒った。
「知らん計算ルールをポンポン出すなっ! 特に四問目、何が何になってるのか全然分からんぞ!? お前どうやってこの訳分からん問題群を全問正解したの!?」
今回のテストは文面こそシンプルだったものの、ソシャゲ特有のルールが色々と盛り沢山だった。なのでキーン王子はそこに躓いてしまったのだろう。
しかし私は、これらの一見訳分からん問題文達も普通に回答できた。なぜなら……。
「何って普通に、計算機を用意すれば解けるでしょう……?」
「計算機ー!?」
私が全問正解した要因、それは『楽園でキスをして計算機』であった。
これは有志のプレイヤーが『楽園でキスをして』をもっと遊びやすくするために開発した、非公式のツールである。これを使えば必要な数値を記入するだけで、最終的なダメージ量からドロップ率、いじめやキーン王子を攻略する際の効率化などができてしまう優れものだった。前世の世界では大変お世話になったツールだが、この世界でもあって本当に良かった。
「おいこら、そんな物使えるなんて先生は言ってなかったじゃねーかっ!」
「有志が作った物なので学園側は公式には認めていませんわ。まぁ、皆普通に使ってますから黙認状態と言ったところですわね」
ただしこのツールは運営側ではなくプレイヤー側が作った物なので、運営は公式には認めていない。しかしプレイヤー達の多くが平然と使っているため、事実上の黙認状態となっていたツールなのだ。なのでこの世界での学園生徒も、皆ツールをガンガン使っている。
「んなもん普通に使わすなーっ! 使ってない生徒が不利だろうがよぉー!?」
そんな事を全く知らなかったキーン王子は、そう激しくツッコミを入れるのであった。
***
「で、最後の問題はこれですねー」
キーン王子の怒りが落ち着いてきた頃、アアアア嬢は気楽な表情で最後の問題を読み上げ始めた。
===
問5
Dさんはバナナ、オレンジ、ブルーベリーが当たる抽選を行った。
Dさんが目当ての物を手に入れる確率を求めなさい。
【詳細】【提供割合】【注意事項】
===
「確率の問題ですわね。これはシンプルなので簡単でしょう?」
最後の問題は確率の計算だった。私がキーン王子に尋ねると、彼は自信なく答える。
「……中にある三つのうち一つを当てるのだから、三分の一が正解……だと思うが」
どうやら文章に入ってないソシャゲルールを警戒している様子だ。だがこの問題はちゃんと正解を導く情報が文章中に書かれている。
「違いますわ。文章をちゃんと読んでくださいなキーン王子。そうすれば解けるはずですわよ」
「……? だが、文章中の情報はこれしかないだろうが」
キーン王子が首をひねるので、私はこの問題の解き方を解説し始める。
「まず、バナナ、オレンジ、ブルーベリーの出る確率は0.1パーセントずつでして、それ以外は別の物が出るんですのよ」
「待て待て待て、そんな事まったく書いてないだろ!?」
キーン王子は初耳だと言わんばかりの驚き顔でツッコミを入れてきた。だがこの情報はちゃんと記されている。
「書いてますわよ。提供割合の部分を押してみてくださいまし」
「お、押す……!?」
私は問5の下部に怪しく書かれている「提供割合」の部分をキーン王子に押すように促す。キーン王子が戸惑いながらその文章を指で押すと……。
===
【提供割合(通常枠)】
SSR 0.8%
SR 14%
R 85%
【提供令嬢一覧】
SSR バナナ令嬢 [0.10000% PICKUP!]
SSR オレンジ令嬢 [0.10000% PICKUP!]
SSR ブルーベリー令嬢 [0.10000% PICKUP!]
SSR なんたらかんたら令嬢[0.00003%]
……
===
と言った表示が現れた。
「おい、なんか新たに文章が出てきたんだが!? どういう仕組みでこうなってるんだよ!」
「文字を出す仕組みはともかく、バナナとオレンジとブルーベリーの提供割合が0.1パーセントである事はちゃんと記されてたのでちゃんと解ける問題でしたのよ。ちゃんと問題文は確認しましょうね、キーン王子」
「テストでこんな姑息な隠し方するのは卑怯だろっ!? あと、なんだよバナナ令嬢とかオレンジ令嬢とかって! 果物なのか名前なのか立ち位置をはっきりしろっ!」
ソーシャルゲームでの抽選……つまりガチャは様々な理由で確率を開示している事がほとんどである。なのでこう言った確率が絡む場合には「提供割合」のボタンを押せば確率が表示されるのだ。キーン王子は姑息な隠し方と批判するが、ちゃんとボタンが表示されてたんだから別に隠してなんかないだろう。あと、このゲームはいろんな特待生の令嬢を集めて攻略を進めるゲームなので名前に『令嬢』って付くルールがあるのは皆さんもご存じだろう。初めて聞いた? あぁそう。
「くそっ。じゃあ0.1パーセントと書くのが正解だったのか……!」
「違います」
「それも違うの!?」
「バナナとオレンジとブルーベリーはそれぞれ違った用途で使える『当たり』ですのよ? だからどれが当たっても嬉しいに決まってるじゃあありませんか!」
「どれか一つの確率を求める問題じゃねーのかよっ! ちゃんと書けよっ!」
そしてこの問題に出ている三つは、どれもとても性能がまとまっているピックアップ特待生であった。なので文中に書かれている三つ全部が「目当ての物」になるのだ。
「そ、それじゃあ目当ての0.1パーセントが三つだから……」
「ちなみにこの抽選は五十回引くとSSR確定になるので確率が変動しますわよ」
「あと、この抽選にはすり抜け枠で『SSR ニンキーナ王妃令嬢』が入ってますしね! それもDさんは目当てになるはずです!」
「更に有償で一日一回お得に抽選できる事が……」
「前提となる情報を増やすんじゃないよ馬鹿っ! 後だしばっかしやがってぇ!」
更に私とアアアア嬢はキーン王子にこの問題文に書かれたガチャのお得情報を教える。五十回引くと最高レアが当たるだの、三つ以外にも目当てになりうる物があるだの、一日一回有償ガチャが引けるだの、詳細ボタンを押すと出てくる情報を教えまくった。
一斉に後出し情報を詰め込まれたキーン王子は混乱し始める。
「ええと……0.1パーセントで……五十回引くと確率変わって……別の目当ての物もあって……ええと……ええと……」
キーン王子は生真面目に計算しようとした。だがその目は混乱の極みにあり、何をどう計算すればいいのか分かってないようであった。計算機を使わず自力で解こうとするとは頑張り屋さんなのかもしれない。
と、いう訳で私はこの問題の解答を教えてあげた。
「ちなみにこの問題の答えは『いっぱい課金すれば100パーセント』が正解ですわ。この抽選では五百回抽選すると提供令嬢と交換できる交換券があるので、目当ての物を手に入れるだけならそれを使えば良いんですもの」
「うがああああああああああああああっ!! もはや数学とか関係ねぇだろおおおおおおおっ!!」
そうしてキーン王子は答案用紙をびりびりに破いたのであった。キーン王子よ、数学なんて金の力でゴリ押せば無視できる時もあると知るが良い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます