生放送の運命に抗わない(後編)

「それでは続いては皆さまお待ちかねのこちらのコーナー! 最新情報コ~ナ~!」

「いよー! ぱちぱちぱちぱちー!」


 クイズコーナーが終わり、いよいよ生放送は本題ともいえる最新情報コーナーへと移る。私達は拍手で盛り上げた。


「それではここからは、楽キスの開発ディレクターをしていますチョーエン学園長に様々な情報を教えていただきましょう! チョーエン学園長、よろしくおねがいしますね」

「よろしくおねがいしますぞい。今日は三周年という事で、ステキな情報をお持ちしましたぞ」

「学園長まで参加している……」


 楽キス生放送の最新情報コーナーは、開発ディレクターがやってきて情報を持ってきてくれるというパターンが通例だ。なので今回も開発ディレクターであるチョーエン学園長がやって来たわけだ。キーン王子はお偉方が何故こんなよく分からない茶番に参加するんだ、と頭を抱えている。


「それではまず最初のトピックは……新規期間限定ストーリーイベント『戦乱の花を掲げて』のお知らせじゃ。次回のメンテナンス後、新しいイベントが始まる。メインストーリーの王宮騒乱編に繋がる重要なストーリーじゃから、楽しみにして待っててくれ」


 今回一発目の新情報は、新規イベントのようだ。ブンバンボ儀式と同じく、期間限定で遊べるストーリー付きのイベントだろう。


「それは素敵ですね! 詳しいストーリーとか教えてもらえませんか?」

「うむ。今日はそのプロローグも用意している。アアアア嬢よ、用意したプロローグを読んでくれるかの?」

「はーい!」


 ニンキーナ王妃が学園長にストーリーの詳細を尋ねると、学園長はアアアア嬢に手元にあるプロローグの書かれた文を読むように頼んだ。アアアア嬢は明るく返事をし、プロローグを読み始めた。


「えーと、『ついにキーン王子の処刑が決まった。三日後の朝日が昇った時に刑が執行されるそうだ』」

「……おい待て!? しょっぱなから俺が処刑されるってどういう状況だ!?」

「『アアアアはキーンの無実を証明するためにソーシャから情報を探り出す。そして、キーン王子がニンキーナ王妃の実の息子ではないと知ってしまう!』」

「待て、待て、待てぇっ!! とんでもなく嫌な情報がさらっと出てきたぞー!? 俺って王妃の息子じゃないのー!?」

「『だがアアアアは情報収集の最中ミステリアスな男性に口説かれて、ついデートの約束をしてしまった!? そんな~! 私にはキーン王子しか見えないのに、困っちゃう~! どうすればいいの~!?』」

「なに急に恋愛展開挟まってんのっ!? 俺にとってとんでもない情報が出てきた中でそのテンションはおかしいだろっ!?」


 今回のイベントはかなりシリアスな内容となっている。メインキャラクターの生死にかかわる事件、メインキャラクターの意外な事実、そして乙女ゲーらしい恋愛展開……。プロローグを聞いただけで重厚で人気が出そうなシナリオだと分かるほどだ。重厚すぎるせいかキーン王子がツッコみまくっているが。


「と、以上がプロローグじゃ。実際のお話は、自分の目で確かめてもらいたい」

「ぜってー確かめたくねぇー……」


 学園長が明るく締め、最初の情報は終わった。キーン王子は絶望感が見え見えな顔つきになっている。




「続いて、性能調整のお知らせじゃ。次回のメンテナンス後に、いじめのバランス調整の一環として一部の技を上方修正させてもらう。これでいじめを攻略しやすくなるじゃろう」

「いじめのバランス調整って何……?」


 次の情報は、性能調整のお知らせだ。ソーシャルゲームは運営が長引くとバランスが崩れる事が多いため、弱いキャラクターや弱い技の調整を行う事がよくある。アアアア嬢のメインストーリー進行にも役立ちそうな良いお知らせだ。


「具体的には、どんな技が上方修正されるのですか?」


 ニンキーナ王妃が上方修正の内容を聞くと、学園長はキーン王子の方を向いて彼に質問をした。


「うむ。キーン王子、お主は泣いている少女がいたら普通はどうする?」

「え、えぇっ? な、なぐさめる、とか?」


 学園長からの突然の質問に、キーン王子は困惑しつつも自分なりの返答を出す。


「それを上方修正する予定じゃ。明日からキーン王子は泣いてなくてもなぐさめてくれるぞ」

「なぐさめないのだが!? 何もない人をなぐさめるのはちょっとおかしいだろ! なにが上方修正だよっ!」


 ……どうやら明日以降、キーン王子が上方修正されるようだ。キーン王子のなぐさめはいじめられている時に使うと強力な技だったが、如何せん発動するために主人公が泣く必要があった。その制限が撤廃されたのはとても良い強化だろう。キーン王子はそんなことやらないとばかりにツッコんでいるが。


「それとキーン王子。お主は怪我をした少女がいたら、少女を保健室に連れて行くか?」

「ま、まぁ連れて行くかもしれんが……」

「それも上方修正じゃ。明日からキーン王子は怪我をした事実が無くても保健室に連れて行ってくれるぞ」

「連れて行かんわっ!! さっきからなんで俺に矛盾した行動ばかりとらせようとしてくんの!?」


 更にキーン王子の上方修正は続く。キーン王子が保健室に連れて行く行動も発生条件が厳しい事を除けば強力な技であったため、この修正によって攻略しやすいいじめが増えただろう。キーン王子の変人度がどんどん上がりそうだが。


「それとキーン王子。お主はドラゴンに出会ったら巨大化するじゃろう?」

「……いや、巨大化はしねぇよ!? 何変な事実を追加しようとしてんの!?」

「もちろんこれも上方修正じゃ。明日からキーン王子の巨大化はいつでもできるぞ」

「知らん事実を常時発動可能にするなぁ~~~~~~~!!!!」


 キーン王子がいつでも巨大化できるのも良い修正だ。これで討伐戦の巨大化した私に対抗する手段が増え、アアアア嬢の育成もガンガン進むに違いない。キーン王子の大声ツッコミが響き渡っているが、些事だろう。




「次が最後の新情報じゃ。皆さんお待ちかね、新規特待生の登場じゃ!」

「いよいよですね! では今回の特待生を教えてください!」


 そしてついに最後の新情報、次回のガチャから排出される新規特待生の情報が出てきた。視聴者の八割がこの情報を見るために生放送を見ていると言っても過言ではないだろう。ニンキーナ王妃も嬉しそうな表情をしている。


「今回の新規特待生は……なんと水着で入学してくるぞい!」

「なんで!? なんで水着で入学すんの!?」

「去年の水着特待生に引き続いての登場ですね。毎年おなじみですから、皆さんも期待していたはずですよ」

「去年も水着着て入学した奴がいたの!? この学園の風紀はどうなってるんだ!」


 今回の新規特待生は去年から引き続き、水着特待生のようだ。水着特待生は毎年このシーズンになるとやってくる楽キスの恒例行事とも言える。乙女向け恋愛ソーシャルゲームで水着キャラ出すってかなり攻めてる感もあるが、このゲームの客層はだいぶ特殊だったため売上は良かったらしい。

 キーン王子の言う通り学園の風紀がおかしなことになりそうだが、ソーシャルゲームで水着キャラが出るのはよくあるので今更ツッコんでも無駄だろう。他所では水着で冒険したりアイドル活動したりもっと攻めたことやってるだろうし。


「それでは今回ピックアップされる三人の令嬢を発表するぞい。まず一人目! 『SR 水着寒がり令嬢』! 寒がりだから、服を着こませてあげるのがおすすめの活用法じゃ!」

「水着の意味ないじゃねーか!?」

「続いて、『SR 水着ドラゴン令嬢』! 巨大じゃから皆の目を引き付けることができるぞい!」

「巨大ドラゴンの水着ってなんだよ!?」

「そして最大の目玉は……『SSR 水着ニンキーナ王妃令嬢』じゃー! 入手するとイチャイチャもできるからぜひゲットしてくれたまえー!」

「母上もこのトンチキイベントに混ぜるなーっ! そして誰とイチャイチャさせる気だーっ!」


 学園長は矢継ぎ早に新規水着特待生を紹介していく。寒がり令嬢、ドラゴン令嬢、ニンキーナ王妃令嬢と人気キャラが揃っており、運営側の本気がうかがえる。冷静に考えるとツッコミどころ満載だが。


「うふふ。まさか私が水着特待生のオファーが来るとは思わなかったわ。今回の私は前回の薄着衣装よりも更にセクシーなので期待しててくださいね」

「どこからのオファーで水着になる決意をしたんですか、母上!? 王妃なんですからはしたない恰好しないでくださいっ!」


 新規特待生となった本人であるニンキーナ王妃は恥ずかしそうに自身の宣伝をする。ニンキーナ王妃はゲームキャラの中でもトップクラスで人気なうえ、水着ニンキーナ王妃はユーザーアンケートでも待望されていた物だったので、『楽園でキスをして』は明日のガチャで再びセールスランキング一位をもぎ取るに違いない。キーン王子はだいぶ嫌そうな顔しているが。

 あとキーン王子、さっき母親が実の母親じゃないって情報が出たのにまだ母上って呼んでるね。さっきの情報を信用していないのかな。


「ちなみに以上の三人は先ほどのストーリーイベントでも登場するぞい。キーン王子の処刑の際に水着姿で重要な役割を担うから期待してくれたまえ」

「水着の集団が俺に何をしようってんだ……!?」


 そして新しい水着特待生三人は、先ほど説明したストーリーイベント『戦乱の花を掲げて』で重要なポジションで出る。ブンバンボ儀式の時のニンキーナ王妃しかり、ソーシャルゲームは新規ストーリーにガチャから排出される新キャラクターを出して、間接的に宣伝する事はよくある手法だ。なのでストーリーイベントに水着特待生達が出るのも当然のことだろう。確かにシリアスなイベントと水着キャラはミスマッチ感があるが、まぁ特殊なユーザー層だった楽キスプレイヤー達は何も気にせずガチャを回すだろう。多分。




「……さぁ。様々な情報が飛び出た楽キス生放送ですが、そろそろお別れの時間が来てしまいました。アアアアさん、今日の放送いかがでしたか?」


 やがて生放送は終わりの時間を迎え、まとめに入る。ニンキーナ王妃はアアアア嬢に今日の放送の感想を聞いた。


「もう、私好みの展開になりそうで嬉しいです! キーン様が破滅する展開、とっても楽しみですねっ!」

「そんな展開喜ぶな! ちょっと前に『キーン王子の助けになりたい』とか言っていた事、忘れたのか!?」


 アアアア嬢はストーリーイベントの展開が好みのドストライクだったらしく、早く遊びたいという気持ちが表情から読み取れた。彼女のストーリー上の行動理念である『キーン王子の助けになりたい』からは外れているが、特に問題は無いだろう。

 これはストーリー上の主人公が『世界を救いたい!』と行動理念を持っていたとしても、主人公を操作するプレイヤーは『ゲームを攻略したい!』と主人公と別の行動理念を持っているのと同じ現象で、アアアア嬢がストーリー上とそれ以外の時で相反する行動理念を持っていても矛盾は全くないのだ。多分。


「それでは、前野さんはいかがでしたか?」

「水着ニンキーナ王妃とは是非入手してイチャイチャしたいですわね。この前野一香、全財産をはたいてニンキーナ様と戯れますわ!」

「何を狙う気なんだよ、ソーシャ! ていうかお前、完全にマエノって名前になっちゃってるけどいいのか!?」


 次にニンキーナ王妃は私に感想を聞く。私が一番目を引いたのは水着ニンキーナ王妃であった。今はアアアア嬢を導くのに忙しい物の、頑張って合間の時間を取って絶対に水着のニンキーナ王妃を入手してやろう。こっちの世界でも私がガチャを引けるかどうか、についてはまだ分からないが。


「ケビンさんも今日はありがとうございます」

「こちらこそ! でも物足りないからこの後、キーン王子と夜まで水着ドラゴン令嬢について語り明かそうと思いまーす!」

「知らん奴とそんな事する気はないっ! 何故初対面の奴とドラゴンについて語る必要がある!?」


 ケビンは水着ドラゴン令嬢にそそられたようで、キーン王子とそれについて語り合いたいと思っているらしい。キーン王子は拒否しているが、きっとこの後無理やり付き合わされるに違いない。


「と、いう訳でここでお別れです! 皆さん、さようなら~!」

「「「さようなら~!」」」

「最後のまとめも俺を無視するなーーーー! というか俺、いなくても良かっただろうがーーーーーっ!?」




 こうして楽キス三周年生放送は盛大に幕を閉じた……。無視されたキーン王子の大声と共に。

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