協力プレイの運命に抗わない(後編)

 今回の戦いはまず私の先制いじめから始まった。


「おっほっほ。アアアアさん達。貴方たちは下品だから付き合わない方が良い、と学園中に噂を流して差し上げましたわ。撤回してほしかったら、キーン王子と会うのをやめなさいな」

「いじめの内容が巨大さをまるで活かしてねぇな。活かされても困るけど」


 今回はイベント告知で予告した通り、オーソドックスだが強力ないじめを放つことにした。巨大化した体は全く活かしていない。巨大化は今回、ほぼ見てくれの飾り状態である。

 さぁ、このシンプルないじめにアアアア嬢達はどう反応するか……?


「しくしくしく……ひどいですぅ、ソーシャ様。私、ただ王子の支えになりたいだけなのにぃ」

「いまさら乙女チックに泣かれても心に響かんぞ、アアアア嬢」


 なるほど、今回は涙を流す戦法で来たか。アアアア嬢は涙を流すと、特殊なバフ……つまり強化効果を得る事ができる。それを軸にしていじめに対抗する算段のようだ。キーン王子の心に響けば二重にバフが働いて一石二鳥だったのだが、なんか響かなかったようだ。


 が。


「おいてめぇっ! このタイミングで泣くんじゃねぇ!」

「あ゛?」


 アアアア嬢の味方であるはずの筋肉ムキムキが涙を流す彼女にブチ切れる。泣いて自分の世界に入ろうとしていたアアアア嬢はそれに対し非常に不快そうな表情を見せた。


「初手で泣きだしたら、俺の編成した逆切れ中心編成の行動ができなくなるじゃねーかっ! さっさと涙を状態異常解除で消せぇっ!」

「はー? こっちの最大火力するにはこれが最適解なんですがー? それにうちは初手で泣くチームだって、組んだ時に言いましたよねー? 覚えてませんかー?」

「知らねーよ、今環境になってるのは逆切れ編成だろ! 黙って俺の言う事を聞けっ!」

「その編成、手順が面倒でミスりやすいでしょうがっ! リーダーは私なんですから、予定していた通りにやれっての!」

「はっ。おめぇみてぇな頭の持ち主だからミスるんだろう? これだから新規勢は駄目なんだ」

「言いやがったなこの×××野郎ーーーーーーっ! 表出ろやぁっ!!」

「やってやろうじゃねぇかこの馬鹿リーダーめがあああああっ!!」


 筋肉ムキムキとアアアア嬢の口論が始まり、その戦いはどんどんエスカレートしていく。どうやら筋肉ムキムキは別の戦法を予定していたらしく、しかもその戦法がアアアア嬢のバフが入るとうまく回らない戦法のようだ。

 今回の討伐戦は協力が重要なため、バフが他プレイヤーに入ったりする。それは基本的にメリットではあるのだが、バフの中にはデメリット効果が付与される物があるため下手に使うとこのように喧嘩の火種となってしまうのだ。アアアア嬢が相談不足でこのようなミスを犯すとは驚きだ。


「けけけ、いいぞいいぞもっと争え!」

「つぶせ、つぶせぇ!」


 ちなみに他のメンバーは二人を面白おかしく煽っている。止める気配はなく、喧嘩はエスカレートしっぱなしだ。


「勝手に仲間割れしてる……。本当に下品だから付き合わない方が良い雰囲気になってるじゃん」

「まぁ、この程度の仲違いはこの学園ではよくある事ですわよ」

「ここ、オモナブタイ王国で一番気高き伝統ある学園だよね? これがよくある事ってのは流石に駄目じゃない?」


 キーン王子はいつも通りアアアア嬢にドン引きしているので、私はこんな事よくある事だと言ってあげた。確かに貴族学園っぽくないが、生徒たちがランキングや人間関係でギスギスしだす討伐戦の時期になると喧嘩しやすくなるのはごく自然なことだ。




 このままアアアア嬢と他のメンバーは喧嘩別れしてしまうのか、と思われた。だが。




「……よし、何とかコンボ完成だっ! 合体技発動! 【言いやがったな×××馬鹿リーダーもっと争えつぶせぇ】だっ、喰らええええええっ!」


 アアアア嬢は今までのメンバー台詞をつなぎ合わせて、合体技を発動した! そ、そうか! 今回は協力が重要なイベントだから、他プレイヤーとの合体技ができるんだったっ!


「ぐわああああああああああああっ! わ、私の体が消えるうううううう!」

「何を合体させて技作ってんだお前らー!? そしてなぜ消えるんだソーシャーーーーーっ!?」


 予想外の合体技を喰らい、私は実質ワンパン(一回の攻撃で敵を倒す事)で倒され消滅した。キーン王子のツッコミが鳴り響く。


「ふぅ、事故が起こったけどなんとか倒せた」

「まったくアアアアよぉ。お前が手順事故ったからとっさにフォローしてやったが、次やったらただじゃおかねぇぞ?」

「この程度、事前想定の範囲内だったんですから許してくださいよー」


 アアアア嬢と筋肉ムキムキはへらへらと笑いながら今の戦いのミスについて語る。多分この合体技は想定していた流れではなかったのだろう。本来ならもうちょっとスコアが伸びやすい行動順にするつもりが、アアアアが行動を間違えたせいで急遽合体技を差し込んだに違いない。まぁ、イベント開始すぐにミスが発覚したのが不幸中の幸いだったかもしれない。


「どこからどこまでが想定内だったの……?」


 キーン王子はアアアア嬢の話が理解できず、どれが事故でどれがフォローでどれが想定内なのかは分かってない様子であった。




 で、私はアアアア嬢の攻撃で消滅したわけだが……これでイベントが終わるわけではない。


「出た! 出たぞっ! 巨大ソーシャ・ルノアークだーっ! 迎撃の準備をせよーっ!」

「おーっほっほっほっほ! 巨大ソーシャ・ルノアークでしてよ!」


 最初と同じようにどこかの生徒が声を上げて私の襲来を告げる中、私は再び巨大な状態で貴族学園へと登校する。


「またソーシャが出てきたぞ!? どういう原理!?」

「私は倒されても何度でも蘇りますのよ。しかも倒した回数によって強さがどんどん増していきますの。アアアアさん、次はそう簡単にワンパンはできませんわよ?」

「何度でも蘇る上にどんどん強くなるって、それもはや魔王とかそういう類になってないか!?」


 今回の討伐戦は何度も蘇り何度も倒すことができるので周回ができる、と言う点はいつものイベントやストーリーとほぼ同じだ。しかし協力ができる以外のもう一つの特徴として、倒した回数に応じてもっと強い巨大ソーシャに挑戦できると言う点がある。最初のいじめは皆で協力すればワンパンしやすいが、後半になるにつれてワンパンのしづらい高難度のソーシャ戦が待っている。だが高難度な分、報酬も多くランキングも上がりやすくなると言うメリットがある。そのため上位プレイヤーほど高難度のソーシャ戦に積極的に参加するのだ。


 上位プレイヤーの集まりであるアアアア嬢達は、復活した私を見て昂ったテンションを更に高揚させる。


「よし、このまま突き進んで最上位のソーシャを出すわよ! あんたたち、最高難度で安定周回できる編成は組んだ!?」

「おうっ!」

「ならよし! 今日はソーシャ様を二十四時間狩りまくるわっ! 絶対に全体ランキングでAランク帯に入るからねーっ!」

「おおおおおおおおおっ!!」


 アアアア嬢チームの雄叫びが辺りに響き渡り、そして皆が巨大で強大な私、ソーシャに立ち向かう! こうして、わけのわからない死闘は二十四時間続いていく事になった……!




「……俺もう帰っていい? 二十四時間もこのトンチキ事案に付き合う気無いんだけど」

「あ、駄目です。今回は最高難度でキーン様を使う編成にしてるんで、ずっとそこにいてくださいね」

「嫌だぁ~~っ!!」


 そしてキーン王子はこっそり逃げようとしたが、アアアア嬢の編成に利用されることとなったので二十四時間拘束されたのだった。


***


 ……その戦いが終わった数日後。教室で担任の先生が生徒達に成績表を配っていた。


「今回の期末試験である協力いじめ討伐戦の成績上位者は……アアアアのチームだ。よく頑張ったな、次回も頑張れよ」

「やったーっ!! 石ゲットだー!」

「あれ、期末試験だったの!?」


 どうやらこの世界では、協力いじめ討伐戦は期末試験扱いらしい。まぁ、あのイベント定期的にやるランキングイベントだったからある意味期末試験みたいなもんか。

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