協力プレイの運命に抗わない(前編)
「出た! 出たぞっ! 巨大ソーシャ・ルノアークだーっ! 迎撃の準備をせよーっ!」
「おーっほっほっほっほ! 巨大ソーシャ・ルノアークでしてよ!」
「巨大ソーシャ・ルノアークって何ー!?」
今日、私は巨大化した状態でオモナブタイ貴族学園へと登校した。どこかで生徒の一人が声を上げて私の襲来を告げる中、キーン王子はいきなりの超展開に口をあんぐりと開けている。
「ソーシャ、ソーシャ! なんでそんなにでかくなってるんだ!? おかしいだろう!」
「まぁ、王子ったら何も知らないんですのね? 今日はアアアアさんたちに新しいいじめをするため、いじめパワーを蓄えて巨大化してきたんですのよ」
「いじめパワーってなんだよ意味わからないぞ!? それにいじめするために巨大化する意味がどこにあるんだよ!?」
キーン王子は大慌てで私にツッコミを飛ばしてくる。やれやれ、どうやらキーン王子は今日が皆の期待していた『討伐戦』の日だと知らないようだ。
「巨大化に意味はありますわ。何せ今日のいじめは『協力いじめ討伐戦』なのですから」
「とうば……?」
「協力いじめ討伐戦は、三十人のプレイヤーがチームを組んで私のいじめに対抗する団体戦ですの。チームごとのいじめに対抗する速度や成果でランキングを競い合う、この学園を代表する競技ですのよ」
「いじめを競技にすんな。普通にスポーツとかで競えよ」
「そういうわけで、今回の私は三十人をいっぺんに相手にするわけなのです。普段より生命力を強大にして挑む必要があったので、巨大化しましたのよ」
「そういうわけで、じゃねーんだよ! 徹頭徹尾理解や共感できる部分が無い!」
ソーシャルゲームの中には他のプレイヤーとチームを組んで協力するイベントがあったりする。『楽園でキスをして』もそう言ったイベントがあり、三十人一組でさまざまな課題を他のチームと競う事が多々あった。
今回の『協力いじめ討伐戦』もその一つだ。巨大化して普段より強化された私、ソーシャを三十人がかりで対抗してどのチームがより多く、より早く悪役令嬢に対抗できたかを他のチームとランキングで競う恒例イベントであった。なのでこの世界の私も原作通り巨大化してきたわけだ。
一方アアアア嬢はと言えば。
「ふふふ。ついにやってきたわこの日がっ! 今日めいっぱいソーシャ様をボコれば、令嬢石ががっぽがっぽよ!」
「アアアア嬢が例のごとくいじめる側っぽい発言をしてやがる」
このイベントでは上位入賞チームには令嬢石などの豪華報酬が送られる。そのためアアアア嬢は討伐戦へのやる気は十分だ。キーン王子の言う通り、最近の彼女はいじめられる側じゃない感じになってる気がするけど、気のせいだろう。
「ところでアアアアさん、チームは組めましたの? 貴方は野良フレンド以外の学園内のお友達はあまりいないように見受けられますが」
私はアアアア嬢を見下ろしながら、チーム状況を確認する。以前彼女のフレンドを見た時、ほとんどがあまり深い関わりのない適当なフレンドばかりであったため、協力が重要な今回のイベントでちゃんとしたチームを組めるか不安だった。
「大丈夫です! 今日のために精鋭の皆さんとチームを組めましたよ! 皆、来て下さい!」
そんな私の心配をよそに、アアアア嬢はニカッと笑う。そしてチームメンバーと思しき生徒たちを呼び寄せた。
「へっへっへ。ルノアークのお嬢様をボコれるたぁ楽しい行事じゃねぇか」
「けけけ。俺っちのナイフのサビにしてくれんよ!」
「ぎゃっぎゃっぎゃ。おれ、お前、潰す!」
アアアア嬢が呼び寄せたメンバーは、非常に個性豊かであった。全身傷だらけのひげもじゃの筋肉ムキムキ、猫背でゴブリン顔のナイフを持った奴、やせぎすで背がとても高いおかしな言動な奴。どれも癖の強い人物ばかりだ。
「ものの見事に極悪人っぽい奴しかいないぞ!? ここは貴族学園なのに、こんなのばかりなの!?」
「大丈夫です。この人たちは上位成績保持者ばかりなのでいじめの対応は完璧ですよ!」
「この学園の上位成績保持者がこれって、大丈夫なの……?」
見てくれは怪しいという点はキーン王子と同意見だが、上位成績者なら問題は無いだろう。むしろ上位プレイヤーならこれくらいの個性があった方が望ましいかもしれない。貴族学園らしさは欠片もない上乙女向け恋愛ソーシャルゲームらしさもない奴らだが、まぁこういうプレイヤーが参加する事もなくはないだろう。多分。
「それでは準備はできまして? できましたらいじめを始めさせて頂きますわね」
「はい! ばっちこいです!」
「へっへっへ。俺様の強さを見せてやるってんだ」
「けけけ。楽しいショウの始まりだ~~~~~~!」
「ぎゃっぎゃっぎゃ。おれ、お前、潰す!」
こうして巨大ソーシャVSアアアア嬢with怪しい奴らーズの壮大な戦いは幕を開ける。
「……。ほんとに大丈夫か、これ?」
キーン王子は不安しかない、という感情が見て取れる顔をした。
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