フレンドの運命に抗わない(前編)
「あらあら。平民の匂いがすると思ったら、アアアアさんじゃあありませんか。なかなか汚らわしさが治りませんのねぇ、オホホホホ」
「私が思うに、ドレスの裾を折り紙にした夢を見ると体重が激やせすると思うんです」
「Like!」
「いいね!」
「Like!」
「いいね!」
「(*^_^*)」
私は今日もいつもの調子でついさっき教室にやってきたアアアア嬢をいじめている。彼女は私の嫌味ったらしい言葉をオート周回でテキトーにあしらい、そしてよく分からんアイデアを周囲に話す。
周囲にはアヒルの着ぐるみを着て「いいね!」と言う女性や、キーン王子の仮装をして「Like!」と言う女性や、なんか「(*^_^*)」と発言する人間なのか分からないウゴウゴ蠢く物体など、三十人ほどがアアアア嬢を取り囲んでいる。
「いや、これは一体何なんだ……。アアアア嬢の発言も意味不明だが、周囲にいるそいつらはいったい何者だ。最後の奴なんか正体不明だぞ」
キーン王子がやってきた。彼はアアアア嬢の発言も気になったようだが、それよりも周囲にいる謎の仮装集団が気になるようだ。
「おはようございますわキーン王子。彼女達はアアアアさんのフレンド……つまりお友達ですの」
「なんというか、見る限りまともなお友達がいねぇな」
「ご紹介しますわ、そちらのアヒルの着ぐるみを着ている方が『推しキャラは・アイドル令嬢しかいねぇ』さん。キーン王子の仮装をしている方が『アクキー買いました・とっても可愛いです!』さん。よく分からないウゴウゴ蠢いているのが『XXXXX・XXXXA』さん。他にも……」
「それ、名前なのか!? 見た目だけじゃなくて名前もおかしいな!?」
ソーシャルゲームはその名の通り他者との繋がりや交流を重視するゲームがほとんどなので、フレンド機能を搭載しているものが多い。『楽園でキスをして』でもその例に漏れず、フレンドを登録して交流や協力プレイを楽しむことができた。そしてこのゲームは主人公の見た目や名前を割と自由にカスタマイズできるので、思いきり変な見た目になって自身の存在感をアピールしてみたり、名前に日々の気持ちを綴って日記代わりにしたりもできたのだ。こうなってくると恋愛ゲームの雰囲気ぶち壊しじゃない? と思うユーザー層がいそうなもんだが、このゲームのユーザー層は割と特殊だったのかそういうツッコミはあまりなかった。
「キーン様、私のフレンドを気持ち悪いだなんて言わないでください。学内でステータスだけ見て適当に拾ったフレンドとは言え、みんな心優しい大切な友達なんですよ!」
「『学内でステータスだけ見て適当に拾った』ってなんだよ。大切に思ってるんなら友達を適当に拾うな」
アアアア嬢はキーン王子がフレンドに対して嫌そうな態度を取った事に反抗して、フレンドたちをかばう発言をした。だが彼女のフレンドは「交流して親しくなった」とかいう訳ではなくステータスの数値だけ見て適当に集めたフレンドのようだ。ソーシャルゲームでは割といるタイプの人だが、そうとは知らないキーン王子はツッコミを入れるしかなかった。
「でも皆、とっても優しいんですよ! 毎日私が学園にいる時に挨拶してくれるんです。ね、皆!」
アアアア嬢がそう言うと、フレンド達は
「いいね!」
「Like!」
「いいね!」
「Like!」
「(^^)」
と、こぞって挨拶をした。
「挨拶のパターンが『いいね』か『Like』か顔文字しかねぇじゃねぇか。と言うか顔文字はどうやって発言してるんだ」
キーン王子は挨拶がワンパターンだったのと顔文字発言が気になったようだった。
「ちなみにフレンドの誰かが学園にいる時に『いいね』か『Like』をすると学園から報酬が貰えるのですわ。だからフレンドに対して『いいね』もしくは『Like』をやるのは学園では必須の行動と言っていいでしょうね」
「なんで挨拶すると報酬がもらえるんだよ!? てかあいつら報酬目当てで挨拶してただけかよ!? 優しさじゃなくて利己的な感情が大半を占めてるじゃねぇか!」
私はキーン王子に補足説明をした。このゲームではログインしたフレンドに『いいね』か『like』すると、わずかばかりの報酬がもらえる。なのでアアアア嬢のフレンド達はその報酬目当てで挨拶をしていたのだ。キーン王子はそれを聞いてすぐさまシステムの意味不明さとフレンド間の友情の無さにツッコんだ。
「ほ、報酬目当てだなんて酷いです! いいね! 私たちはそんなものが無くても……いいね! いいね! 友情さえあれば友達なんです! いいね! いいね! いいね!」
「だったら喋ってる最中に『いいね』連発するのやめろ! お前も報酬目当てで周囲の友達にいいねするんじゃねぇ!」
アアアア嬢はキーン王子に反論しながら報酬目当てで周囲のフレンド達に対し『いいね』を連発した。そのがめつさは攻略には必須だろうが、キーン王子への言葉の説得力が欠けてしまう行為であったようだ。
しかし私はアアアア嬢を止めない。キーン王子とアアアア嬢の幸せな婚約のためにメインストーリーの攻略は必要不可欠。なのでキーン王子に盛大に嫌われてでも報酬を得てストーリーの攻略を進めて欲しいのだ。報酬は好感度より重い。
と言うわけで私はしばらくいいねしまくるアアアア嬢とそれを止めるキーン王子、周囲で棒立ちしてるアアアア嬢のフレンド達を見つめ続けた。
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