第19話
ゲートが開いているのは、夜だけではなかったみたいだ。特に眠ろうとしている必要もなかった。中に入った私たちを待っていたのは、何もない白い空間だった。
「え?」
思わず声が出てしまう。1人の男性が、どこかから歩いてきた。相変わらず、ちらちらしている。
「あの石だと思うんですけど」
私が石を渡すと、その男性は石を取ってうなずいた。
「確かに、これですね。ありがとう。でも、もう消えてしまった部分は戻らないんですよ。すべてを救い出すには、遅すぎました」
持ってきたのにそう言われてしまって、なんだか気持ちが沈んだ。私ものんびりしすぎた。何日も前に、場所はわかっていたはずなのに。
「あなたたちの世界にも、既に影響が出ています。こちらは夢なので立て直せますが、あなたたちが古き時代を忘れてしまえば、消えてしまうでしょう。既に破壊は進んでいます。あなたたちの身近な人たちも、破壊に手を貸している可能性があります。古い言葉を頼りにしてください。埋められた資料を探してください。文化を手がかりにしてください。真実は探しに行かないといけないのです」
訴えるように伝えてくる男性の輪郭は、先ほどより少しだけはっきりしてきた。
「私たち、もう戻りますね」
そう告げたユキは、少し気分が悪そうだった。
「そうですか。何かお礼をしようと思ったのですが」
「間に合わなかったですから」
私は拒否していた。
「それでは、1つだけ聞いてからお帰りください。まだ希望はあります。戦前の文化に意味がなかったと思わないでください。私に言えるのは、それだけです」
私たちは一礼して、もと来たほうへ引き返した。ゲートを通り、日常に戻る。
不意に、おばあちゃんの家の日本人形が頭に浮かんだ。あんなお化けみたいな人形でも、喜んでつくる人たちがいた。私は苦手だけれど。
時代は移る。そこに善悪はなく、あるのはただ、その現実だけ。
「少なくとも」
私は家に向かいながら、一瞬、携帯に視線を落とす。
「新しい友だちができた夏」
私は顔を上げて家に帰る。そろそろ夏休みも終わる。
タンスの裏には 桜川 ゆうか @sakuragawa
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