第17話
29日の朝は、少し早めに起きた。携帯を確認したけれど、ユキから連絡は来ていない。結局、虫取り網は使えないのだろう。これだけいろいろやったのに、結局、石を取れないまま終了するのだろうか。何のために、あれだけ探し回ったんだろう。
真っすぐな棒に近いものは、箒くらいしか思いつかなかった。先端部分は邪魔だし、濡らしてよさそうな感じでもない。ユキに連絡を入れて、代わりに何か使えそうにないか、訊いてみる。
「そうね、でも真っすぐの長い棒状のモノなんて、何かあるのかな?」
「箒とか? でも、先端の掃く部分が邪魔になりそう」
「縛るの、難しそうだよ」
「確かに」
はたきの棒は短いし、ペンや定規では、話にならない。傘、というもの考えたが、どう考えても重すぎるし、糸で繋ぐのも、かなり難しそうだ。
何かもう少しまともな方法はないだろうか。
「あ、でもね、網の部分なら、台所にあった、柄のついたザルが使えそうだよ」
ユキのこの提案は、衝撃的だった。金物のザル! なんで思いつかなかったんだろう。あれなら、水に浸けても問題ないし、わざわざネットをつくる必要もない。おまけに軽いし、丈夫だ。括りつけるのも、簡単そうだし。
「それいいね!」
でも、そうすると本当に問題は棒だ。ナップザックにつっ込んで、少しくらいはみ出しても仕方ないけど、自転車で運べる棒じゃないといけない。組み立てられる形で、長さもある程度、必要だ。
お母さんに気持ち悪いと言われながら、掃除を手伝ってみる。お父さんの書斎に入って、棚やパソコン台をのぞいてみたけれど、特に使えそうな棒らしき形は見つからない。何か出てこないだろうか。私が想定もしていなかったような道具が。リビングに掃除機をかけながら、私は周りを眺めた。
結局、そのまま時間だけが過ぎてしまい、私はお父さんの車に乗り込んだ。どっちにしても、間に合わない。今日が期限だったのだから。
暇潰しのつもりだったけれど、いざミッションに失敗してしまうと、なんだか残念だった。せめてだれかが成功させてくれたらいい。私にはできなくても、だれかゲートが見える大人がいたかもしれない。あるいは、あの小学生の男の子が、お友だちに網を借りられたかもしれない。私の知らないだれかで、偶然、石を見つけた人がいたかもしれない。
おばあちゃんの家に着くと、私はそのまま夕食の準備を手伝うことになった。おばあちゃんがサイダーとかジュースとかを用意してくれていたので、お寿司だったこともあって、そのまま忘れてしまい、ひたすら食べながら、従姉や伯父さん、伯母さん含めたみんなとしゃべった。
おばあちゃんが背中かきを出すまで、棒のことなんて、完全に忘れていた。
「あ!」
「どうしたの?」
みんなが反応する。思わず声を出してしまったせいだ。
「あ、いや、ごめん。ちょっと友だちと話してたことで、思いついたことがあって」
そう、孫の手だ。軽くて、丈夫で、石くらいなら持ち上げられそうだ。真っすぐで、ある程度長さがあって、ニスが塗ってあるので、濡れても乾かせば問題なさそうだ。
私は思わず携帯を出して、ユキにメッセージを送る。
「孫の手、ない? 2人でそれぞれ持って行けば、足りるかも」
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