第12話

 レポートは当日中には終わらなかったので、仕上げたのは結局、24日のお昼ごろだった。

 昼食の後、少しは外へ出ようかと思っていた。急いで見つけないと、と思うのに、暑くてなかなか気力が湧かない。ただ、何か特別やることがあるわけでもないので、なんとなく暇だな、と思って机の上に出したままの葉っぱを見つめた。何かもう少し、ヒントでもあればいいのに。

 豚の公園で葉っぱを咥えた鳥は、本当に何の関係もなかったのだろうか。それとも、見たままではなく、何か別の意味があったのだろうか。

 葉っぱを手に取る。厚手のその葉っぱは、あちらの世界から来たはずなのに、つやつやときれいだ。お昼の影響もあって、なんとなく眠くなってきてしまう。

 葉っぱを持ったままベッドに入った。少し昼寝をして、夕方近くなってから出かけようかと考え直す。外が暑いのに、真昼間から出歩くのは、あまり身体にいい気がしなかった。

 頭の近くに葉っぱを置いて、眠ってしまう。冷房の効いた室内では、不快な暑さはなく、薄い布団が心地いいくらいだ。

 私はまた夢を見ていた。

 前にも夢で見た建物の中で、噴水があった。その中に石が落ちている。私は別の女の子と一緒に、石を指さして話していた。

「どうすれば取れるんだろう」

「中には入れないよ。濡れちゃうから」

 私は男の子が1人、やっぱり葉っぱを持って歩いてくるのを見つける。

「ねえ、あの人」

「うん」

 私たちはその男の子に声をかけた。

「え、キミたちも?」

 その男の子は私たちより1つ上だった。

「いや、人目がなければ取りに行くけどさあ」

 ちらちらと周りを見やる。まあ、たぶんみんな同じなんだろう。

「でも、これだけ集まってきてるなら、まだ来るかもしれないな」

 噴水がパッと水を噴き上げる。30分に1回、5分くらいの時間だ。

「この噴水は1回につき25分の休みがあるみたいです。その25分の間に取る必要がありますね」

 私はそう伝えるが、待ってみても、それ以上、人は集まってこない。

 気づくと、私は学校にいた。学校の廊下かどこかだ。そこで持っていた葉っぱを口に咥える。鳥ではない。私は犬の姿になってしまう。葉っぱを咥えた犬だ。

 私はすぐに元の姿に戻った。

 目が覚める。

 書き留める理由はない。葉っぱを咥えるのは、葉っぱの所持者自身なのだろうか。

 私は葉っぱを手に取った。少し抵抗がある。台所へ行って、葉っぱを少し洗ってみる。葉っぱは濡れるだけで、特に何も変わらない。

 改めて、葉っぱを咥えてみた。手が翼になる。鏡の前に行くと、どこにでもいる鳩みたいだった。

 やるなら、外でやるべきだった。私は葉っぱを床に落とす。姿は元に戻り、葉っぱは床に落ちていた。夢の世界の産物だ。慎重に扱わないといけない。それに、思いどおりの生きものになれるわけでもなさそうだ。

 もう一度、台所で葉っぱを洗う。小さいポーチに葉っぱを入れた。

 目的地がわからないと、変身できたって、どう飛んでいいかわからないじゃないか。

 最大の疑問はその場所だった。家族に訊ければ簡単なのかもしれない。どこか区内に、噴水のある建物はないか、と。でも、そんなことを訊けば、なんで、と問い返されるに決まっている。そのとき、いったいどう説明すればいいのだろう。

 ふと思い立って、琴美にメッセージを送ってみた。琴美なら、わかってくれるだろう。もちろん、大人ではないし、知っている確率も低いけれども。

 返信は1時間くらい経ってから返ってきた。

「ごめん、私も知らない」

 やっぱりそうだよね。

「いいよ、ありがとう」

 そんなに期待はしていなかった。もう一度でも、夢の世界に渡れればいいのだけれど。

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