第11話
博物館は区内にもある。ただ、理科系に限定すると、私が苦手なテーマの博物館しか見つからなかったので、電車で出かけることにした。石は探せないけど、宿題のほうが大事だ。
受付に行って、入館料を払う。中は広いので、自分が見たいところを中心に見たほうがいい。
職員らしい人たちが何人か、不思議そうな顔をしている。何かあったんだろうか。だとしても、私の宿題には関係ない。
人類の進化とか、日本人と自然とか、いろんなテーマがある。天体が比較的、おもしろそうなので、まずは宇宙関係のコーナーに向かってみる。螺旋階段を下り、地下の展示コーナーに入った。エレベーターもあったけれど、私はまだ元気だ。
なんだか空間自体が宇宙みたいだ。入口の近くに、ボタンを押すと太陽系の動きを見られるところがあって、私は暫くそれを見つめた。音声の解説つきだ。
天体の重さを、比率はそのまま軽くした模型みたいなのがあったので、一つずつ持ち上げてみる。意外だったのは、ガスの惑星と教えてもらった木星が、とても重かったことだ。ガスなのにどうやって重くなるんだろう、と不思議に思ったけれど、やっぱり大きさってバカにできないらしい。
解説文には、天体の表面温度についても書いてあった。水星と金星の表面温度がおもしろかった。なんでこんなに幅があるんだろう。マイナス百何十度にもなるのに、高い温度は火星で25℃、水星なんて400℃以上だ。水星や金星の温度は高すぎて、とても住めないんだろうとわかる。暑いというより熱いはずだ。だれも生きられない。
火星の表面温度は地球より幅が広くて、平均したら低いんじゃないだろうか。地球は最近、温暖化しているから、博物館の表示どおりか、よくわからない。こうして改めて温度を見てみると、地球がいかに安定しているかと感じる。昼と夜で160℃も違ったら、どんな家で、どんな服で暮らせば住めるのだろう。
メモを取りながら、ひととおり見る。1時間くらい経っていた。
せっかく来たんだし、もう少し何か見て行こう。そう思って、コーナーを選ばずに歩き始める。暫くは物質とかのコーナーをうろうろしていた。なんだか化学の授業みたいな内容だ。岩の種類とか、原子とか、分子とか。
まあ、理科の宿題をしに来たんだから、そういう感じがしないといけないな、と思う。それでも、別の階層に行くと、恐竜とか人類の話が出てきて、理科というよりも歴史みたいだな、と思う。やっぱり理科の宿題は天体にして正解だった。
日本のテーマを扱う場所が、別の建物であるみたいだった。ちょっと足を延ばそうとして、また話し合っているらしい人たちを見つける。本当に何かあったのかもしれない。展示品が盗まれたとか。
私が建物に入ろうとすると、1人のおじさんが声をかけてきた。
「こちらは今、完全な状態ではないんです。申し訳ないですが」
「何かあったんですか?」
「ええ、今、調査中なんですけれど」
「入っても大丈夫ですか?」
「特に問題はないですよ」
とりあえず、行くだけ行ってみようか。
中に入って行くと、1つの展示コーナーの前に数人のスタッフがいる。お客さんはほとんどいない。気になってスタッフのいるあたりに行ってみると、展示品の間がスカスカになっていて、プレートの文字が消えている。スタッフが話す声も聞こえる。
「このスペースって、何かあったはずですよね?」
「ええ。ですが、記録も空白になっていて、何かあった形跡は、この奇妙なスペースだけなんですよ」
「こんなスペースがあったら、普通は気づくと思うんだが……」
「パンフレットにもなかったんですか?」
「ええ。何も書いてないですね」
女性のスタッフの1人がパンフレットを広げている。少し離れていて見えないので、どんなスペースになっているのかは、わからない。
でも、あの石が原因かもしれないと感じる。
ただ、この人たちにそんな話をしても、だれも信じてくれないだろう。区外だし、はっきりしたことは言えない。それでも、急いで探さないと、他のモノも消えてしまうかもしれない。だれか1人の問題じゃないんだ。
私はロクに展示も見ないで、建物を出てしまう。どうしても、このままにしていいはずがなかった。知っている人、見える人がやらなかったら、だれも止められない。
豚の公園で、ネットワークをつくっておけばよかった。1人でも仲間がいて、どこを確認したかわかれば、探す範囲も狭くなりそうなのに。
急いで電車に乗り、最寄りの隣の駅で降りる。ここから歩いて帰ろう。無駄かもしれない。だれか大人に相談して、探す範囲を広げられればいいのに。
20分も経つと、こんな近場なら、一度帰って、自転車で出直せばよかった、と後悔していた。公園や神社をスマホで探しながら、持っていたタオルで汗を拭う。
スマホの地図で、適当なスーパーを見つけて入る。汗だくだったので、少し寒いくらいだった。何か飲みものを飲まないと、熱中症になりそうだ。
帰ったときはもう19時近くなっていた。
「遅かったじゃない」
「あ、うん」
別に博物館に行ったんだから、言い訳は必要ない。宿題に時間がかかったと思われるだけだろう。
夕食のおかずが食卓に並び始めていた。台所からカレーの匂いがしている。
「カレーライス?」
「違う。カレーのチキン」
「そっか」
あれだ、カレーの粉を振りかけたチキン。たまに出てくる。キャベツのサラダでも出てくるかな、と思ったら、やっぱり出てきた。コールスローではなくて、ワカメときゅうりとキャベツのサラダ。
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