第9話
小さなポーチに、葉っぱ、ハンカチ、ティッシュ。それだけ。キュロットのポケットにスマホ。準備完了。私は豚の公園に、例の葉っぱを持って出かけた。お母さんも別に何も言わなかった。
公園までは歩いて7分。そんなに遠くない。細い砂利道を通って、豚の遊具と砂場のある場所に出る。いつも思うけれど、この豚の遊具はだいぶ古いらしくて、よく見ないと豚だってわからないくらい削れている。ピンクなのと、鼻が豚っぽいのでわかるけど。
今日は遊ぶのではなくて、ベンチに座って葉っぱを取り出す。夢では鳥が来て、葉っぱを咥えた。
まあ、鳥が本当に大きくなるなんて思わなかったし、正直、こんなことして何になるんだろうって思ったけれど、何も手掛かりがないなら、何をしても同じだ。
時間が経過していく。10分、20分。
退屈になって、私は左手で葉っぱを持ったまま、スマホで遊び始めた。お母さんが制限をかけちゃってるから、そんなにいろんなことはできない。ちょっとしたパズルのゲームが入っているから、それで時間を潰し始める。
やっぱりただの夢なんだ。そう思って帰ろうとしたとき、だれかが公園に入ってきた。私と年齢がほとんど変わらなそうな女の子だった。
「あ、その葉っぱ」
女の子は私の葉っぱを見て、呟く。
「え、これ?」
「うん。私も同じの持ってる」
そう言うと、その子はやっぱり葉っぱを取り出した。
「ここへ持ってきたら、鳥が咥えて大きくなって、私を連れて行ってくれる夢を見たの」
奇妙だ。
「私も」
同じ夢を見た人がいて、同じ葉っぱを持っている。
「どれくらい、ここにいるの?」
「1時間半くらい」
私が伝えると、その子は少し目を丸くした。
「え、じゃあ、同じ夢を見たとか?」
「うん」
それから私は、自分が見た夢を全部教えた。噴水の夢については、その子はうなずいた。一方、馬車を待っていた夢は知らないと言った。
たぶん、それは私の日常の夢なのだろう。噴水の夢と公園の夢には、明らかに向こうの世界らしい要素が絡んでいた。馬車の夢には、それがなかった。
「それで、ゲートはどこだったの?」
その子は訊いてくる。
「祖母の家のタンスの裏」
その子はうなずいた。
「私は部屋の本棚の隙間。本棚の裏なのかな。2つの棚が並んでて、その間の隙間から見えたの」
「たぶんね」
でも、普通は壁があるはずだ。だから、一時的に門になるだけ。昼間のぞいてみても、何も見えないんだ。
1時間くらいおしゃべりしながら待っていたけれど、鳥は来なかった。
お昼になってしまったので、私は家に向かう。夢なんて当てにならない。所詮、夢は夢だ。そう思うのに、同じ夢を見た人がいたと思うと、何か意味があるのではないかと気になってしまう。
後になって日記を書こうとして、私はその子の名前を訊き忘れたと気づいた。まあ、別に構わない。偶然会って、話しただけなのだから。
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