第2話
気がつくと、そこには私が知らない、奇妙な光景が広がっていた。すべての景色が、ぼんやりして、目の粗いドットの集合体のようだ。
私は自分の身体に視線を落として、ギョッとした。自分の身体とは思えなかった。輪郭がぼやけて、周りのドットと同じ状態になってしまっている。
どうしよう。一瞬、このままずっと輪郭がぼやけたままだったら、と不安になる。
でも、きっとこれは夢だ、と思い直す。私はおばあちゃんの家で眠ろうとしていたはずだ。きっと、そんな感じはまったくなかったけれど、私はいつの間にか眠っていて、今は夢を見ているんだ。
試しに手をこすり合わせてみる。だが、その感覚に違和感はない。違うのかな、とまた不安になる。でも、このままではどうにもならない。
私はベッドに寝かされていたらしい。起き上がると、傍らの女性が、おはようございますと声をかけてきた。
「よく眠れましたか?」
私はどう答えたものかと迷った。別に疲れているという感じはしない。眠ったかどうかは知らないけれど、特に眠いとは感じなかった。
「大丈夫です」
一応、そう言ってみる。少し変な気がしたけれど、よく眠れたと言っても違う気がするので、別にいいや、と勝手に決めた。
「よかったです。あの、急に呼び立ててしまって、ごめんなさい。どうしても、外の世界の方の力が必要だったのです」
「え?」
何を言われているのか、よく理解できない。私が疑問に思っていると、部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
女性が応えると、男の人が入ってきた。なんだかどこかで見た覚えがある。
「失礼。私はトウという者です。いきなりお呼び立てして、申し訳ないです」
「あ、いいえ。明美です」
「明美さん、すみません。実は、昨夜、父が亡くなったのですが、その父が人間界に落としものをしたまま、まだ見つかっていないんです。私たちが探しに出られればいいのですが、その石がないと、外へも出られない状態で」
「石、ですか?」
「はい」
まだよく話がつかめない。私は、人間界を歩くこの小人たちの姿を想像して、もう一つの異変に気づく。小人だと思っていたこの人たちと、今の私のサイズ感が同じなのだ。
「え、ええと……」
頭がうまく働かない。
「その石っていうのが、一見黒くて、手で握れるくらいの大きさで、宝石の原石みたいに、一部分が青く光るんです。それは、私たちが外へ出るために必要な石で、戻るときにはなくても入れるんですけど、この世界の住人は、あなたたちと違って、石がないと出られないんです」
私は元の世界に戻れるのだろうか。このままドットでいるなんて、絶対に御免だ。
「まあ、いきなりこんな話をされても、わけがわからないでしょう。少し混乱しているみたいですし、とりあえず、いったん、元の世界に帰っていただきましょう。そろそろ起きて朝食をとらないと、あなたのおばあちゃんも心配されるでしょうから」
最初の女性がそう言うが早いか、私ははっと目が覚めた。私は布団に眠っていたらしい。大きなタンスの上に、人形が並んでいる。
「なんだ、やっぱり夢か」
そう思ったものの、なんだか変な感じが抜けなかった。ちらと横を見ると、今まさに、早紀お姉ちゃんが起きようとしていた。
持ってきていた服に着替えて、早紀お姉ちゃんにおはようと声をかける。
「ん、おはよう」
それにしても、なんだか短い夜だった気がする。いや、実際には眠っていて、私が気づかなかっただけだろうけれども。
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