第6話『桜天に霞城あり』
前編/お雛様と王子様
※ 注意 ※
本エピソードより、『漆山紲』という人物が登場します。
設定の都合上、彼が登場する回では拙作『ムカサリ~死告ノ赫イ糸~』に関する若干のネタバレを含むことがあります。
あちらの内容を知らなくても本作を楽しめるようにはなっておりますが、こちらからあちらへ移る際はご了承くださいませ。
※ 注意 ※
――山形県山形市・霞城公園
貴臣からの連絡があり、真人たちは霞城公園を尋ねていた。
県庁所在地である山形市の中心部に位置し、山形駅とも近いため、桜の名所としても知られている。庄内の鶴ヶ岡城、置賜の米沢城という『
「んー、風が気持ちいいわね」
北側駐車場に停めた真人の車から降りると、糺はうんと背中を伸ばした。
「いつもすみません、先輩。車を出してもらって……」
「いいっていいって、気にすんな。このくらいワケねえよ」
雪弥の下がった眉尻に、真人が手を払う。
山形では、一家どころか一人に一台レベルで車が必須だ。それは単純に田舎故の距離の問題でもあるが、待ち合わせに指定した『ごっつぉ』が天童市街地から外れたところにあるとはいえ、隣の市であるここまで来るのに三十分ほどを要している。
真人が修学旅行で東京に行った際など、渋谷から吉祥寺まで井の頭線各駅停車で移動した時間が、地元のさくらんぼ東根駅から天童駅までのそれとほぼ同じだったことに驚いたものだ。
「俊丸さん。ここは山形城なのよね? どうして霞城って呼ぶのかしら」
「かつて直江兼続が富神山からこちらを見ていたところ霞がかかって城が見えなくなったという説や、出羽の関ヶ原ともいわれる最上と伊達の『長谷堂の戦い』において、城郭が霞に隠れ伊達側が攻め入ることができなかったという説など、いくつか説がありますね」
「ふうん。霞なんて欠片も感じない、カラッとしたいい天気じゃないの」
唇に指を当て、糺は不思議そうに唸った。
俊丸は微笑んで、続ける。
「今では『霞城』といえばこの公園を指しますが、かつては霞城学園から馬見ヶ崎の辺りまで三の丸が拡がり、その総面積は江戸のお城をわずかながら凌ぐほどだったそうですよ」
「おいおい、将軍様の城よりデカくていいのかよ……。それで、三の丸が霞城とどう関係が?」
「それではヒントです。どうして三の丸は『この程度の広さ』だったのでしょうか」
「そうか、川ですね」
雪弥が手を打った。
「正解です雪弥くん。東は馬見ヶ崎川、西には須川に囲まれています。そして、直江兼続がこちらを見ていたという富神山も、最上が伊達と事を構えた長谷堂城も、須川の向こうなんですよ」
「なーる。川からの湿気で霞が立ったというわけね」
糺が腑に落ちたとばかりに肩の力を抜く。
「おそらく。同じく『霞』の別名を持つことで有名な福井県の丸岡城も、椀子王の化身である大蛇の御業という伝説がありますが、実際は九頭竜川による多雨多湿が理由だと考えられています。かつてはこの辺りの河川も大きく、同様の現象が起きていたのでしょう」
そんなことを話しながら、真人たちが東大手門川までくると、最上義光公の騎馬像の下で、こころが手を振るのが見えた。
彼女の動きに気が付いて、貴臣も顔を上げた。
「悪いな、呼び出してしまって」
「こっちこそ悪い、尾花沢から来たお前より遅くなっちまうとは」
真人はバツが悪そうに頭をかいた。ここから銀山温泉まで車で向かえば、国道13号を順調に突っ走っても一時間半は下らないだろう。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「ああ、毎年、ここで寒中そばの試食会が開かれるのは知っているか?」
そう言って、貴臣は大手門広場に建てられたテントを示す。
「うんにゃ。というか、霞城でイベントがあること自体知らなかったわ」
「そうね。私も大体はカジョセンでやるものとばかり」
糺が南の空を仰ぐ。そこには、駅の西口側に立つ官民複合型の高層ビル『霞城セントラル』がそびえている。連絡通路で駅と直結しており市のランドマークともいえる施設で、イベントも活発に行われていた。
「はっは、さすがシティボーイたちは違うな! 銀山のおのぼりさんとは大違いだ」
「シティボーイて……」
「温泉街一の旅館を経営しているボンボンが何を言ってるんだか……」
「まあそれは冗談としてだ。いつもは品評会に呼ばれるんだが、今年は闇邪鎧の件の事後処理で行けなくてな。口寂しいところに、うちの従業員が教えてくれたんだ」
「へえ、慕われてんじゃん」
からかうように肩を小突くと、貴臣はよせよと身を捩る。
「こころを誘ったら、お前たちも一緒にとお願いされてな」
頼めるか、と問う視線に、真人たちは二つ返事で頷いた。
「もちろんだ。こころちゃんのお願いならいつだって呼んでくれ」
「ディドゥ。貴臣くんからのお願いだったら断ってたところだったわ」
「……なあ雛市さん、オレの扱いが少し雑過ぎやしないか」
「雑? そうかしら、シスコン兼ロリコンとして最上の待遇よ?」
花が咲くような素敵スマイルを向けられ、貴臣はぐったりと膝を折った。
その両肩に、真人と雪弥が同情の手を置く。貴臣と初対面である俊丸だけは、成り行きに目を瞬かせていた。
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第6話/前編 『お雛様と王子様』
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県が誇る品種『出羽かおり』の実を使用した寒中そばの試食会は、つい先ほど午前の部が終わってしまっていたらしい。
次に催されるのは正午過ぎの第二部。それまで二時間ほどの暇ができた。
「それじゃあ、私たちは行ってくるから。何かあったら連絡ちょうだい」
そう言って、糺とこころが雪弥を引きつれて七日町に繰り出していく。彼は『無害な』荷物持ちとして選ばれていた。
シスコンである貴臣は却下、俊丸のような一片の人物に荷物持ちをさせるわけにはいかないとしてこれも却下。そして真人はというと、糺の一声で理由もなく却下されてしまった。
――どうせ一緒に歩くならイケメンの方がいいわよねー?
――ねー!
女子二人の黄色い声が耳について離れない。不条理だ。少しだけ、貴臣の気持ちが分かった気がした。
「女子って、買い物好きだよなー」
ベンチに腰掛け、ぼけっと空に八つ当たりする。隣で同じ姿勢を取っていた貴臣が、ああ、とため息のような返事をした。
「男は食い意地、女はオシャレ、金の使い処が違うんだろう」
「そうかー? 水だの玄米だのオーガニックだの、あいつらも飯に金はかかってるだろう」
「ああ、そうか。言われてみればそうだな」
「その他に日用品から化粧品。大変だろうに、どっから金出てんだろうな……男か?」
「フザケロ。こころはオレが渡した小遣いからだ!」
「……それも男からにカウントしていいんじゃねえ?」
「むう」
第一部で茹でていた蕎麦の名残だろう、甘く香ばしい濃厚な香りが、上に向けていた鼻腔へとずっしり降りてくる。
「霞だな」
「ああ、蕎麦の霞だ」
「お二人は何を仰っているんです」
詩人を気取る非モテ男子二人に、俊丸がくすくすと肩を震わせる。
そんな彼に、かかる声があった。
「何だ、俊丸じゃあないか。奇遇だな」
つられて真人も顔を上げると、そこにはロングコート姿の気だるそうな大男と、傍らに控える白いワンピースの楚々とした女性がいた。兄妹だろうか、あるいは年の差のカップルだろうか。男の貫録と女性の瑞々しさもあって、アラサー男性が女子校生といけない関係にあるようにさえ見えてくる。
「おや、久しぶりですね、
真人の愚考をよそに俊丸が声をかけると、楪と呼ばれた女性は麦わら帽子にそっと手を当て、柔らかくお辞儀を返した。流麗な所作からは育ちの良さが見て取れる。
「紲たちも蕎麦を?」
「ああ、腹ごなしに散歩をしていたところだ」
「もう済んでいたのですね。私たちは一部を逃してしまい、これからなんです」
「なんだ、長考の癖でも出たか」
「ふふっ、面目ありません」
一方の男の方はガサツというか、右目が髪に隠されていることや、皮肉めいた口調からも紲という響きに似合わないシニカルな印象があった。
よく見ると左手に革の手袋をしている。右手にはない。いつか流行したV系ファッションにしてもちぐはぐだ。
俊丸の知り合いにしては危うそうな人物であると判断した真人が視線を逸らそうとすると、鋭くギラつく左目に射竦められる。
「こいつらが連れか」
「ええ。他に男の子と、女の子。もう一人、そちらの方の妹さんがお買い物に」
「随分な大所帯じゃないか。成生塾は成人向けの通信制も導入したのか?」
紲は相好を崩すと、こちらに歩み寄ってきた。
「
「ど、どうもっす……」
差し出された右手をおっかなびっくり握り返すと、彼は大笑いして肩を叩いてきた。
「ビビってんじゃねえよ、白水の。銀山の御曹司も、ほれ、シェイクハーンドシェイクハーンド」
自然に運ばれたペースは、有無を言おうとする気も起こさせない。
「じゃあな、俊丸。また茶でも飲もう。こっちも当面はウォッシュレットでも借りたいくらいの野暮用で手が離せねえが……死ぬなよ」
「えっ? ええ、はい」
「おい、ちょっとあんた――」
どうして自分の名前を知っているのかという疑問に真人が行きついた時には、紲は「手土産は腰掛庵のわらび餅で頼む」と小さく手を挙げて去っていく。
左手で大切な伴侶の手を引く背中を追うことはできなかった。
嵐が過ぎ去ったような疲れが残る。二度ほど生唾を飲み込み、真人はようやく口を開いた。
「あの人は、俊丸さんの知り合いで?」
「ええ、まあ。私の茶飲み友達であり、将棋の師です。探偵という生業のせいか、中々連絡も付きませんが」
「将棋の師って……俊丸さんより?」
「はい。彼の迅速果断に切り込む一手は、相手にしていて精神的に参る。何度煮え湯を飲まされたか分かりません」
懐かしむように目を細め、俊丸が苦笑する。
「「うっそだろ……」」
真人と貴臣は理解が追いつかず、再びベンチに沈み込んだ。
* * * * * *
――山形市・七日町
「素敵! こころちゃん、パンツも似合うのね。なんだか大人の女性になったみたい!」
「えへへ、そうかなあ」
糺が服をあてがうと、こころが照れくさそうにはにかんだ。
コーディネイトは、ベストとワイドパンツ。グレーとブラックのグレンチェックがシックさを醸しつつ、胸の下部分で結んだ帯紐がリボンのように咲き、子供らしい若々しさも残している。
カジュアルに着ることもできつつ、貴臣に付いてパブリックな場に出ても何ら問題はないだろう。
「ね、ね、雪弥お兄ちゃん。こころ、可愛い?」
「うん、すごく可愛い。素敵だよ、こころちゃん」
「えへへー」
雪弥に頭を撫でられて気を良くしたこころが、ハイタッチをせがんでくる。
彼女の手に応じてから、糺は感心した風に雪弥を見やった。
「驚いた、場馴れしてるのね」
「まさか。いの一番に下着売り場に連行されたので、そちらよりは……というだけです」
「あははっ、荷が重かったかー」
「てっきりショック療法でもするのかと思いましたよ」
「ごめんごめん、私のモットーなのよ。オシャレは肌に近いところから組み立てろ、ってね」
「へえ。そういうこともあるんですね」
素直な反応をする雪弥を見ていると、胸にすっと風が通るような感覚を抱く。
彼はモテるだろうな、と直感した。
それに比べてあいつはどうだろうと想像を巡らせかけて、なんだか腹が立ってきた。
ふと、こころに袖を引かれる。
「糺お姉ちゃん、どうしたの?」
「ううん、何でもない。雪弥くんが王子様みたいだなーって」
「いや、僕はそんな柄では……」
「わあ、王子様!」
こころにひしと抱きつかれては、さしもの雪弥も対応に困っているようだった。
視線で訴えられるヘルプに、がんばれーと口パクで答えると、しばし迷ったあとで彼は意を決したように屈みこんだ。
「残念ながら、僕はこころちゃんの王子様ではないんだよ」
「お?」
意外な言葉に、思わず声が漏れる。
「……そうなの?」
「うん。けれど必ず、こころちゃんにぴったりの素敵な王子様に逢えるから、大丈夫」
「どうしたら会えるの?」
「こころちゃんは、ひな祭りを知っているかな?」
「うん、こないだも飾ったの。かほくのおひなさまなんだって、お母さんが言ってた!」
嬉しそうに話すこころに合わせて、雪弥も頬を緩めてみせる。
「それはすごいね。お雛様は王子様とお姫様が並んでいるでしょ。あれは、女の子が幸せになれますように、素敵な人と出会えますようにって、お願いするためのものなんだよ」
「じゃあ、どうしてしまっちゃうの?」
「それは、ええっと……どう説明したらいいのかな」
雪弥の睫毛が曇る。
旗色が怪しくなってきたか。糺が助け舟を出そうかと足を浮かせたところで、彼は言葉の続きを紡ぎだした。
「大切にするから、片付けるんだよ」
「そうなの?」
「出しっぱなしだと、ほこりを被っちゃうよね。素敵な王子様と素敵なお姫様が汚れちゃうのは、嫌だよね?」
「……うん。きれーなままでいてほしいの」
「それなら、片付けてあげよう。丁寧に飾って、丁寧に片付ける。雪弥お兄ちゃんと約束」
「うんっ。やくそく、なの!」
「(へえ、やるじゃん)」
小指を絡ませた二人に、糺は内心で拍手を送った。
ひな祭りの意味や片付ける意義など、説明自体はファンシーに変えられているものの、大まかには変わりない。そうやって幼い少女に納得させながら、笑顔にしてみせた。
やはり彼を連れてきて正解だった。あのバカならばきっと、大した説明もできなかったに違いない。
いや、アレはアレで成生塾の子どもたちに人気はあった。存外、そこそこ良い仕事はしたかもしれない。そこにロマンがあるかどうかは別にして。
不意に、ポーチの中でスマートフォンが震えた。
「噂をすれば何とやら、か……」
一人ごちる。頬が緩む。雪弥ではなく自分にかけてくれたことに、通話ボタンをタッチする指先がじんわりと温まるような気がする。
熱が消えてしまわないよう髪の毛に絡ませながら、糺はスピーカーを耳に当てた。
「何?」
『……そんな怒ったように言わんでもよろしくないですかー?』
「そりゃあ、オンナノコのお楽しみを邪魔しているわけだし?」
『呼べって言ったくせに』
「あれっ、電波遠いのかしら。ムカつく言葉が聞こえた気がするのだけど」
『へいへい、悪うござんした。もうすぐ蕎麦を茹ではじめるらしいから、そろそろ戻って来いよ』
「りょー」
通話を切り、ポーチに仕舞い込む。仕方ない、行ってやるとしようか。
「先輩からですか?」
「ええ、そろそろ時間だって。結局雪弥くんを連れ回しちゃっただけね」
「いえいえ、楽しい時間でした」
「そういうこと、ナチュラルに言えるのってほんとズルいわ」
肩を竦め、小さなお姫様に向き直る。
「最後に何か好きなもの、いっこ。買って帰ろうか。お姉ちゃんがプレゼントしたげる」
「いいの!?」
瞳をきらきらとさせたこころは、ぎゅっと目を瞑って悩み始めた。やがて、気に入るものがなかったのか、値段的に遠慮しているのか、今日のショッピングの記憶からは導き出せなかった彼女は、はっと顔を上げて、ああっと声を上げた。
「あれ、あれがいい! おひなさまっ!」
「お雛様……?」
駆けていく先を目で追うと、レジ前のスタンドに刺されたヘアピンが並んでいた。
彼女が手にとったのは妖精をあしらったもの。なるほど、アジアンな雰囲気と、子供向けのデフォルメ加減は雛人形をイラストにしたものに見えなくもない。
「オッケー。じゃあ、お揃いにしよっか」
糺はにっこり笑って、棚から同じものを二つ引き抜いた。
* * * * * *
――山形市・霞城公園
徐々に人が集まってきた中、真人たちもそわそわと列に並んでいた。
「あいつら遅いな。どこまで行ったんだ」
「仕方ありませんよ。あぶれたら、私たちのを分けましょう」
「っすね。俺が雪弥だろ、貴臣がこころちゃん、えー……っと」
指折り数えていた手が、俊丸の前で止まる。
「「「………………」」」
沈黙が流れた。
真人は貴臣の横っ腹を肘でつついた。
「なあ貴臣お前、糺のファンなんだよな?」
「フザケロ。たとえお前たちだろうと、その辺の男が口付けたもんをこころに食わせられるか」
「……あれっ? そうだよ、先に糺に食べさせればいいんじゃねえか」
「んで? それを誰が食うのよ」
「「「………………」」」
ここで異性との分けっこを名乗り出られる男がいないのが、彼らの限界だった。
しばらく沈痛な面持ちを突き合わせた挙句、
「一皿余らせて、雪弥に任せよう」
という、なんとも最低な押し付けの結論が出された。
「くく……
「え、何だって?」
声に振り返る。後ろに並んでいたのは妙齢の女性だったことに、真人は首を傾げた。
すみませんと会釈して、踵を返す。俊丸と貴臣も怪訝な顔をしていた。
「こっちじゃ、果樹八領の仕手よ」
今度は頭上から声がした。
ハッとして仰ぎ見ると、そこには少年とも青年とも取れるような若い男が、美しい紫――至極色の袍を風に任せ、最上義光像の騎馬の背に立っていた。
一見すれば義光公が背負った旗と錯覚してしまうほど、自然に溶け込んでいる。
「余が直々に参ってやったぞ。さあ、謁せよ」
異様な光景に周囲がざわめいた。
「誰だよ……お前」
「闇邪鎧にしては人型をしておりますね」
身構えた真人たちに、男はくつくつと喉を鳴らした。
「盛るな。安く吠えれば血統が知れる。うぬらの相手をするのは余ではない」
「何だと……?」
「はて、よもや何も勘付いておらなんだか。のう、果樹王よ? 闇邪鎧は如何にして
眉を潜める。考えたこともなかった。ノブナガも、ヒロシゲも、ゴロウも、ジンスケも、そしてセイフウも。いずれの闇邪鎧も、気が付けばそこに在ったからだ。
俊丸が息を呑んだ。
「まさか、あなたが生み出したとでも……?」
「然り。正確には余らであるが」
そう言って男は、不遜に歯を剥いた。
「聞けい。余は
――中編につづく――
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