第16話 紫式部から清少納言へ

拝啓 清少納言様


あなたの作品は読ませていただいております。

しかし、私の夫の無作法まで書き広める必要はないのではないでしょうか?

確かに、質素な服装で行くべきだった参詣に、絢爛豪華な衣装で行った夫の常識の無さには、私も平行しております。

だからと言って、歌合せの失敗などを「情けない」などと書き記す必要はないと思います。

あなたが思ったことや感じたことは、あなたの胸の内に秘めておけば良いだけの話です。

正直に申しまして、あなたの稚拙な文章には迷惑しております。

偉そうに漢字などを使って書いているようですが、間違いが多く偽物の教養をひけらかすのはいかがなものかと思います。

やはり「能ある鷹は爪を隠す」と言うように、知識はひけらかすものではなく、周囲の判断にお任せするべきなのではないでしょうか?

あなたのように、間違いの多い知識をひけらかす人が居るせいで、私がどんな思いをしているかご存じですか?


「女のくせに物書きなんて、清少納言みたいな女だな。」

「どうせ、言いたい放題書いてるだけだろう。」


あなたは、宮仕えから引退し悠々自適に暮らしているのでしょうが、あなたが書いた作品のせいで、私がどれだけ肩身の狭い思いをしているか。

私の書く「源氏物語」と、あなたの作品では何もかもが違うのに、あなたの作品と比較され日々悔しい思いをしております。

とはいっても、私の書いた「源氏物語」の御所内での評判は上々でございます。

私がお仕えする中宮「彰子」様をはじめ、皆様からも高く評価されております。

風の噂で聞きましたが、あなたは今でも作品を書いているとのこと。

どちらの作品が評価されているかは、周りの人たちが判断してくれると思います。


追伸

言いたい事ばかり言った挙句、さっさと宮中からいなくなるなんて。無責任にもほどがあります。自分の間違いは、きちんと認めてから宮中を去るべきだったのではないですか?私の夫にも、何の謝罪もなく笑いものとして書き残したまま、のうのうとしているのは卑怯で、私は不愉快です。


敬具 紫式部より


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