第11話 ママからクォーツへ
拝啓 クォーツ様
私のかわいい子、あなたは今クォーツと呼ばれているようね。
あなたが初めて私とはぐれた時に、人間の家に居た時は驚きました。
でもあの家の人間は、私達に酷いことはしないって実は知っていたの。
あなたが生まれる前に、あの家の近くでママが仲間と遊んでいた時に、小さな男の子と一緒に優しく話しかけてくれたから。
私達は人間の出す鳴き声で、怖い人間か優しい人間かが分かるのよ。
あの人間は、私達を追い掛け回すこともしないし、少し離れたところから見ていたこともあった。
あなたとはぐれた時に、あなたの声がその人間の家から聞こえてきた時、あ~やっぱりここに居たのねって思ったわ。
少しドジで警戒心のないあなただから、きっと餌の匂いとか仲間の匂いに惹かれたんだと思う。
ママが迎えに行って外で鳴いていたら、あの人間はあなたを連れてきてくれた。
あなたは、一目散に走ってきたわね。
ママはね先に生まれた他の子よりも、警戒心が無くて誰にでもついて行って、なんにでも興味津々なあなたのことが、一番心配だったのよ。
でもね、ママもいつかあなたと離れる日が来るの。
いつまでも、ママと一緒には居られないのよ。
あの日、私があなたを迎えに行った日。
私はあなたを、あの人間になら預けても良いかもしれないって思ったの。
だから、私は紹介所にお願いしました。
紹介所はね、人間と私達を繋いでくれるところなの。
私が居なくなったら、あなたをあの人間のところに紹介してくださいってお願いしたの。
あの人間なら、きっとあなたのことを守ってくれると思ったから。
おかげで、私は心置きなくあなたの元を離れることが出来たわ。
あなたを置いていくのは心苦しかったけど、それが私達のルールなの。
あなたがあの人間の家に引き取られた時に、私を呼んで鳴いていたことは知っていました。
遠くから、少しだけ大きくなったあなたを見て私は安心しました。
黒いお姉さんと一緒に外を見ていたのも、人間に抱かれて外を見ていたのも知っています。
でも、そろそろあなたを見守るのも終わりです。
私は遠くへ行くでしょう。
私達は、自分の命の終わりをなんとなく分かるんです。
だからこそ、最後まで一緒に居たあなただけは、ドジで警戒心が無くて誰にでもついて行くあなただけは、何とかしたいって思ったの。
私達の世界は、いつどこで命を落としてもおかしくない。そんな厳しい世界。
あなたより先に生まれた子達は、警戒心があって私達の世界でも生き抜ける。そんな子達だったけど、あなたにはそんな生き方が無理だってわかっていたわ。
最後の子だからと。甘やかしたのが悪かったのかしらね。
でも遠くから見たあなたは、人間に心を開いていて安心しきっているようだった。
私の判断は、間違っていなかったんだと思います。
私の可愛い最後の子。
あなたが喉を鳴らして、人間に甘えている姿を見たから、私は思い残すことなく遠くに行くことが出来ます。
もう、外の世界に出てはいけませんよ。
のんびりしてぼんやりとして、少しドジなあなたには、外の世界は厳しい世界なのだから。
敬具 私の可愛い子へ
追伸
その人間は、ゴロゴロして甘えれば甘えるほど、あなたにとって居心地のいい場所を作ってくれます。
私に甘えるように甘えてあげなさい。
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