第10話 シャオからシャオママへ

拝啓 ママへ


ねぇ、ママいつだったかな?

ママが僕と弟を、近くの隠れ家に連れて行ってくれたの。

ママはすぐに帰ってくると思っていたし、近くに弟の気配もあったから、少し寂しかったけど僕たちは黙って待っていたんだ。

でも、どれくらい時間が経っても、ママは戻ってきてくれなかった。

雨が降ってきて、寂しくてお腹も空いて。

しばらくは、ママに言われた通り鳴くのを我慢していたんだ。

でも、いつまで経っても弟もママも僕のところに来てくれなかった。

僕は我慢出来なくなって、ママの言いつけを破って鳴いた。

そうしたら、どこか近くから弟の鳴き声も聞こえてきたんだ。

どれくらいママと弟を呼んだのか分からなかったけど、気が付いたら弟を抱っこした大きな生き物が僕の前に現れたんだ。

今ではそれが人間っていう種類で、「オカン」と「息子」って呼ばれている僕たちの世話係だって分かってるけど、初めて見た時は驚いた。

毛も少ししかないし、よく分からない言葉を話すし、なによりその大きさに驚いたんだ。

「オカン」と「息子」は、僕と弟を抱っこしてどこかに連れて行った。

四角い金属の臭いのする狭いところだった。

僕は弟とここはどこだろうって、ママはどこに行ったんだろうって話したんだ。

知らないお兄ちゃんもお姉ちゃんもいたし、「オカン」も「息子」も僕たちの事を気にしてくれているみたいだったから、僕はちょっと冒険したんだ。

四角い穴からなんとか外に出てみたら、白いお兄ちゃんが僕の方を見ていた。

僕の匂いが気になったのか、白いお兄ちゃんは僕のことを嗅ぎまわっていたけど、僕はこの場所に興味津々だった。

隠れる場所もいっぱいあったし、ご飯も水もあるし何よりも寒くなかったんだ。

ママが側に居ないのは寂しかったけど、僕には弟が居るし、白いお兄ちゃんも黒いお姉ちゃんも、僕たちがここに居ることを許してくれたんだよ。

白いお兄ちゃんは「クォーツ」、黒いお姉ちゃんは「ルチル」って呼ばれていた。

僕と弟も、はじめは「ラピス」と「ラズリ」って呼ばれていたけど、しばらくしてから弟が居なくなった。

「ルチル姉」に聞いたら、別の人の所に行ったんだって。

そこで弟は「マル」って名前をもらったんだって。

僕も「ルチル姉」や「クォーツ兄」と離れるのかなって思っていたけど、ここに居られることになったんだ。

僕がもらった名前は「シャオフー」。

「オカン」と「息子」の話だと、小さい虎=小さい虎目石って意味があるらしい。

よく分からないし、「オカン」も「息子」も「ルー」「クー」「フー」って呼ぶから、ねぇねを呼んでるのかにぃにを呼んでるのか、僕を呼んでるのか分からなくなる時があるんだ。

でも、そういう時の必殺技も教えてもらったんだよ。

みんなで行くんだ。

ねぇねの話だと、弟のマルも元気にやってるって。

夜の運動会も楽しいんだ。

ねぇねはいつも優しいし、いつも一緒に寝てくれる。

にぃにはいつも遊んでくれるし、色々なことを教えてくれるんだ。

「オカン」も「息子」も、いつも僕と遊んでくれるし、おいしいご飯もあるんだよ。

夜はね「オカン」のとこで、ねぇねとにぃにと一緒に寝てるんだ。

すごくあったかくて、すごく居心地がいいんだよ。

ねぇ、ママ。

ママは、僕たちの未来が分かっていたの?

こうなるって分かっていたから、僕たちが呼んでも来てくれなかったの?

ねぇ、ママ。

今の僕の家族はね、「ねぇね」と「にぃに」「オカン」と「息子」なんだ。

ママ、もう会えないけどママにも家族が居てほしいな。

家族ってね、すごくあったかいんだよ。


敬具 ママの息子シャオより


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る