第9話 クロからおっちゃんへ
拝啓 おっちゃんへ
おっちゃんから餌をもらっていた時は、こいつ餌くれるんだくらいに思ってた。
が!
何してくれとんねん。
訳のわからない知らないとこ連れてかれて、気付いたらこんな金属臭い狭い小屋の中に閉じ込められて。
こう見えても、結構ビビりなんだからな。
せっかく自由満喫してたのに、動こうにも動けねぇじゃねぇか!
でも…まぁ、たぶんおっちゃんは、俺を助けてくれようとしたんだと思う。
大怪我した俺のことを、助けようとしてくれたんだろ?
他の人間ってやつらは、餌くれたり小屋に入れてくれたりしたけど、誰も俺に見向きもしなかった。
俺もそれで良いと思ってた。
自由と引き換えに、俺たちは安住の地ってやつを手放した。
餌も食えない時もあったし、雨で出掛けられないこともあった。
オス同士の縄張り争いなんか日常茶飯事だし。
そんな生活だったけど、結構好き勝手に出来るから俺は満足だった。
ちょっとドジって、大怪我しちまったけど、それも1つに経験だと思えばいい。
そんな俺たちは、人間ってやつとつかず離れずの距離で付き合うってことも大事だと気付いたんだ。
時々、餌をくれる人間もいたし、俺たちを追い掛け回さない人間もいたし。
けど、俺たちの世界じゃ人間を信用した奴らは、いつの間にか消えてるって噂があった。
昨日いたはずの奴が、いつの間にか姿を消してるんだ。
あまり関わり合いになりたくねぇじゃねぇか。
だから、おっちゃんが俺のことを心配してくれるのは知ってたけど、つかず離れずの距離を取っていたんだ。
なのに、またドジっちまった。
まさか、おっちゃんが本気で俺を捕まえようとしていたなんてな。
まぁ、なんだ。
助けてくれたのは礼を言っておく。
けど、俺は自由だ。
人間に媚びたりはしない。
ずっとそうやって生きてきたから、今さら生き方なんて変えられねぇんだ。
本音言うと背中の傷がうずいてるわ、知らない場所に連れて来られるわで、結構ビビってる。
俺たちの間では、臆病で警戒心が強いやつが生き残るって伝説がある。
だから、俺もここまで生き残れてきたんだと思う。
だから、俺は変わらねぇぞ。
ビビりで生き残れるなら、ビビりで結構。
おっちゃんには感謝してるけど、どこに行っても俺は俺の流儀を貫かせてもらうぜ。
敬具 クロより
追伸
助けてくれてありがとな 戦友
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