第3話 ラスボスから勇者様へ
拝啓 勇者様
突然のお手紙失礼します。
私、この世界のラスボスをしております。
勇者様は私を倒すために、魔法使い、武闘家、僧侶を仲間にし、上級職業に就いている頃かと思われます。
ラスボスである私が、なぜ勇者であるあなた様に手紙をしたためたのか、疑問に思っていることでしょう。
単刀直入に申し上げます。
待ちくたびれました。
あなた様は、ダンジョンボスやエリアボスを次々と倒し、その名を轟かせています。
村では歓迎され、城へ招待され豪華な飲食。
日々忙しく過ごしていることと思います。
若い娘と甘酸っぱいアオハルなんかを楽しんでいるかもしれません。
真新しい装備に身を包み、初めて見る魔物と戦い、経験値とお金を稼ぐ日々を送っているのでしょう。
ですが、私はラスボスです。
城の奥深くに閉じこもったまま、あなた方がいつ来てもいいように、悪役らしくラスボスらしい振舞いを身に着けるために、1人鏡の前で練習する毎日を送っております。
部下の前では、ラスボスらしく振舞うのは当たり前。
部下が失敗した時は、泣くのを我慢して消してしまわなければなりません。
若い娘とのアオハルなんか、夢に見ることも許されません。
飲食も薄暗いカビ臭い部屋で1人。
孤独に押し潰されそうになります。
それというのも勇者様。
あなた様一行が、ラスボス退治に行くために最高ランクの装備を全部揃えようとしたり、レベルMaxでラスボスに挑みたい、サブクエやミッションを完クリしたいなどという理由で、なかなか私の元へ来てくれないからです。
私を倒した後、裏ダンジョンや裏世界があるかもしれないじゃないですか。
その世界では、もっとレベルの高い武器や防具が手に入るかもしれませんよ?
もっとローリスクハイリターンのカジノがあるかもしれませんよ?
いつまでカジノで散財しているのですか?
そのカジノは、当たりやすい台と当たりにくい台があり、当たりにくい台ではいつまでたってもコインは増えませんよ?
一発逆転を夢見る前に、早く私の元に来ていただけないでしょうか?
私は、いつまで待っていればいいんですか?
もう耐えられないんです。
私だって、若い娘とアオハルを経験してみたい。
1人で鏡の前で、立ち居振る舞いを練習するのも疲れました。
早く勇者様に倒されて役目を終え、出来ることなら生まれ変わって村人になりたい。
贅沢を言えるなら、生まれ変わったら勇者様になってみたい。
黄色い声援を浴びてみたい。
期待されてみたい。
お願いです。いい加減カジノから出てラストダンジョンに挑んでください。
もし、私の願いが届かないようなら…。
国に帰ります。
国のみんなに期待されてラスボスになった私ですが、もう帰りたい。
笑われてもいい、馬鹿にされてもいい、白い目で見られてもいい、期待外れだと後ろ指をさされてもいい。
勇者様一行は、ラスボスの居ない世界で永遠に雑魚キャラと戦っていればいい。
レベルMaxになっても、最高ランクの武器や防具を揃えても、完クリするにはラスボスである私を倒さなければならないんですから。
そのラスボスである私が居なければ、あなた方一行の旅は終わらないんです。
最後に、もう一度お願いします。
カジノに入り浸っていないで、早く来てください。
帰りますよ?帰っちゃいますよ?
返信は、ラスボス宛と書いて魔物に渡してください。
敬具 あなたの到着を待つラスボスより
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