第2話  1人息子から母へのメール

拝啓 母ちゃんへ

俺が赤ん坊の頃、俺の父親と喧嘩して父親を追い出した母ちゃん。

いじめられやすくてネガティブだった俺を、徹底的にポジティブ思考に叩き直した母ちゃん。

毎年毎年どこからか猫を拾ってきては、里親探しに奔走する母ちゃん。

隣近所のじいちゃんやばあちゃんから、なんだかんだと頼りにされる母ちゃん。

家に居るときは「今どきの男は家事手伝いくらい出来ないと、嫁に来てもらえないぞ。」と言いながら、めんどくさいことは全部俺任せの母ちゃん。

自分は、興味があることに熱中してご飯の支度も忘れるくせに、俺が家事を忘れると決まって「小遣い減らしちゃる。」の決め台詞。

母ちゃん見てると「自由奔放」って言葉がぴったりだと思う。

でも、そんな母ちゃんは俺の憧れだからそのまんまで良いと思う。

今年、やっと俺も高校を卒業する歳になりました。

言いたい頃はもっといっぱいあるけど、これだけは言わせてほしい。黙って聞いてほしい。

高校最後の俺から母ちゃんにお願いです。

高校3年の最後のテストで、赤点取ってしまいました。

すんません。親呼びです。来てください。マジですんません。

口で言うと百倍返しで手が出てくると思うんで、帰る前にメールで報告します。

いや…言い訳になるけど、赤点1つだし内申で何とかなるって思ったのよ。

あの古典のヌボーッってした先生が、内申もうちょいくれたら赤点じゃなかったのよ。

いや、確かに俺も悪いと思うよ。

授業中に寝てるし、別の本読んでたし。

まぁ…ねぇ、答えを書いたのは俺だけど、点数つけたの先生じゃん。

俺は悪くないと思うんだよね。

いやさぁ、間違えたのは俺だけど赤点にしたのは先生じゃん。

俺は悪くないと思わない?

でもさぁ、俺の言い分が通用する学校じゃないんだよね~。

つうわけで、親呼びです。

小遣い減らすのと、締め出しと、百倍返しは勘弁してください。

ひたすら家事手伝いに精を出します。

アルコール飲む?

母ちゃんも仕事で疲れてるだろうから、俺が帰る前に飲んでていいよ。

いつもいつもお仕事ご苦労様です。

なんか、つまみでも買って帰ろうか?

ちなみに、親呼びの前に担任から電話来るからよろしく。

まぁ、これで最後だし。

最後くらい俺と学校行こうぜ。

敬具 息子より

母からの返信

じいちゃんに行ってもらおうか?

あんだけ赤点ないからだいじょ~ぶっしょって言ってたのはだ~れ~だ~?

感謝のメールかと思いきや、赤点取ってごめんなさいじゃねぇか。

家事手伝いするんだな?

向こう2週間分の夕食全般、掃除、洗濯、食器洗い、ゴミ出し、部屋の片づけで手を打ってやる。

帰ってきたら、まず1時間の説教は覚悟しろよ。

息子からの返信

はい。

すんません。

家事手伝いやらせていただきます。やらせてください。やりたいです。

マジですんません。




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