拝啓 言いたいことがあります

猫執事

第1話 ご隠居からルチルへ

拝啓 ルチル様。

あなたに言いたいことがあります。

これを読んでいるあなたは、何歳になっているのでしょうか?

23年間の猫生で、あなたと一緒に居れたのはほんの一年半くらいでしたね。

あなたに初めて会った時のこと。

はっきりと覚えていますよ。

あの頃、20年近く一緒に暮らした我が子同然のトワが亡くなり、私は寂しくて悲しくて落ち込んでいました。

起きるのもだるいし、起きてもトワは居ない、張り合いのない毎日。

しもべ(飼い主)が心配してくれていたのは分かっていたけど、余計なお世話だと思っていました。

そんな時に、近所の物置で生れたというあなたがやってきたの。

ガリガリで痩せこけていて、目と耳だけが大きくて、初めて見た場所に怯えていましたね。

最初は、警戒して威嚇してやろうかと思っていました。

でもね、母親から離されたあなたが、か細い声で泣いているうちにトワを思い出したの。

トワに初めて会った時も、あなたのようにか細く鳴いていたっけって。

四角い棒で仕切られた部屋から出て来たあなたは、真っ先に私に近づいてきましたね。

私は寝ていたので、驚いて本気の猫パンチしてしまいました。

あの時はごめんなさいね。

でも、あなたは挫けなかった。

何度も何度も警戒しながら近づいてきて、寝たふりしている私の側にそっと寄り添って、そのまま寝ていたこと知っていましたよ。

気付かなかったかもしれないけど、熟睡しているあなたの毛づくろいをしていたの。

あなたといるうちに、私も負けるものかって。

まだまだ若いものには負けんって、歳も考えずあなたを追い掛け回したりしていましたね。

いつの間にか私と同じくらい、いいえ、それよりも大きくなったあなたを見ているうちに、トワの居ない寂しさも消えていました。

甘えたがりのくせに、素直に甘えることが出来ないあなた。

私が寝た後でしか、寄り添ってこなかったあなた。

本気で噛んで、私に怒られて落ち込んで隅っこで寝ていたあなた。

どんなあなたも全部大好きでしたよ。

猫生の最後にあなたに会えたこと、しもべには感謝しています。

でも、私が居なくなったらあなたは一人で大丈夫かしら?

心配だったので、ある場所に相談しておきました。

そこは、身寄りのない猫やしもべを探している猫に、新しい家を探してくれる紹介所のような場所です。

世界中どこにでもあるけど、私達猫だけの秘密の紹介所。

人間には「偶然出会った」と見えるように、自然に猫を送り込むことで有名なの。

私に何かあったら、あなたと相性の合う子猫を紹介してくれるように頼んだから。

私が居なくなって、一番最初に来た子があなたの友達になってくれるわ。

私があなたにしたように、今度はあなたがその子に、猫としての一般教養を教えてあげてちょうだいね。

きっと、あなたが寂しくなることはないから。

あなたが寂しくならないように、定期的に子猫を紹介してもらうようにしましょうか?

その方が、あなたも張り合いが出るんじゃないかしら?

言いたいことはもっといっぱいあるけれど、いつかあなたが虹の橋を渡ってきた時のために取っておきますね。

あなたの猫生が、充実して幸せであることを祈っています。


追伸

しもべには、適度にモフられなさい。モフられ過ぎは、しもべが調子に乗ります。その時は、私直伝の猫パンチと猫キックで罰を与えてやりなさい。しもべとは、適度な距離感を取ることを心掛けなさい。軽い女だと思われてはいけませんよ。高根の花だと思わせなさい。


敬具 ポッポ(ご隠居)より

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