25.鬼
今日も朝から快晴だな。魔王が復活したとは到底思えない長閑な天気だった。
今日が出発の日で、しばらくここへは戻らないということもあり、ユリウス様やライレルやメアリーを筆頭に集落のみんなが俺を見送りに出てくれている。
「ユリウス様、行ってまいります」
「うむ。気をつけてな、オルド。暑さとピチピチギャルの誘惑には注意するんじゃぞっ」
「……」
ユリウス様渾身のギャグといったところか。暑さについてはともかく、ギャルに関してはこの年老いた見た目だから大丈夫だろう。ロクリアたちはギャルというよりオーガだしな……。
「ライレル、それじゃ留守中は頼んだからな?」
「はいっ! あの……オルド様……」
「ん?」
「今度、僕とデートでもっ……」
「……あはは……。まあ考えておく」
「よっしゃー……じゃなかった、わーいっ! 楽しみにしてますね!」
「……」
なんか、もう行くことが決まったみたいになってしまったが、まあいいや。
「グルルァ……」
「ウミュアァッ……」
「……」
フェリルとクオンは露骨に不機嫌そうだった。正直末恐ろしいレベルだ……。
「メアリーも、道具屋をしっかり頼んだぞ?」
「はぁい。オルド様、いつでもお越しくださいね。夜の道具屋にも……」
「……き、気が向いたらな」
「はい、お待ちしてます……」
あどけない顔をして言うようになったものだな、メアリーも。なんだか前よりも色っぽくなった気がする。女の子っていうのは怖いくらい成長が早いものだ……。
「あたちも待ってまちゅ、オルドしゃまー」
「……あ、あぁ」
マチという名の幼女が俺の足に抱き付いてきた。老婆から幼女になったこともあって多少舌足らずだが、頭の中は大人なせいか上目遣いでウィンクまでしてくる。男に対して今まで興味がなかったそうだが、最近俺に恋をしてしまったそうだ……。
彼女も【逆転】クジをやった一人で、元々メイドをやっていたということもあってこの集落ではカフェを経営してもらっている。店主が幼女なためか話題性は抜群で、連日ライレルの剣術道場帰りの客で賑わってるらしい。もう集落じゃなくて村といっても言い過ぎじゃないな。凄まじい成長具合だ。
「今度俺もマチの店に立ち寄ってみるよ」
「ぜひぜひっ」
「それじゃ、フェリル、クオン。そろそろ行くぞ」
「うむ!」
「行きますです!」
二人とも、俺が声をかけた途端パッと明るくなった。わかりやすいな……。
◇ ◇ ◇
「申し訳ないわね、ゾルフ。折角ご隠居なさってたのに」
「いえいえ、ロクリア様。滅相もございません。また出番が来たということでワクワクしております……」
ロクリアの自室にて、彼女の前で白い歯を覗かせる白髪交じりの男ゾルフがいた。温和そうな顔立ちの彼こそ、【老化】スキルの持ち主であった。
「いい? オルドを元に戻せる振りをしつつ、焦らしなさい。何度も何度も。アレク様がやられたように……」
ロクリアの口調は静かだったが、表情には鬼気迫るものがあった。
「マ、マーマ……」
ロクリアのほうを見て、恐ろし気にうずくまる勇者アレク。
「あ、ああっ。アレク様、ごめんね。あんな汚物がやった嫌がらせの数々を思い出させてしまって……」
「どっちかというと、アレク様はロクリアの顔に怯えたのでは――」
「――エスティルったら、口を塞ぐのですぅ!」
「はっ……」
マゼッタに制されたエスティルの顔面が見る見る青くなっていく。自分たちを見つめるロクリアの顔はまさに鬼そのものだったからだ。
「それ以上言ったら、エスティル、マゼッタ……あなたたちも無事では済みませんよ」
「す、すまん、ロクリア……」
「わたくしは何もしてないですのにぃ……ひっ、ごめんなさいですぅ……」
「た、大変のようですなぁ。勇者様がこのような悲しいお姿に――」
「――ゾルフ、あなたは言われたことを忠実にやればいいのっ! 余計な口出しをしたら命を落とすわよ……?」
「……は、はいでございます……!」
ロクリアのあまりの剣幕を前にしてゾルフもたじたじであった。
「さっきの続きだけど……焦らすだけ焦らして、相手が掴みかかってきたら私たちがネタバレしてやめさせるから心配は無用よ。私たちはこのことを知っていたけれど、この程度のことなら賢者さんなら頭に入れていると思って言いにくかった……ってね。嘲笑をたっぷりと浴びて、あの男は放心状態で怒る気力すらなくしてるはずよ」
「は、はい。ロクリア様のため、精一杯頑張る所存であります……」
「た、楽しみですぅ」
「ま、まったくだ。このために野次馬も沢山用意しておいたからな」
「うふふ……あいつの真っ赤な顔が今から楽しみね、アレク様……」
「バブー」
コクコクとうなずくアレク。その顔には満面にほど近い笑みが浮かんでいた。
「さぁ、そろそろあの男の鼻を明かしに、約束の場所まで向かうわよ!」
「了解いたした」
「はぁい」
「合点」
「バブー!」
ロクリアたちの盛り上がりは早くも最高潮に達そうとしていた……。
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