24.自信


『ガッハッハッハ!』


 異界フィールドの最果てにある魔王城にて、玉座で血の酒を浴びるように飲む魔王の姿があった。


『魔王様、そのように飲みすぎるようではまた痛い目に遭いますぞ』


 フードを被った骸骨姿の大臣が忠告するも、魔王の盃は酒で満たされるばかりだった。


『グハハッ! 良いのだ、大臣! どうせすぐ勇者パーティーがああだこうだと喚きながらやって来て余は倒される運命なのだからな! それでも、今回はあやつらを少したぶらかしてやろうと思ってにも力を入れてみたが、どうだ? グッとくるか?』


 ドヤ顔で盛り上がった胸元を見せつける魔王に対し、大臣は溜息をつきつつ首を横に一回転させる。


『そのように投げやりになってはなりませんぞ、魔王様。気になる情報も入っておりますゆえ』


『んん? なんだなんだ? 申してみよ!』


『あの賢者オルドに関する情報ですぞ』


『ブハッ……! や、やつがなんだというんだ? その名を聞くだけで余は縮み上がりそうだ……』


 口に含んでいた酒を噴き出し、顔面蒼白になる魔王。


『あの男が勇者パーティーから追放されたそうで』


『おっ……! そ、それで、どうなったのだ……?』


『残念ながら、魔王様が復活したことで復帰する話もあるそうですぞ。しかし……』


 大臣の口が嗤うようにカタカタと鳴る。


『ええい、もったいぶるな! 早く申してみよ!』


『……どうやら仲違いをしているらしく、復帰するにしても魔法力を半分にする条件付きだとか……』


『おおっ、半分か……それならば今の余であれば充分に勝てそうだ! ……しかし人間とは愚かなものだな!? あれほど強い男、全権を与えて王にでもしてやれば全て解決するであろうに!』


『人間とは、能力だけではなく見た目や産まれた場所、そういったものにも大いに左右されるそうですぞ』


『ふむう……人間とは難儀なものよの……! しかしこれで面白くなってきた。以前の余とはまったく違うということを人間どもに思い知らせてやろうぞ!』


『了解ですぞ、魔王様……』


 髑髏の暗い目の奥が怪しく光った。




 ◇ ◇ ◇




『グルルァ……』


「……ん、フェリル、どうした?」


 夜の集落で眠気を催し始めていた頃、いつの間にか巨大な狼に戻っていたフェリルが毛を逆立てているのがわかった。


『おぞましい気配がしたのだ。魔王の強さは、最早以前とは比較にならぬ……』


『ウミュアァッ、クオンもそう思います。魔法力を弱体化させる提案に乗るのはやめたほうがよいかと』


「……」


 クオンまで九尾の狐に戻って毛を逆立ててるな。おかげでボロ小屋の中はさらに狭くなって異様に暑苦しい。


「とりあえず元に戻ってくれ。俺のペットなんだろ?」


『わ、わかった』


『わかりました』


 二人とも素直に従って人間の姿になった。ペットの見た目としては普通逆なんだが、この際気にしない。


「俺も、魔法力が半分になったら正直やばいと思っている」


 何故なら、【逆転】スキルで半分を逆にしても半分にしかならないからだ。それに神の力に等しいといえど、スキル自体効果範囲が狭いので魔法の完全上位とは言い難い。


 なのでもし半分にした場合、アレクの精神状態を元に戻したと仮定しても、勇者パーティーが一丸になってようやく魔王に勝てるかどうかだろうな。だが、それはあくまで一つの仮説であって、俺にはそうはならない自信がある。


「今回も魔王にはだろう。俺に任せてくれ」


「オルドよ、どんなやり方で倒す気なのだ?」


「クオンも気になります」


「……そんなに気になるなら、常に同行してみるか? 俺のペットとして」


 偶然を装って提案してみたが、実は既定路線で二人とも連れていく予定なんだ。俺の考えた計画のために。


「グルルゥ……それは嬉しいのだが、この集落を留守にするわけにも……」


「ウミュァア、そうですよね……」


「それだったらライレルがいるから問題ない。あいつの腕が評判になって弟子がどんどん集まってるみたいだし、魔物とか盗賊の類が来ても平気だろう」


「「なるほど……」」


 さぁ、面白くなってきた。ロクリアたちとの大冒険が楽しみすぎて、今からそのときが待ちきれないな。次は誰の精神を壊してやろうか……。


「「……」」


「そんなに撫でてほしい目で見るなよ。よしよし」


「グルルウゥ……」


「ウミュウゥ……」


 フェリルもクオンもすっかり俺のペットに成り下がったな……。

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