23.仇


「ロクリア様、差出人のわからない手紙が……」


「早速来たわね」


 王城の自室にて、使用人から手紙を渡されてほくそ笑むロクリア。


「バ、バブウゥ……」


 アレクが手紙を見た途端、頭を抱えつつうずくまった。


「心配しないで、アレク様。あなたの無念は私が必ず晴らすから……」


「マ……マーマア……」


「……くっ。あの勇猛なアレク様はもう逝ってしまわれたのだな。仇を討たねば……」


「エ、エスティルったら、その言い方だとアレク様が亡くなってるみたいですよぉ」


「マゼッタ、そう言うな。この様子では死んだも同然――し、失礼……」


 ロクリアに睨まれて気まずそうに口をつぐむエスティル。


「バカなことばかり言ってないで、二人ともこれを見て頂戴」


「「え?」」


「あいつからの手紙よ。大体想像通りだったけれど、ってところね……」


「どうしたのですぅ?」


「どうした?」


「見ればわかるわ」


 ロクリアが二人に向かって呆れ顔で手紙を公開する。


『拝啓、勇者パーティーどの。例の広告は読ませてもらった。提案は実に魅力的だが、足りないものもある。それは容姿についてだ。見た目もさることながら、年老いた体では不自由することも多く、足手纏いになる可能性もある。そこで、まず【老化】スキルの持ち主に会わせてほしい』


「……見た?」


「「……」」


 コクコクと無言でうなずくマゼッタとエスティルに対して、ロクリアは片方の口角を吊り上げて嫌らしい笑みを浮かべる。


「賢者とか言われてるくせに、無知もいいところよね。【老化】スキルは人を老化させることはできても、元に戻したり若返らせたりすることはできないのに。でも、これでようやくあの男に恥をかかせるチャンスが巡ってきたわね、アレク様……」


「……バブッ……」


 指を咥えつつうなずくアレクだったが、その表情にはやや明るさが戻っていた。


「とりあえず、まずはやつと会う日時と場所を指定して、そこで思う存分恥をかかせて笑い者にして、そのあとで魔王討伐の道具としてこき使って、最後に惨たらしく処刑って流れがベストね」


「ですねぇ」


「想像しただけで胸がスカッとする……」


「バブゥー……」


 僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティル、勇者アレクの顔には、早くも勝利を確信したかのような笑みが浮かんでいたのであった。




 ◇ ◇ ◇




「オルドよ、やつらから返事が来たのか?」


「オルド様、返事が来ましたですか?」


「あぁ、ついさっき届いた。まぁ大体予想通りだったよ」


 俺はフェリルとクオンに勇者パーティーから届いた手紙を見せてやる。そこに記された内容は、例の場所でいつもの時間帯に落ち合おうというもので、俺の求める条件にも応じるというものだった。俺を魔王討伐に参加させるためとはいえ、随分あっさりと承諾したもんだな。何かほかに狙いでもあるんだろうか?


「……手紙はしかと見せてもらったぞ、オルドよ。しかし、何故【老化】スキルの所有者と会おうとするのだ?」


「クオンも気になります」


 まあ二人が不思議がるのも無理はない。俺はいつでも若くなれるわけだし必要性がないように見えたんだろう。【逆転】スキルでは子供か老人にしかなれないという不満点はあるが、そもそも【老化】スキル持ちが俺を以前の状態に戻せるかどうかは未知数だからな。というか、それはおまけ程度であって俺の主な目的ではないんだ。


「ほら、ちょっと前にマチっていう名前の綺麗な婆さんが【逆転】クジを引き当てて、俺のスキルで幼女にしてやったことがあっただろ?」


「「あっ……」」


 二人とも思い出したようだ。それはもう美しい女性だったらしく、言い寄ってくる者が絶えなかったそうだが、男自体に興味がなくて友人の女性と静かに暮らしたいと思っていたところ、ある日突然覆面をつけた者に襲われて老婆にされてしまったという。おそらく恨み屋が何者かの依頼を引き受けて実行した形だろう。


 多分、話に出てきた覆面の者は俺を老人にしたやつと同一人物なんだろうから、勇者パーティーから多大な報酬を受け取ったはずで、恨み屋として稼ぐ必要もなくなってどこかに雲隠れしてるのはほぼ間違いない。


「そいつを引っ張り出して、依頼人ごと懲らしめてやろうってわけだ」


「グルルァ、なるほど」


「ウミュァア、なるほどです」


 これでクジを当てた婆さんもそうだが、老いぼれにされた俺の恨みも多少は晴らせそうだ……。

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