10.眼


「なんだ? なんでこんなに人が集まってる?」


「これからなんかあるのか?」


「何々ー?」


「おい押すなっ!」


「「「「わあわあっ!」」」」


「……」


 集落の中央にある広場には、沢山の人間が集まりざわめいていた。全部で大体五十人くらいか。どこにこれだけの人がいたのかと驚くほどだ。


 彼らの前に少し離れて俺が立ち、両隣をフェリルとクオンで固めた格好になる。被追放者の集落なだけあって、ほとんどのやつが懐疑的な眼で俺のほうを見ているのがわかる。【逆転】スキルで見た目が子供になってるからでもあるんだろうが、こういう姿でここに来たのはがあるからなんだ。


「グルルァ! 皆の者、これからオルドによる演説があるから、心して聞くがよい!」


「ウミュァアッ! 聞くのです!」


 みんなをここまで連れてきた二人が叫んだことで少しは静かになったが、それでも溜まりに溜まった不満が今にも爆発しそうな気配が漂っていた。


「わざわざ集まってくれてありがとう。俺の名はオルド。かつては勇者パーティーの一人だったが、平民出身であるがゆえに勇者アレクに濡れ衣を着せられて追放された。だから、みんなと同じだ……」


 俺の訴えかけるような言葉で少し誤解が解けるような感覚はしたが、それでも勇者パーティーの一人ということで雲の上の話だったのかまだ壁を感じた。しかしこれからだ。俺のスキルと同じ逆転劇はここから始まる……。


「みんな、まずこれを見てくれ!」


 俺は打ち合わせ通り、【逆転】スキルで自分の年齢を一気に上昇させ、老人となった。


「「「「「おおおっ!」」」」」


 よっぽどインパクトがあったのかどよめいている。爺さんが子供になるよりは、子供が爺さんになる姿を見せたほうがそれまで舐めていた分、ギャップで色んな意味で大きく見せることができて説得力も増すんだ。


「見たか! 皆の者! これがオルドのスキル【逆転】である!」


「このオルド様のスキルで、炊き出しをしていた老人の病気も治しました!」


 フェリルとクオンの声が追い打ちとなって、どよめきはさらに騒々しく変化し、大きな渦になっているようだった。よしよし、予定通りだ。


「グルルァ! 皆の者、静まれ!」


「ウミュァア! 静まりなさい!」


 彼女たちの大声で、それまでの喧騒が嘘のように一気に静まり返っていくのがわかる。これは俺に対する期待感がそれほどまでに上がっている証拠だ。しかし……まだ言わない。しばらく期待をさせて焦らしてから熟成した言葉を紡ぎ出すんだ。


「俺はここで偉大な方と出会い、その人のおかげでこうして人に関する全てを【逆転】させるスキルを得ることができた……。これは神が与えてくれた力だ。だから、この力で俺は自分だけでなく同じように追放され、痛い目に遭わされたみんなの力になりたいと思っている。もし見返したいと思うやつは俺の元へ来てくれ! 以上……」


 恐ろしいほどに静まり返る広場に、俺は固唾を飲む。上手くっていたように見えたが、もしかして滑ってしまったんだろうか……。


 そう思った矢先だった。拍手と歓声が耳をつんざかんばかりに巻き起こった。


「俺は勇者アレクの野郎に高価な壺を破壊されたことがある! あんたの気持ちはわかるぜ!」


「私も、あいつに犯されそうになって逃げたわ!」


「あいつらみんな庶民を見下してると思ってたけど、オルド、あなただけは違う!」


「オルド、お前さんこそ本当の賢者……いや、勇者だ!」


「ブラボー!」


「「「「「オルド! オルド!」」」」」


 みんなの声に勇気づけられながら、俺はフェリル、クオンと笑い合った。人の心を、それも人間不信になっている被追放者の心を掴むのは難しいと思っていたが、予想よりずっと上手くいったのでよかった。


「こ、こら! 押すな! 押すでない!」


「並びなさい!」


「……」


 それどころかみんな押しかけるようにやってきたので、俺は不満が出ないように公平にクジ引きで【逆転】スキルを使う対象を決めることに。最初に選ばれたのは、金色の三つ編みとエプロンがよく似合う大人しそうな盲目の少女だった。


「――わ、わああ……」


【逆転】スキルで目が見えるようになり、涙を流しながら周りを見渡す少女。しばらく舞い上がっている様子だったが、まもなくはっとした顔で俺たちに向かって何度も頭を下げてきた。


「ありがとうです、ありがとうです……」


「いや、これくらいでお礼を言われても困る。君を追放したやつにやり返さないと……」


「……いえ、目が見えるようになっただけで充分です! ありがとうございました……!」


「……」


 んー、欲があまり子なのかな?


「グルルァ、小娘よ、それではオルドの気が晴れない。事情だけでも話してみよ」


「ウミュァア、話してくださいね?」


「は、はい!」


 というわけで話しを聞いてみたわけだが……この少女、メアリーという名の元僧侶で、ダンジョンでパーティーリーダーの補佐を献身的にしてきたものの、モンスターからの外傷で失明し、用済みとして追い出されてしまったのだそうだ。それからは目に効く薬草を探すうちにここへ流れ着いたという。


 足手まといになるのは嫌だし恨みはまったくないとのことだが、それが却って健気で俺にとってはやり返したくなる要素になった。それもミスをしたリーダーを庇ってこうなったらしいからな……。

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