11.正直者


「告白する……好きだっ……! 私と……私と付き合ってくれたまえ……!」


 そこはパーティー『正義の一撃』の宿舎で、リーダーの男モルデンがメンバーの女に告白するところだった。


「え、えっと……リーダー? 気持ちは嬉しいんですが、あたしには将来を約束した人が――」


「――死ね」


「……え?」


「死ぬか、今すぐここから出ていけええぇっ!」


「は、は、はひいいぃっ!」


 激昂したパーティーリーダーに椅子を投げつけられ、青い顔で外へ飛び出す少女。


(……畜生……なんで女ってのはどいつもこいつも虫がついてやがるんだ……)


「こんなものおおおおぉ!」


 モルデンはテーブルに乗った花瓶を叩き割ろうと持ち上げてみせたが、途中で思い直した。


(……そ、そうだ。思い出した。そういや、この前パーティーから追い払った盲目の女がいたな。メアリーとかいう従順な女……。ガキっぽい体つきで抱き心地は悪そうだが……ここまでフラれ続けている以上、背に腹は代えられん……)


 股間を押さえつつ、モルデンはニヤリと笑う。


(よし、早速やつを捜しに出かけるか……。ただでさえ私に献身的だったあの女になら何をしても許されるはず。きっと嬉し涙を流しながら私を受け入れるだろう。ムフフッ……)


「――ん?」


 玄関の扉を叩く音がして彼が開けると、そこには両目を瞑った三つ編みの少女、メアリーが立っていた。


「モルデンさん、お久しぶりです……」


「お、おっ……メアリーじゃないか……。よくここまで来られたな!」


「知人から手伝ってもらったので……」


「そうかそうか。コホン……ところで、実はな、私は君を捜していたのだ……」


「……え?」


「私としても、君を追放する気などさらさらなかったのだが……仲間から盲目のメアリーなんかいらない、追放しないならあたしがここから出ていくと脅されてな……」


「そ、そうなんですか?」


「そうに決まってるだろう! しつこいなあ君も……あ、いや、そうなんだよ……。それで、これから捜しに行こうとしていたというわけなのだよ……」


(ふう。これで大丈夫だろう。早く抱かせろっていうんだ、このクソアマめが……)


「本当ですか?」


「……お、おっ?」


(なんだ? 妙に私を疑ってるな。さては、追放したことを根に持ってるのかね……。ここまで生意気なことを言われたら、抱く前に最低でも十発は殴らんと気が収まらん……)


「もう一度言います。本当ですか?」


「お、おい、いい加減にしろ! ……! ……あ、あれ……?」


「やっぱり嘘だったんですね」


「……う、嘘だよ。さっきのは真っ赤な嘘! ……あるぇ?」


 モルデンはメアリーの前で信じられないといった表情を浮かべる。


「な、な、なんで私の口が勝手にこんな――」


「――どうしてなのか知りたいか?」


「……え?」


 呆れ顔のメアリーの後ろに老人の男が現れる。


「だ、だ、誰だ、お前は……!」


「メアリーの保護者だ」


「……あ! お父様でしたか! いやー、爺さん、私専用の性奴隷にする予定のメアリーをわざわざ連れてきてくれて勃起しそう! ……あ、あれ!? なんでえぇ!?」


 かつてメアリーのリーダーだった者の顔が汗にまみれる。


「性奴隷だなんて……酷いです……」


「……せ、正解だ! 今のは私の本音だよ……! えっ!? ま、紛れもなく……? う、うわわっ、なんでだよー!」


「お前の建前と本音を逆にしてやった。今の言葉がお前の本性というわけだ。もう元に戻したから安心して喋っていいぞ」


「くっ……なんか変なスキルを私に使いやがったか! ぶっ殺してやる!」


「やってみろ」


「こ、来い! メアリー!」


「きゃっ……!」


 モルデンがメアリーを人質に取り、首元にナイフをあてがった。


「ひひっ……妙な真似をしてみろ。お前の娘が死ぬぞ!? だから私の言うことを聞けっ!」


「哀れなやつめ……。正々堂々、勝負もできないのか?」


「は、はぁ!? 負け惜しみを言うな! お前いくらなんでも頭悪すぎだろう! どんなに汚い手段だろうと勝てばいいのだよ勝てば……!」


「そうは言うが、もうお前はぞ?」


「……へ?」


「ちなみに、ご自慢のスキルも使えない。呼吸が乱れてるようだが、息もできなくしてやろうか?」


「……むぐっ……!?」


 少女を人質に取る男の顔が見る見る赤くなっていく。


「たしゅけ、て……」


「もうメアリーには二度と手を出さないと誓え」


「……だし……ましぇん……」


 まもなくモルデンは白目を剥いて倒れるのだった。

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