9.興味
「――これでよし、と……」
俺は手紙をしたためると、すぐに転送魔法で目的地へと飛ばした。
普通は転送魔法持ちの郵便屋に渡すんだが、賢者のほうが正確に素早く宛先へと飛ばすことができる。もちろん、結界が張られていない場所に限られるが。
「オルドよ、何をしていたのだ?」
「オルド様、どうしたのですか?」
「ああ、ちょっとね。あとのお楽しみだよ」
「……ふむぅ」
「ウミュゥ……」
俺は興味深そうに近付いてきたフェリルとクオンに笑いかける。元はフェンリルと九尾の狐だし、手紙と言われてもよくわからないだろう。
「そうだ、フェリル、クオン。集落の人たちを全員、小屋の前まで集めてくれないか?」
「……何故だ? それもあとのお楽しみなのであるか?」
「なのです?」
「ああ、頼むよ……」
「「むぅ……」」
俺は露骨に不満そうな様子のフェリルとクオンの頭を撫でてやった。
「……グルルゥ、なんだかとてもいい気持ちだ。オルドのために頑張りたくなってきた……」
「ウミュゥ……クオンもです……」
よしよし、二人とも競うようにして小屋を出て行った。撫でるついでに俺に対する不満を【逆転】スキルで満足感に変えてやったわけだ。
ここは俺のように世間から爪弾きにされた者たちが集うところだから、年老いたユリウス様に代わって俺がなんとかしてやりたい。
あの人を若返らせることも提案したが、どうしても天寿を全うしたいという気持ちを尊重することにしたんだ。病で亡くなったシスターが自分を待っているという。その人も幼馴染だったそうで、立場は違えどお互いに尊重し合っていたらしい。
俺も幼馴染のロクリアに対しては同じような感情があったのに……残念だよ、ロクリア。本当に残念だ……。
◇ ◇ ◇
「勇者様、お手紙が届いておりますぞ」
「……ん? 俺に手紙だと? 珍しいな……」
執事から手紙を受け取り、困惑した表情の勇者アレク。そこにロクリアたちが興味津々の様子でやってくる。
「アレク様、また新しい女の子ができたの?」
「相変わらずアレク様ってモテモテですねぇ」
「まったくだ。あのダメ男のオルドと違って」
「……お、お前らなあ、女に相手にされないゴミムシと違ってモテる男は大変なんだよ。……見るなよ?」
「「「はーい!」」」
アレクが苦笑しながら部屋の隅へと移動する中、ロクリアたちは身を寄せ合ってひそひそと会話していた。
「……エスティル、誰? オルドって……」
「ロクリアったら、酷いですうぅー」
「マゼッタ……冗談じゃなくて、私本当にわからないのよ。視界に入れなくていい気持ち悪い人とか、すぐ忘れちゃうし……」
「オルド、惨めですー、可哀想ですうぅ」
「……でも正直、自分もやつの顔すら思い出せん。不快すぎて」
「わたくしもー」
「「「キャハハッ!」」」
その一方、手紙の封を解こうとして勇者アレクは首を傾げていた。
(……しかし、誰からだろうな? 差出人の名前すらない。もし俺の女になりたいなら、四の五の言わずに直接抱かれに来ればいいだけなのによ……。さては……この前行った酒場の娘からか? 俺に惚れるのは当然だが、歳はまだ十二くらいだったような……。あ、なるほど、ラブレターを出すのがまだ照れ臭い年頃ってわけか。まあ、たまには青い果実を食っても腹は下さねえだろう……)
アレクが下卑た笑みを浮かべつつ手紙を開封し、まもなく目を剥いた。
『拝啓、勇者アレクどの。俺は元賢者のオルドだ。思えば、自分は追放されて当然のことをした。卑しい平民出身でなおかつ片親の自分が、生意気にも勇者パーティーに入っただけでなく、アレクどのを差し置いて出すぎた真似をしてしまった。貴殿の都合さえよければ、二日後に王都の広場にて直接謝罪したい』
(……けっ、よくわかってんじゃねえか。まさか、俺に許してもらってまたパーティーに入るつもりなのか? よーし、早速いい考えが膨らんできやがった。ちょうどオモチャを手放して寂しくなってきてたところだ。飽きるまで……オルド、てめーの心がぶっ壊れて粉々になるまで足で踏みつけてやるぜ……)
手紙を破り捨てたアレクの顔には、かつてないほど邪悪な笑みが浮かんでいた……。
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