8.逆さま
ゴゴゴゴゴッ……。それまで晴れていたのに、急に曇り出したかと思うと雨が降り出し、雷鳴までとどろき始めた。まるでこれからこの世界が激動していくことをほのめかしているかのように……。
「ではオルドよ、これから儀式を始める。前に出よ」
「はい……」
ボロボロの小屋の中、今まさにユリウス様によって洗礼――スキル授与の儀――が執り行われようとしていた。
まさか、俺がスキルを貰うことになるなんて夢にも思わなかった。強すぎる力は不和を生む……そう信じて疑わなかった俺が、今やその力を誰よりも欲しているということも、想像さえできなかったことだ。
「――終わった。目を開けよ」
「……」
ずんと頭の天辺が熱くなったかと思うと、目を開いた途端それが全身に流れ落ちるような感覚があった。ほどよい熱さのお湯を頭から垂らされて全身が温かくなる、そんな感じと似ている。
「オルドよ、洗礼によりお前の体にスキルが宿った。これからそれがなんなのか教えてしんぜよう」
俺の右手をユリウス様が両手で握りしめたのだが、その目が飛出さんばかりに見開かれたのがわかった。
「……こ、これは……」
「ユリウス様、一体どんなスキルなんですか……?」
「【逆転】というスキルだ……」
「【逆転】……? 強いんですか?」
「それはどんなスキルであるか?」
「どうなのですか?」
フェリルとクオンも相当気になる様子で前のめりになっていた。
「……強い、という言葉では表現できない……」
「ええっ……」
「ということは、弱いのか?」
「弱いのです?」
元大司教であるユリウス様の言葉は衝撃的だった。この【逆転】というスキルが弱い場合、俺の手による復讐の難易度は格段に増してしまうからだ。
「……そうではない。強いのではなく、恐ろしいのじゃ……」
「「「恐ろしい?」」」
「うむ。このスキルは……うっ……」
「「「ユリウス様!?」」」
額から汗をダラダラと流し、倒れ込むユリウス様をみんなで支える。
「……はぁ、はぁ。すまんな……もう、大丈夫じゃ……。そのスキルはな……自己、及び対象者における全ての事象を【逆転】させることができる、神の力に匹敵する恐ろしい効果を持っておるのじゃ……」
「「「なっ……」」」
俺たちはしばらく言葉を失った。神の力、だと……。
「さあ、早速【逆転】させたい事柄を念じてみるのじゃ……」
「……は、はい……」
しばらくしてようやく冷静になれた俺は、ユリウス様の健康状態を対象にスキルを使用した。すると、見る見る顔色がよくなり、汗もすっかり引いてしまった。
「……信じられん。苦しくなくなったぞ。わしの病は悪化の一途をたどっていたはずじゃが……なるほど、それを逆手に取ったわけじゃな……」
「はい……とにかく、元気になられたようでよかった……」
「素晴らしいスキルだ……。オルドよ、これでなんとかなりそうだな……」
「ウミュァ……やりましたね、オルド様」
「ああ……」
なんでも逆にできるなら、次にやるのはこれだ。
「「「おおっ……?」」」
フェリルたちが驚くのも無理はない。【逆転】スキルで自分の年齢を逆にしてみると、一気に身長が低くなり、服もぶかぶかになった。老人が一瞬で子供になったわけだ。
随分と若くなったもんだが、これがもっと年老いていたなら赤ん坊のような姿になっていたんだろうか? さらに魔法が使えない状態を逆にすることで、俺は賢者に復帰することもできた。
いつの間にか雨はやみ光が射しこんできて、フェリルが言った通り九尾の狐のクオンが幸せを運んでくれたことがようやく実感できた。これで復讐のときがいよいよ始まるわけだ……。
待ってろ、勇者アレク、僧侶ロクリア、魔術師マゼッタ、戦士エスティル……楽に死ねると思うな。必ずお前たちに、この神の力で天罰をくれてやる……。
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