人間のさが

半澤 溜吾郎

第1話 平和な世の中

 かつてこの地球と呼ばれる星では、196の国と呼ばれるものが存在していた。国は、それぞれ独立した政治的思想概念を持ち、様々な宗教の違いなどをあらわにした。国はその思想の違いから、お互いを憎しみ合い、戦争(世界大戦)と呼ばれる悲劇を引き起こした。

 その悲劇から数百年が経ち、地球から国の概念が消滅した。戦争を経験し生き残った人たちは、本当に大切なことは何かを学んだのである。そして地球は、統一された一つのコロニーとして、活動していった。これまでの国は、コロニーの中の一つの地域として、残っているだけで、ほとんど境界線などは存在しなくなっていた。

 (はあ、今日も平和な一日だな。レーシーで別の地区にでも行こうかな)

 地区23(旧日本国)の住民であるケンジは、趣味であるレーシーの改造を終え、一息ついているところだった。

 レーシーとは、かつての自動車に代わる乗り物で、超磁場電動スペクトラムを動力として、目的地にテレポーテーションすることができるこの時代の乗り物である。テレポーテーション以外にも、ドライブモードが完備されていて、かつての自動車の様に使うこともでき、人々の足として浸透していた。

 ケンジは、自慢のレーシーをテレポーテーションモードにして、地区162(旧アメリカ合衆国)へと向かった。到着するとケンジは、パーキングにレーシーを止め、行きつけのバーへと向かった。

 「よおケンジ、元気してるか?」飲み仲間であるボブが言った。

 「まあまあかな」ケンジは、何もないこの日常がつまらないといった様子で言った。

 この時代、言語は統一され、人々は自由に地区の行き来をしていた。地区を自由に行き来できるようになり、多くの人と触れ合う機会が増え、人種による差別等は激減していた。かつて人々は、見たことのない人種に遭遇すると敵とみなし、攻撃する習性があり、それが多くの争いごとを引き起こしてきた。この時代の人々は、地球上のすべての人種と気軽に触れ合うことができたため、争いとは無縁だったのである。

 もはや、国際結婚などといった言葉もなく、世の中は混血種であふれていた。これほどまでに平和で安全な世の中を作り上げたことは人類の大きな功績であり、誇りでもあった。

 「なにか変わったことでも起きないかな~ 平和なのはいいことなんだけど、毎日退屈で・・・」ケンジはうなだれながら言った。

 「わかるよ~ ほんと退屈な日常だよな・・・ 昔は国があって、スポーツとかの対抗戦とかやってたみたいだぞ」

 「それほんと? 今じゃ考えられないよ。地区の境目とか存在しないしな・・・」

 ケンジは、国があったことをちょぴり羨ましがっていた。国があった時は平和ではなかった分、スポーツは大いに盛り上がった。仲の悪い国同士の対戦は、白熱し、多くのサポーターを熱狂させた。

 ケンジとボブが他愛もない会話をしていると、バーに一人の客が入ってきた。その客の見た目は、頭部と目が異様に大きく、腕は長く、裸で青白い肌の色をしていた。その客が感情の読めない表情でケンジとボブを見ると唐突に口を開いた。



 「ワタシハウチュウジンダ。コノホシヲノットリニキタ」

 ケンジとボブはにやりと笑みを浮かべ、テーブルにあったナイフを手に取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間のさが 半澤 溜吾郎 @sarukaeru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ