家の前で甘くとろける

絵之旗

家の前で甘くとろける。

チョコレート。

数々のチョコレートが隣の親友の席にある。

「一つくらいくれよ。」

と、冗談交じりで言うと、ニヤニヤしながら「あげない」というので尻を蹴ってやった。そのまま尻が四つに割れてしまえ。


それではまるでモテない男が『リア充爆発しろ』とやきもちを妬いているように思えるかもしれないが、俺にはそのような気持ちはみじんもない。

むしろ俺は、その考えとは逆でとっとと結婚してまえとさえ思うね。

今の少子化じゃ、日本の未来も危ういというものよ。

つまり子どもが増えるであろうきっかけになるカップルというのは案外日本に貢献しているやつらなんだと俺はリアルで充実しているやつらを尊敬し、敬礼さえできる。

そんな話をすると、きまってこう返される。


「なんか捻くれすぎて考えが複雑すぎ。」


下校時に幼馴染のヒカリに予想通りの言葉を投げられた。

幼馴染であり、家が隣同士なのでよく話す間柄だったりする。

彼女は長めのポニーテールを揺らしながら学校の校門を抜ける。


「ハルトはもう少し単純に物事を考えてもいいんじゃないの?」

「それは俺も思うが、仕方ないだろう。そういう性分なんだ。」

「はぁ。知ってる。」

ものすごい溜息をつくヒカリはなんだか残念がっている。


・・・・・・


家の前に着く。

俺たちは寄り道をしてカフェで一息ついたり、本屋へよったりしたので空には星がきらきらと輝きだしていた。

「……。」

ヒカリはなぜか黙っている。

なぜか自分の家の前で立ち尽くしていた。

いつもならば、「じゃあね」なんていって俺の肩を叩くのに、どうしたことか。

「どうした…。悩み事か?」

「それ…本気で言ってる? 呆れたわ。」

「何? 本気だが…。」

「はぁ…これだからもっと単純に考えろって言ってんのよ。」

「なんだよ。心配しちゃいけないってのかよ。」

「そうは言ってないでしょ。下校の間なにしたか考えたらわかることよ。」


一体、なんのこのか…。いつも通りのことをしただけで特に変と言えるようなことは何もしていない。いつもの談笑や相談をしただけじゃないか。


するとヒカリは呆れたような、決心したような顔で近づいてくる。

俺の家の前まで来たヒカリはやけに赤く、熱でもあるのかと心配になる。

なのにあんな呆れたみたいなことを言われれば誰だって腹が立つに決まって―――。


「これ。あんたに。」


へ?

と、みっともないアホみたいな顔で俺は自然にそれを受け取る。

ヒカリは来年は受験だから―とかいって足早に帰っていった。

俺は自宅の前で呆けながら、手にあるものを見つめる。


ハート型のチョコ。


王道を行く形だ。実際、俺には無縁の日だと高を括っていたので忘れていた。友達に尻に喝を入れたが、それは今日が特別な日ではなく、いつもの延長線上の出来事だと思っていたにすぎない。

だが、違った。今日は特別な日だった。誰でも可能性はあったんだ。


そう、今日はバレンタイン。


俺はハート型のチョコを一口食べた。

甘くてとろける濃厚な味。


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