18 追伸:「死を覚悟した夢」

追伸

 ぼくが以前、明晰夢ではない通常の夢の中で、無重力状態なるものを経験済みだと言えば、ひどい後出しになるだろうか。だが、それはいずれにせよ、ぼくたちが従事してきた議論とその結論に関して、何ら価値ある貢献をしないことは、明白である。まずは、以下の夢の報告に目を通されたい。


「死を覚悟した夢」

 父と二人でホテルに滞在している。かなり広い部屋であり、大きな家具と電化製品が備え付けてある。寝ようとしていたのか知らない。室内は、明かりが消えて暗かったように思われる。

 そのとき、わけのわからないことが起きた。大きなテレビがひとりでに動き出したのである。テレビだけではない。あらゆる家具が、右から左へ、勝手に動き始めたのである。ぼくは動こうとするテレビを必死に手で押さえていた。説明がつかないことが起きていることは、はっきりしていた。とても不安だった。

「出よう」

 どちらが言ったのか、覚えていない。とにかく、それは正しい判断である気がした。父は、ひとりで先に部屋から出て行ってしまう。父とは、たぶんそれきりである。ぼくは荷造りに手間取っている。一刻も早く、この気味の悪い部屋から立ち去りたいが、荷物を残していくわけにもいかない。

 ここに、起きてから思い出そうと努めたエピソードがある。それは重要なものである気がするが、どうしても思い出すことができない。この夢は、非常に長かったのであり、大部分の記憶は失われてしまっている。

 ぼくと、中学時代の同級生で、同じ部活の友人Oは、落としたり、落とされたりしている。これがどういうことなのか、いまいちはっきりしない。「落とす」とは、たぶん罠にはめることを言うのである。Oがぼくに明確な悪意を抱いていたという考えは、ぼくの中にはない。だから、どうしてそうなったのか、理解できないことである。

 最終的に、Oが、ぼくが落としたというより、勝手に落ちた。エレベーターの入り口から下に落ちて、その上から、人の乗った箱が降りてくるのが見えた。ひどいことになったと思った。大学時代の友人たちが、その様子を目撃していた。この事故は、ぼくが意図してやったことだと信じられていて、誰かが復讐のためにぼくを殺しにくるかもしれなかった。

 緑豊かな風景に、遊園地にあるようなロケットが見える。どこか見覚えのある、おもちゃのようなロケットだった。そばに誰がいたかは、よく思い出せない。しかし、ロケットに乗り込むようぼくに指図したのは、友人Kであった。ぼくは、罠にはめられているかもしれないと思った。どうしてそう思ったのか? たぶん、命が狙われていると思っていて、誰も信じられなくなっていたのだろう。

 あのロケットには、見覚えがあるし、大丈夫かと思った。友人を信じたい思いもあった。というより、裏切りを信じたくなかったのである。しかし、ぼくは宇宙に飛ばされてしまった。あっという間に、星がきらめく宇宙空間まで来た。突然、ぼくの前のハッチが開いた。ぼくは宇宙空間に投げ出された。

 寒い。冷気が、肌を指すようだった。宇宙が真空であることは知っている。生きられるわけがない。確実に死ぬだろうと思った。ぼくは、自分の死をさとったとき、強くこう思った。『死にたくない! まだやりたいことがある!』そこで夢はとぎれた。

 目が覚めると、ひどく寒かった。寝るときに暑かったので、上半身は毛布をかけずに寝てしまっていたのだが、気温が思いのほか下がり、体が冷たくなっていた。さきほど宇宙で感じた冷気は、このせいだったのかと思う。そして、当然のことであるが、ぼくは死ぬのが嫌なのだと思った。


コメント

 ぼくが無重力状態において経験した感覚は、寒さだった。そして、感情的には、死を前にした恐怖だ。そのこと自体はどうでもいいことである。この夢でぼくが示唆したかったことは、こうだ。夢は、ぼくの心の外にあることについては、新たなことを何も教えないだろう。しかし、心の中にある、はっきりしない事柄を明確にすることに、夢は時として役立つ。この夢を見るまでは、ぼくはいつ死んでもかまわないと思っていたのだ。しかし、それは真実ではなかった。そのことに、死ぬ直前に気づくよりは、夢の中で気づけてよかった。

 夢の経験は人生に影響を与えうる。その夢を見る前と見た後で、その人の生活の態度や行動に明確な変化が生じるという意味で、夢は決定的な影響を及ぼすことができる。(この影響は、現実の代用として、あくまで合理的な種類のものである。夢と現実の違いは、夢では何が起こっても、取り返しがつくということにすぎない。)ぼくは、事のついでに、そのことをきみに示唆したかったのである。

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