4 追伸:「浜辺の情景から始まる明晰夢」

追伸

 ぼくが二番目に見た明晰夢について報告しておく。内容はいささか面白みに欠けるが、参考まで。


「浜辺の情景から始まる明晰夢」

 実家のトイレの洗面台の前にいたとき、ふと窓から外を見ると、家の前が砂浜になっていた。潮が満ちてくると家が水に浸かりそうになるくらい、波が押し寄せてきていた。ぼくはこう思った。『このような立地に家を建てることは、ひどくばかげたことだ。ありえないことだ』

 そのとき、『これは夢じゃないのか』と思った。洗面台の前で、自分の左手を眺めてみたが、夢とは信じられないくらいリアルだった。それから、ぼくは外に出てみた。外の状況を、もっとよく確かめたかったからである。玄関から出たのか知らない。気づくと外に出ていた。

 夕暮れの浜辺で、しばし海の様子に見とれた。実は、このときはまだ、自分が夢を見ているのかどうか、半信半疑だった。視界の左方には、見慣れぬ山があった。海は、津波でも来ればこのようになるかもしれないと思ったが、山はどう考えても移動してくるわけがないので、『やっぱりこれは夢だ』と思った。

 ぼくは浜辺を離れた。もっといろいろなものを観察してみたかったからである。家の裏手の空き地に行くと、うちの自動車が駐車されていた。それはかつて父が所有していて、ずいぶん前に廃車になったハイエースだったが、そのときは思い出さなかった。

 ぼくは車の様子を観察してみた。一見すると普通だが、よく見ると、前面にある通風口が明らかにおかしかった。『やはり現実とは齟齬があるな』と思って、側面に回ってみると、自動車のドアがなんと玄関のドアになっていた。それを見て、ぼくは思わず声を出して笑ってしまった。

 それからぼくは、誰か人間を探そうと思って、商店街のほうへ向かった。しかし、誰とも出くわさないまま、時間だけが過ぎていった。気づくと、周囲はすっかり暗くなっていた。ぼくは不安を感じて、どこか安全な場所に移動しようと思った。街灯のある暗い道を、どこかで見た覚えがあるアパート群のところまで行った。

 ところで、このときにはすでに、ぼくは夢を見ているということを忘れており、通常の夢に移行してしまっていた。道路の向こうから小学校の同級生Sがこちらに歩いてきたので、ぼくはSに『おい、また明晰夢が見れたぞ』と自慢しようと思ったが、実際にはそうしなかったし、たぶんSと会話してもいない。

 それからどうなったのかは、記憶が曖昧で思い出せない。数学の試験を前にして、参考書を見て勉強しようとしているところで目が覚めたと思う。


コメント

 本来なら、自分がいま実家にいるはずがないという理由だけで、夢だと断定できたはずだが、そうなっていない。おそらく意識の覚醒度が低かったのだろう。この夢は、最初の明晰夢と比べて、思考がかなり不完全である。

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